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━━━生活者通信メルマガ版━━━ 平成28年9月1日 Vol.139 ━

税金の効用と副作用−消費税とマイナス金利

                       生活者主権の会 松井 孝司

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消費税の実態は法人税−中小、小規模事業者を弱体化する!

 アベノミクスが期待通りの経済効果を生まないのは金融緩和と財
政出動というアクセルを吹かしながら消費税の増税というブレーキ
を踏んでしまったからである。アクセルとブレーキを同時に踏んだ
ら前進することはできない。

 減税を行ってデフレ経済を克服すべき時に「社会保障と税の一体
改革」と称して納税の実態を調べることなく机上の計算にもとづき
消費税の増税を決めたのは間違いであった。生活保護、障害者支援
以外の社会保障は受益者負担を原則とし必要経費は保険料で充当す
べきだ。

 消費税の納税は事業者が毎年確定申告を行って納税義務を果たし
ているが、消費税は消費者負担分の預かり金という名目で強引に徴
収されるので収益の少ない弱小の事業者には耐えがたい過酷な税制
になっている。

 消費税を導入した1989年(平成元年)以降、日本経済は迷走をつ
づけ消費税は増収になっても国内総生産(GDP)が増えないため税収
総額は減少の一途をたどり、政府のGDP比債務残高は249%に拡大し
てしまった。(2016年度 IMFによる推計)

 消費税の実態は中小、小規模事業者を弱体化する法人税であり、
従業員の給料を上げるどころか消費税滞納に対する追徴課税のため
に倒産する事業者もある。年間約6000億円の税金滞納額の50%以上
が消費税の滞納であり、地方消費税を含めた消費税の累積滞納額は
数兆円の規模に達するのではないか? 

 小規模事業者が過酷な消費税の徴収を容認しているのは売上1000
万円以下の事業者が納税義務を免除されているからである。売り上
げ5000万円以下の事業者も「みなし仕入れ率」で消費税の確定申告
に曖昧さが許され「ねこばば」しやすい税制になっていることが救
いなのだ。

 注目されるのは非製造業を対象とした中国の税制改革である。中
国では企業の売り上げにかける「営業税」を廃止し、粗利にかける
「増値税」に一本化したという。(日本経済新聞2016年5月2日朝刊)

 領収書発行の専用機器が必要になるため企業の事務負担は重くな
る。しかし、不動産の場合税率は「営業税」3%から「増値税」11
%に税率は上がっても実質的には減税になり、税制改革による減税
規模は3000億元になるとされる。

 サービス業など輸出がなく仕入れが少ない非製造業の場合、日本
の税制では収益が売り上げの10%以下で売上の8%課税は粗利に対
して80%以上の税率になり、納税で利益は吹き飛び弱小企業を債務
超過に追い込む。2015年の倒産件数8812件に対して休廃業や解散し
た企業は26699件もある。アベノミクスで倒産は減ったようにみえる
が2000年と比べれば事業継続を断念した企業が6割増え、倒産件数
は3倍に達する。

 日本の企業総数約390万の99.7%を占める中小、小規模事業者
の収益が増えなければ日本経済の成長は無い。資金循環の不合理が
日本企業を弱体化させ日本経済を迷走させるのだ。

 安倍内閣が国民の消費、産業活動に悪影響を及ぼす税率10%への
消費増税を2年半延期することを決断したのは賢明であった。2年
半の延期期間を消費税納税の自動化、ICT化(コンピュータ化)
を促進してインボイス方式の消費税(=付加価値税)に変更する準
備期間に当て納税事務の簡素化と効率化で事業者の負担を軽減し、
付加価値が少ないサービス業、農林業などの事業に対しては消費税
の税率ゼロまたは5%の軽減税率を導入し、売り上げ1000万円以下
の小規模事業者にも収益に応じた税負担を求める税制に是正すべき
だ。

 2020年度までに名目GDP600兆円を達成し基礎的財政収支を
黒字化するには減税を含む合理的な税体系の確立が不可欠である。


マイナス金利はメリットが多く
           副作用の少ない金融資産課税である!

 マイナス金利は元日銀マンの深尾光洋氏が2001年刊行の著書「日
本破綻」(講談社現代新書)でデフレを脱出し財政破綻を回避する
ために提案した処方箋の一つであり、強力な実物資産の買いオペで
量的金融緩和を行っても効果が不十分なときデフレが継続する期間
だけ政府が保証する金融資産の残高に課税する政策である。

 マイナス金利政策は金利で稼ぐ銀行には不利だが借金返済に苦し
む中小、小規模事業者にとって減税と同等のメリットがある。
約1700兆円の個人金融資産を貯蓄から消費と投資にシフトさせ日本
の経済成長を促進する効用も期待できる。

