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━━━生活者通信メルマガ版━━━ 平成28年4月1日 Vol.136 ━

だまされた難治患者たち―患者申出療養制度の欺瞞

                       生活者主権の会 清郷 伸人

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 昨年6月、政府は2016年度から「患者申出療養」(仮称)を創設
すると表明、厚労省は11月の中医協で制度の詳しい資料を発表した。
それは政府の素案からは一部後退した内容もあったが、全国の難治
疾病に苦しむ患者からは多くの希望と期待を寄せられるものだった。
筆者は政府の声明を報道する共同通信からコメントを求められ、仕
組みづくりの過程で骨抜きにされないよう願っていると答えた。

 ところが今年2月24日のNHKクローズアップ現代「広がる“混
合診療”患者は救われるのか」を見て、筆者は初めて患者申出療養
制度の実体を知り、その本質が既存の制度と何も変わっていないこ
とがわかり、愕然とした。制度のスタート1か月前でも厚労省のホ
ームページで患者申出療養の情報は、中医協で発表した2015年11月
までのものしかない。

 制度の枠組みでは、患者が申し出た保険外治療は、日本で前例が
ない場合、国が設置した専門家会議で、原則6週間以内に患者申出
療養として認めるか否かの結論を出すことになっているが、番組に
よると、審査の判断基準はその治療に一定の有効性や安全性などが
確認でき、かつ保険収載を前提に臨床研究が行えるものに限定され
るというのである。これは、現在の保険外併用療養費制度で評価療
養とされる先進医療を認定する判断基準とほとんど同じである。た
だ先進医療が、医師の提案によって国の定めた医療機関できわめて
厳格な条件に合致した患者を対象に臨床研究を行う点が違うのみで
ある。入口は二つになったが、出口は一つで、狭き門であることに
変わりはない。政府の決定では、患者申出療養は、患者の立場で混
合診療を大幅に拡大するものだったはずである。

 患者申出療養の判断基準が先進医療のものと同じになるのは当然
で、妥当だと考える人も多いと思う。しかし、患者申出療養の本質
は、難治患者の治療である。評価療養が治療より研究に重点が置か
れているのに対し、治療を最優先とする医療なのである。そうなる
はずの患者申出療養が厚労省官僚によって骨抜きにされ、内閣も通
過した。

 臨床研究重点の判断基準と治療最優先の判断基準が、患者にとっ
てどれだけ大きな違いか。番組では、先進医療への樹状細胞ワクチ
ン療法の臨床研究が紹介されていた。現在は大腸、すい臓、乳がん
など5種類のがん患者を対象に行っているが、国から有効性をさら
に明確にするためにより厳しい基準で臨床研究を行うよう求められ
たため、今後はすい臓がんのみを対象に他のがん患者は対象から外
すことになるらしい。医師は保険収載のためにはやむを得ないがジ
レンマを感じるという。この例が示すように、医師本位の先進医療
では、難治患者は救われないのである。

 治療を最優先とする本来の患者申出療養では、このワクチン療法
はすべてのがん患者が対象になるであろう。また筆者の乏しい知識
で挙げても、先進国承認の薬剤などは個人輸入されているようなも
のも含めて付帯情報に注意しながらもほとんど認められるだろう。
現在日本に設置されている重粒子線などの放射線療法も、ある程度
科学性のある免疫療法も対象になるだろう。

 患者申出療養といっても、患者が無知盲目的に申し出るのではな
い。自らも探求し、主治医とも十分に協議して、経済的にも考慮し、
納得して申し出るのである。さらに判断基準である有効性は、難治
患者にとって科学者や医師とは異なる意味を持っている。臨床研究
の結果、たとえば薬剤は20%前後を境に有効性が決められるらしい
が、患者は自分が10%のうちに入るかもしれないと考える。安全性
についても治験に臨むのと同じである。治験でさえ患者は試験や研
究のために参加しているのではない。治りたい、助かりたいのであ
る。

 番組で明らかにされた患者申出療養制度は、保険治療の尽きた難
治の患者の期待を裏切り、希望を挫くものである。治療の選択肢は
広がらず、患者たちは、旧態依然の惨状に留め置かれることになる。
患者申出療養が難産の末誕生した時点で、混合診療の不毛な神学論
争には終止符が打たれたはずである。命が金次第になる、医療平等
が壊れる、有効性・安全性のない医療が跋扈する、不当な医療費を
請求される、患者がモルモットになる、先進医療の保険収載が遠の
く、国民皆保険が崩壊する等々―患者申出療養の当初の制度設計で
はそれらに配慮して、実施する医療機関を限定し、承認の審査機能
を確立したのである。それにもかかわらず内閣の作った新しい器に
盛られた中身は、神学論争に戻った時代の、患者の治療向上に寄与
しない、カビの生えたものだった。しかも国の専門家会議での審査
はたった10人程度で行われるという。厚労省は制度が患者の思いに
応えるものと胸を張るが欺瞞であり、恥知らずである。内閣も官僚
に制度設計を任せるとどうなるかを知り尽くしているのに、みすみ
す骨抜きを見逃したわけで、国民本位の規制改革はポーズだったと
いわざるを得ない。


「著者・清郷伸人氏関連のHP」
http://www.seikatsusha.org/ne/kiyosato/


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(マガジンID:0000146184)

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