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━━ 平成17年11月14日 Vol.24 ━━━━ 毎月1日・14日発行

原油高騰にどう対処する?
                  生活者主権の会 板橋 光紀

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 原油の価格が2年前の1バレル35米ドルから2倍の70米ドル
へと急騰してしまった。業界の専門家に言わせると、価格はこの先
更に上昇し、85米ドルから90米ドルあたりにまで値上がりする
可能性もあるらしい。2005年9月14日、アメリカの航空会社
第3位のデルタ航空と第4位のノースウエスト航空が、航空機燃料
の高騰などで経営が行き詰まり、自力再建を断念、ニューヨークの
連邦裁判所へ民事再生法の適用を申請した。
 日本でも原油高騰の煽りを受けて、「風が吹けば桶屋が儲かる」
の感なきにしもあらずだが、「納豆と蒲鉾の業界」が窮地に陥り、
販売価格の値上げを余儀なくされているとの報道があった。

 あらゆる業界に共通する頭痛の種ではあろうが、とりわけガソリ
ンの価格が企業の業績へストレートに跳ね返って来る「運送業者」
や「流通業者」にとって、今回の原油高騰問題は深刻だ。長いトン
ネルをようやく抜け出して、少しは景気が上向きに転じた兆しの見
える日本経済に冷水をかけることにならねばと心配である。

 これに対し、去る9月末にテレビ出演した中川昭一経済産業大臣
は、局面打開策としては印象稀薄であるが、以下の3つの対応策を
表明している:

その1・・・尖閣諸島の日中海域中間線付近で天然ガスの採掘を開
始している中国には直ちに作業を中止してもらい、中国側がこれま
でに集めた資料の開示を求め、経産省が免許を与えた帝国石油によ
る今後の調査・採掘作業の安全を計る。
筆者の評・・・これらはいずれも歯切れが悪く、非現実的で、中国
側が回答を引き延ばししたり、日本の申し入れを無視又は拒絶した
りすれば無力に終わる。仮に素直に同意して来たとしても、未確定
の排他的経済水域の線引きを、台湾を含めた関係する3当事国で話
し合う作業から始めることになる筈だから、日本人による天然ガス
の収穫は何時になるのか判らない。帝国石油による作業の安全確保
に自衛隊を出動させることにでもなれば、戦争沙汰にも発展しかね
ない。

その2・・・化石燃料に代わるクリーンエネルギーの開発を急ぐ一
方、原子力発電を推進する為に安全対策を建て直し、国民の原発に
対する信頼回復に努力する。
筆者の評・・・最近になってスイス、ベルギー、スエーデン、フィ
ンランドの4ヶ国が「脱原発を見直す」方向に転じ、アメリカのブ
ッシュ政権と中国の胡錦涛政権が相変わらず原発新設を積極的に推
進する声明を出しているが、世界の趨勢としては、エネルギー不足
を耐え偲び、化石燃料や原子力を頼らず、時間がかかるとしても
「クリーンエネルギー」を選択する方向にある。とりわけ日本人の
原発に対するアレルギーには根強いものがあり、新設はおろか、既
存の施設維持にすら反対する住民運動の圧力は益々高まっている。
 将来、安全に関する諸問題をクリアー出来て、市民の支持を取り
付けて、原発の新設を可能とする日が来るとしても、そこへ辿り着
くまでには長い年月を要し、差し迫った今の原油高騰問題を解決す
る「即効薬」とはなり得ない。

その3・・・郵政の民営化と四分社化を急ぎ、郵貯残高227兆円
を活用して、困窮する中小企業へ緊急融資を行う。
筆者の評・・・困窮する中小企業は緊急融資を受ければ、それが生
命維持装置となって一時的に倒産を免れる延命効果はあるかもしれ
ないが、原油高騰で窮地に陥った企業はガソリンと石油製品の購入
価格が元の値段に戻らない限り業績を回復させる復元力とはなり得
ない。
 郵貯資金を中小企業へ融資する目論見は、石原都知事の発想でス
タートした「新銀行東京」が失速状態に陥っていると同様に、「絵
に描いた餅」で、失敗に終わる可能性が高い。元郵便局員に俄か勉
強で融資業務や審査技術の特訓を施したところで、彼等に227兆
円の資金を仕切らせるには心許ないから、リストラされた元銀行員
を大量に採用することになり、彼等の再就職には貢献するかもしれ
ない。
 しかし新銀行東京にも見られるように、彼等は銀行員時代の常識
を抱えたまま掛かって来る筈だから、「融資を受ける資格のある恵
まれた中小企業には資金の借り手がない」のと「赤字と債務超過で
倒産の瀬戸際に立たされている困窮零細企業には貸さない」といっ
た、機能不全な金融機関に成り下がるであろうことは、都議会で新
銀行東京事業を受け持つ経済・港湾委員会のメンバーであった大津
浩子議員に聞けば判る。

 そこで筆者は「即効性のある提案」を試みたい。それは「ガソリ
ン税を大幅に下げる」ことだ。現行のガソリン税はレギュラーガソ
リンの場合、揮発油税の48.60円と地方道路税の5.20円で
成っており、1リッター当たり合計53.80円もかけられている。
 ガソリンが1リッター100円の時代はその半分以上が税金であ
ったことになる。
 今、原油価格が70米ドルに値上がりして、レギュラーガソリン
は1リッター130円前後になり、経済界は皆頭を抱えているが、
ガソリン税を単に53.80円から23.80円へ減税することに
よって直ちに元の100円に戻る単純計算が成り立つ。近い将来に
原油価格が90米ドルにまで上昇して、今の税率を据え置いた場合、
レギュラーガソリンは1リッター150円とか160円近くになっ
てしまう計算になるが、それでもガソリン税をゼロにする作業だけ
で100円の小売価格を維持し、パニックを回避出来ることになる。

