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━━━生活者通信メルマガ版━━━━平成25年5月1日 Vol.112━

TPPへの交渉参加表明は取り下げろ

                      生活者主権の会  板橋 光紀

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 安倍首相は2013年3月15日、日本がTPP(環太平洋経済連携協
定)に加盟する為の「交渉に参加する」ことを表明した。TPPと
は如何なる内容のものなのかは、「交渉の結果が出てみなければ正
確なことは判らない」の一点張り。国民に十分な説明をする事なし
に、とにかく「交渉に参加」して、先々のことは「走りながら考え
よう」としたものらしい。

 為政者もメディアもTPPだけを取り上げて声高に論評している
ものの、日本がTPP以外にも似たような重大テーマをいくつも抱
え込んでいることを指摘する人は少ない。

 その僅か10日後の3月25日、日本とEU(欧州連合)はEPA
(経済連携協定)について「交渉を開始する」ことに合意した。ギ
リシャの債務問題に端を発した欧州の経済危機が未解決のところへ、
最近新たにキプロスの金融危機が加わって来た。イタリアも不安定
だ。そこへ日本が経済協定の交渉に出ていくと、「飛んで火に入る
夏の虫」に見えてくる。

 更に翌日の3月26日、日・中・韓の3国はFTA(自由貿易協定)
を締結させる為の「交渉をスタート」させた。中国と韓国がTPP
に不参加であることは、早々と1年以上前に表明されていた。TP
Pの内容が多分アメリカ主導で決められて、「欧米先進国型経済手
法」を前提としたルール作りになるものと推察し、東洋の伝統的風
土に馴染まないものであろうことを察知したとの理由による。

 日・中・韓の3国による「東洋型経済ブロック」構築の共同研究
は3国の官民専門家により10年も前から進められて来た。必然的
に、欧米型のTPPと東洋風のFTAは対峙する格好になり、「二
股をかけた日本」がそれらの両方へ加盟すれば、双方の関係国間に
摩擦が生じる度に我が国は「股裂き状態」になりかねない。早速3
月28日の第一回交渉では日・韓が求める「知的財産権」を巡って中
国が反発し、作業部会の設置が先送りされている。

 これら3つのテーマに先立って4ヶ月前の2012年11月にはアセア
ンを中心とした、日・中・韓とインド及びオセアニアを含む16カ
国から成るRCEP(包括的経済連携協定)が「交渉開始を決定」
している。RCEPでは単に経済活動の活性化や関税の減免イッシ
ューにとどまらず、日・中、日・韓、中・フィリッピン、中・越、
タイ・ミャンマー等で領土問題が発生しているからややこしい。そ
して交渉は遅々として進まない。全ての関係国が領土問題を棚上げ
でもしない限り連携協定はまとまるまい。

 4つの違った経済ブロックでの交渉に全て顔を出しているのは日
本だけ。近隣でカヤの外に締め出されているのはロシアだが、これ
とても北方四島の問題が解決の方向へ踏み出されれば日・ロ間でも
何らかの経済協定が締結される運びとなるだろう。

 同じ時期に4つの談判が行われることになり、日本の代表団は各
省の役人と政治家、場合によっては学者や業界団体を加えた専門家
チームが4セット編成される筈だ。長期間に亘って虚々実々の駆け
引きが交わされることになる。生まれも育ちも違う4つの違った経
済圏に於ける国際交渉で、日本の4チームは果たして夫々が一貫し
た主張を押し通すことが出来るだろうか? TPPでは「Yes」
と言明してしまったものを、同じようなテーマでEUとの交渉では
「No」と答えざるを得なかったり、決意した事案に矛盾や差別が
生じていたりしないだろうか? 古い物差しをあてて島国根性丸出
しの自説を展開し続け、恥をかくことにならないだろうか? 私ひ
とりのとりこし苦労であってほしいが、結局多くの国々から受け入
れられず、日本の交渉参加が「田舎へ喧騒を持ち込んだ」だけに終
わりそうな気がする。四面楚歌とはこの事を言うのだろうか。2010
年10月に「酪農等の市場開放が不十分」との理由でカナダはTPP
への参加を断られた例もあるからだ。

 そもそもTPPの目的はブルネイ(人口30万人)、チリ(15
00万人)、ニュージーランド(300万人)、シンガポール(3
00万人)の、地理的に離れ、殆ど利害も共通点もない4つの小国
同士が弱小ながらも肩を寄せ合って、戦略的提携によって少しでも
市場のプレゼンスを上げることにあった。だからこの「連携協定の
精神」は超大国や経済大国の参入を前提としてはいない。

 参加を断られそうなのは日本だけでなくアメリカも同様。アジア
のみによる経済ブロックの形成を懸念していたが、自らが「TPP
の拡大」を推進することにより、「アメリカ締め出し防止」になる
と計算しているようだ。アメリカが入ると「野蛮な経済行為」を容
認させられ勝ちだ。「万機公論に決しない」事が多い。後から参加
を申し出て来たにしては「押しかけ女房が土俵の真ん中へ躍り出て」
嫁ぎ先の家風を根底から覆そうとしているかの様に映る、文字通り
の「パンアメリカ二ズム(汎米主義)」そのものだ。