 深尾氏によればデフレスパイラルの行き着く先は止めようのない
インフレであるという。デフレはお金の価値が上昇させるが税収を
減らし財政赤字の削減と国債の償還を困難にして財政破綻のリスク
を高める。デフレ不況と財政破綻は表裏一体の経済現象なのだ。

 深尾氏が提案する課税方法は毎年発行する日銀券の色とデザイン
を変更し、古い日銀券を新しい日銀券と交換するときにマイナス金
利に該当する手数料を徴収して納税に当てるという手法である。

 新しい貨幣を発行するために相当の費用がかかる上にATMや自
動販売機のソフトウエア変更で大混乱が予想されるが、この方法な
ら銀行預金だけではなくタンス預金にも課税できるし、マイナス金
利の税率を高くすれば確実にデフレから脱出できると期待される。

 ケインズは著書「雇用・利子および貨幣の一般理論」の第23章で
貨幣の利子率を引き下げるための処方箋としてシルビオ・ゲゼルの
印紙(スタンプ)付き貨幣を紹介している。流通する貨幣に新しい
収入印紙を添付する方法で課税するのも一案である。

 証紙付き貨幣や新貨幣の発行は終戦直後のハイパーインフレを克
服した手法でもあり、デフレ脱出だけではなく財政破綻時の預金封
鎖にも役立つ。

 2016年2月に日銀が導入したマイナス金利策は日銀口座に各金融
機関が持つ当座預金残高の一部に−0.1%の金利をつけるもので、
このような銀行の収益に配慮した微縫策でデフレからの脱出は難し
い。

 マイナス金利は政府により保証される金融資産の名目価値をカッ
トする貨幣価値の削減策である。日本政府の債務残高がGDP比
200%を超えても金利負担が増えず、ゼロまたはマイナス金利が
実現するのは資本主義が変質して社会主義化し金融システムが政府
主導となり価値の媒体となる貨幣が兌換性のないバーチャルな存在
になって信用さえあれば際限なく発行できるようになったからであ
る。

 貨幣の価値は国民の政府に対する信用で維持され政府・日銀が発
行する円は国民共有の資産とみなすべき存在になり、返済不要の現
金をばら撒くヘリコプター・マネー策が提案されるようになった。
安倍内閣が実施を予定する低所得者対象の一人15000円の現金給付
はヘリコプター・マネーそのものだ。

 マイナス金利が実施されると課税される金融資産から非課税資産
へと資金運用のシフトが起こる。非課税の外貨資産へのシフトが起
これば円安になる。非課税資産に付加価値を生む国内資産を選定す
ればゼロ金利で滞留する預金717兆円が収益を生む資産にシフトし
て日本の経済成長に大きく貢献し税の自然増収も期待できるだろう。

 GPIF(政府年金投資基金)が2015年度5兆3098億円の評価損
を出したため年金基金を株で運用することを一部のメデイアと野党
は批判しているが投機筋の思惑による円高・株安を許してしまった
ことが損失発生の原因である。ヘッジファンドなど投機筋の金融操
作による円高を許していてはさらに評価損が拡大する。

 1ドル360円の超円安の為替レートが戦後日本経済の高度成長を
実現し、1ドル80円の円高が日本にデフレをもたらし税収を減らす
一因になった。アベノミクスで年間の税収総額が50兆円を超えるよ
うになったのは量的金融緩和で1ドル120円の円安を実現させたから
である。1ドル80円の円高に戻したら元の木阿弥だ。

 為替レートの乱高下を阻止するには政府・日銀の臨機応変の対応
が必要であり、円高を阻止する金融操作こそ知力と外交力を必要と
する平時の戦争なのだ。

 世界で最も高率のマイナス金利を実現しているのはスイス国立銀
行で現在−0.75%のマイナス金利が導入されているが、目的はスイ
ス・フラン高を阻止するためである。円高阻止のために先例となる
スイス国立銀行が実施するマイナス金利の利率と金融操作を検証し
参考にしなければならない。

 マイナス金利の実施はデフレと通貨高に苦しむ国家と特定の期間
のみに許される特権であり、いつでも実施できるものではない。デ
フレ経済がインフレに変わり通貨安が定着したらマイナス金利政策
は中止しなければならないが、量的金融緩和に比べれば出口戦略は
容易だろう。インフレ・ターゲットを設けて常時監視しデフレやイ
ンフレの兆候に応じて金利の利率を随時変更するだけで金融市場が
反応し、日銀が買い入れた巨額の実物資産を売却する困難な金融操
作を必要としないからである。


「著者・松井孝司氏関連のHP」
「市民が創る日本再生のシナリオ」
http://www2u.biglobe.ne.jp/~shimin/saisei/
「21世紀のライフスタイルを考える会」
http://www.jstyle21.net/
http://www.seikatsusha.org/ne/ma/


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(マガジンID:0000146184)

−「創刊号」 2005年01月01日発行−
≪2005年05月01日現在読者数:1342名≫


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