 ついでに原油等関税1リッター当たり0.17円、石油石炭税2.
04円、軽油引取税32.10円、石油ガス税9.80円、航空機
燃料税26.00円等も全部取っ払ってしまえば景気回復に強いイ
ンパクトを与えるに違いない。消費者も企業もエネルギー事情の好
転や、何時になるか判らないクリーンエネルギー開発の完了を待つ
必要はなく、日本の為政者の決断次第で直ちに遂行し得る作業なの
である。

 しかし実現にはマイナーなハードルが2つある。それは:
その1・・・田中角栄首相の時代に「揮発油税」は「道路特定財
源」と言う名の「目的税」とすることが定義され、道路や空港建設
などの燃料を消費する分野にのみ支出することが定められている。
しかしガソリン税の大幅減税に反対する日本人は皆無に近い筈だか
ら、いかなる法改正であろうとも、絶対安定議席数に支えられた小
泉自民党内閣に不可能はない。

その2・・・揮発油税が入って来なくなることにより、国の歳入を
司る財務省が抵抗して来る可能性がある。 2004年予算の場合、
歳入総額82兆円の内税収総額は41兆円、その中の揮発油税はた
ったの2兆1千億円程度で、全額を失ったとしても税収総額が5%
減るだけだ。原油の急騰が不況の再来を呼び、多くの企業が赤字に
転落、倒産企業が続出すれば国は法人税収入を大幅に減らすことに
なり、どのみち歳入を減らすことに変わりはない。揮発油税を失う
ことが結果的に景気を支えると同時に新たな活性化を促し、企業が
納める法人税の増収額が失った減税額を上回る可能性だってあり得
る。

 2004年の夏、商用でアメリカ・ワシントンに滞在している間
に数人の旧友に会う機会があった。
 ガソリンが70%も値上がりして、「1ガロン2米ドルを超えた
んだよ」と皆ぼやいていた。 1ガロン2米ドルは1リッターが約
55円でしかなく、日本のガソリン価格の半分だ。あれから1年後
の2005年8月末に聞いた最新価格は1ガロン3.20米ドルで、
1リッター当たり90円に値上がりしたものの、日本の現レギュ
ラーガソリン130円よりもはるかに安い。それでも彼等は「これ
以上ガソリンが値上がりしたらアメリカでは各地で暴動が起きるだ
ろう」と真顔で言う。

 国土面積が広く、車の走行距離が長くなり勝ちなアメリカや中国
は、燃費が高いと経済活動が阻害される為、昔からガソリン税が低
く抑えられてきた。
 石油精製会社は国産だろうと輸入品だろうと、原油は今国際価格
で仕入れなければならない時代だから、原油の国際相場はガソリン
の値段にストレートに反映され、人智の及ぶ価格調整は不可能に近
い。
 その点日本では幸か不幸か、ガソリン税が非常に高かったが故に、
産油国の一方的な都合に振り回されることなく、日本人が勝手に決
断するだけで当面の危機を回避し得る環境にある。今この無形の有
利さを活用すべきだ。日本人は国土が狭かった幸運を感謝すべきだ
ろうか。

 多くのテロリストを輩出しているイスラム圏や、反米・反日運動
の盛んな途上国の人々の中に、「キリスト教の生んだ西洋文明が人
類を危機に追い込んだ」と考える人が多い。クリスチャンにはアー
ミッシュに象徴されるストイックさを備えている人は多いから、
「キリスト教の」と決め付けることに異論はある。しかし便利さを
追求する先進諸国の人々にあり勝ちな、飽くなき欲望が「環境破
壊」と「エネルギー不足」をもたらせる図式と、途上国の人々を含
めた人類全員が危機に立たされた「被害者」であると同時に、その
全員が「加害者」でもある論理に反駁する気はない。
 とりわけ日本を含めた先進諸国が経済力や軍事力を背景に、エネ
ルギーの争奪戦、大量消費や、その副作用とも言うべき環境破壊を
続けて来た傲慢さと、早期改善を怠って来た「不作為の罪」は重い。

 「クリーンエネルギーの開発」が叫ばれて久しいが、最近エネル
ギー問題が論じられる場面では「ソフトエネルギー」と言う新語が
多用されるようになった。「ソフトエネルギー」とは「クリーンエ
ネルギー開発」に並行して実行すべき「ゴミを減らす努力」と「省
エネ努力」を合わせた「三点セット」を指す。「隗より始めよ」は
よく耳にする言葉だが、原油の先行きがどう変化しようと、日本の
ガソリン税が下がろうが下がるまいが、我々はせめて市民一人一人
にも実行が可能な「ゴミ減らし」と「省エネ」を率先垂範し、「ソ
フトエネルギー」の開発に協力すべきだろう。ささやかながら、そ
れは人類を危機に立たせた「罪の償い」にもつながることだから。

「著者・板橋光紀氏関連のHP」
http://homepage3.nifty.com/ne/ne/it/


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ー「創刊号」 2005年01月01日発行/2005年05月01日現在読者数:1342名ー

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