 TPPを推進するにあたり、オバマ大統領は20を越える業界毎
に準備作業部会を発足させた。主だった部会の座長やコアメンバー
をみると、

金融。。。。。シティーグループ
通信。。。。。AT&T
建設。。。。。キャタピラー、べクテル
航空機。。。。ボーイング
飲料。。。。。コカコーラ
物流。。。。。フェデックス
小売業。。。。ウォルマート
メディア。。。タイム、ワーナー
IT。。。。。IBM、ヒューレットパッカード、インテル、
       マイクロソフト
医薬品。。。。ファイザー、ジョンソン&ジョンソン
医療。。。。。先進医療技術協会
保険。。。。。生命保険協会
農業。。。。。カーギル、モンサント、アメリカ大豆協会、
       トウモロコシ精製協会、全米豚肉生産者協議会

等が名を連ねていることから、日本が参加するに際し乗り越えなけ
ればならないハードルの高さと輪郭がおぼろげながら見えてくる。
事は関税の減免に留まらず、自由化、つまり無差別に「非関税障壁
の撤廃」を強要されることになる。私は非関税障壁の殆どを取り払
うことには賛成だが、存続させる必要のある規制が幾つかあること
も認識している。参加に必要なハードルを文字で表すと、

1. 物品の貿易
2. サービスの貿易
3. 政府調達の開放
4. 知的財産権の認識統一
5. 労働力交流
6. 環境協力協定
7. 電子商取引自由化
8. 衛生・検疫の簡素化
9. 投資障害除去
10.貿易の技術的障害撤廃
11.原産地定義の統一
12.通関手続きの簡素化
13.透明性の徹底
14.紛争解決・貿易救済措置
15.行政・制度の協定
16.関税自主決定権の放棄

となり、アメリカからは下記3項目を追加するよう強く提案されて
いる、

17.投資保護の明記
18.市場開放規定
19.紛争の仲裁機関に国際投資紛争解決センターを指定
   (ISD条項)

これらの全てを遵守すると、日本が失うものは計り知れなく大きく
て、得るものは極めて少ない。時間をかけて交渉しても、小出しに
譲歩を続け、結果的に「全面敗北」又は「協定参加をギブアップ」
の限られた2つの選択肢だけが残される可能性が高い。自らを自身
の手で窮地へ追い込んでしまい、どちらを選択しても内外に大きな
「しこり」を残すことになりそうだ。太平洋戦争の開戦前夜に居合
わせたような心境だ。

 いっそのこと、私は4つの協定参加を全て辞退することを強く提
案したい。その理由は多々あるが、以下に重要な2つだけを挙げて
おこう:

その(1)・・・・・「協定締結者でなければ、協定が遵守義務と
して要求する倫理や価値観から自由でいられる」。但し、参加・不
参加に拘わらず輸入関税は全て取り払うことを願っているが、「例
外」を設けるならば、せめて国民の90%以上を占める庶民(中・
下層階級)が主食としているコメ、小麦粉、大豆、砂糖、バターと、
酪農に欠かせない飼料用トウモロコシ、それにガソリンと灯油だけ
は現状価格がこれ以上値上げされないように配慮されなければなら
ない。我々はテネシーのバーボンウィスキーやフランスの高級ワイ
ンがいくら値上がりしようと、メルセデスベンツや高級ファッショ
ンの供給が止められようと一向に構わない。不可欠なサービスや物
資の流通と適正な市場価格は非関税障壁の撤去と輸入関税率をいじ
るだけで、日本人が勝手に決められることなのだ。

 電力会社が自らの手で産油国から石油やLPGを買い付けしたり、
政府が小麦粉を一括買い付けしたりはしないほうがいい。総合商社
を省いて、貿易実務や海外での商談に素人の役人や独法の職員が輸
入業務を行うことにより、「ジャパンプレミアム」などといった奇
妙なバカ高い値段を吹っ掛けられるのがオチだ。

 外圧を気にすることなしに、日本が自主的、段階的、そして計画
的に自由化と関税の減免を実施、北朝鮮等の問題国以外は全世界の
国々へ差別なく適用すべきだ。それは「コカコロニアン(アメリカ
植民地化)」の汚名を返上し、貿易立国の手本ともなり、どの国か
らも賞賛されると確信する。

その(2)・・・・・国連は50年以上前から、南北の格差を縮小
させるために
UNCTAD(国連貿易開発会議)
GATT(関税と貿易に関する一般協定)
OECD(経済協力開発機構)
WTO(世界貿易機構)
等を次々に発足させ、先進国は途上国からの輸入を拡大し、「特恵
関税」を適用する等の方法で途上国の発展を助けるべし。一部の国
又は地域で個人的にグループを結成してはならない。地域内での優
先や待遇が地域外との間に格差や差別を生むことから「紛争の種」
となる為、自由貿易が平和目的であっても特定地域での経済や貿易
を含む「協定の締結は避ける」ことを繰り返し決議して来た。

 TPPもFTAも、参加する行為は「国連決議に違反する」こと
になる。日本が「国連中心主義」を標榜するのなら、「国連決議を
率先して守る」べきだ。自衛隊の海外派遣のことになると速やかに
「特措法」を通過させて、国連旗の下に馳せ参じるのに、自由化の
ことになると国連決議を無視するのは整合性がとれない。ここは
「走りながら」は止めて,一旦「立ち止まって考え」たらどうだろ
う。

「著者・板橋光紀氏関連のHP」
http://www.seikatsusha.org/ne/it/


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(マガジンID:0000146184)

−「創刊号」 2005年01月01日発行−
≪2005年05月01日現在読者数:1342名≫


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