<生活者通信メルマガ版>「メルマガ送付のご希望」 「バックナンバー」 (2)━━ 平成18年2月1日 Vol.29 ━━━━ 毎月1日・14日発行 マネーゲームで勝てば英雄なのか!? 生活者主権の会 板橋 光紀 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 先日、雨上がりの香港の町を歩いていた時だった。いっしょに並 んで歩いている香港人の友人が「軒下を歩いた方がいいですよ」と 言うから、「もう雨は止んでいるよ」と答えると、「雨は降って来 ないけど、人間が降って来ることがあるから」と、いささか穏やか でない言葉が返って来た。 数年前から香港では一日平均3人がビルの屋上やアパートの窓か ら飛び降りて自殺する人が居り、しかも下を歩いている人が巻き添 えを食って死傷者が出るなどの災難が続発、深刻な社会問題となっ ていることは新聞・テレビの報道で聞いていた。 親戚や友人知人から多額の借金をして株や先物取引に注ぎ込んで、 「いちかばちか」の勝負に出る。当たれば「億万長者」、外れたら 「自殺」して債権者に勘弁してもらう。こういった風潮が香港では ごく普通のこととしてまかり通っているらしい。才覚を駆使して巨 万の富を得、優雅に暮らす人々が英雄視され、額に汗して僅かな報 酬を得、小さな幸せに満足して細々と生きる人々は、どちらかとい えば「ばか者」のカテゴリーに入れられるようだ。 ルールを守ることの責任感の点では、日本人より香港人のほうが 認識は強いかもしれない。しかし「破産すれば追及を免れる」とか、 「自殺してしまえば債権者は墓場まで追っかけては来ない」もルー ルの内に入れるなら、ルールやシステムの不備こそが責められるべ きで、加害者の賠償責任の範囲は、これまたルールによって「免 罪」されると思いこんでいる人は多い。個人の「誠意」や「性善 説」は裁判や補償談判の場では殆ど当てにできない。「金儲け」ご ときに「命」を差し出すことはないと思うのだが、賭けに外れた場 合、連鎖的に発生する被害者達が先々如何に難儀するかは「想定 外」であるらしい。 経済活動が世界一自由度の高い香港では法人税も約17%と低く、 その地の利を生かして、ややこしい取引の中継点に利用するとか、 トンネル会社を設置したり、本社機能を置くなどの日本企業も多い。 20年程前までは「加工貿易地」として大小の工場が立ち並び、原 材料を輸入して完成商品を生産・輸出する業態が主流であったもの が、工場は次々と中国へ移転、今の香港に工場らしきものは殆ど残 っていない。その結果、規制の厳しい中国では仕事がし難い銀行や 証券取引業などの、主に金融関連の業種が引き続き香港に居残り、 経済の中枢を担うことになる。多くのブルーカラーが職を失い、特 に若い人々ほどホワイトカラーを志向する為、香港人全体のライフ スタイルがドラマチックに変革した。 自由経済、資本主義経済、市場原理は、観念的に「競争社会」、 「学歴社会」、「拝金社会」を誘引することが分かっていても、具 体的な事象としては「情報化社会」、「グローバライゼイション」、 「I.T.革命」、「能力主義」とか「成果主義」に追いまくられる 日々を送ることになる。周りを見回しても多くの人々が、それらの けたたましい喧騒のなかで、「異様」とも言うべき風土を構築して しまっている。そして自らもマヒしてしまい、無意識のうちにその 異様な風土に歩調を合わせてしまい勝ちだ。己を省みる暇もなく、 その異様なマジョリティーを構成する一員となっていることにすら 気づかない人が多い。 香港にはネット投資家とか個人投資家と呼ばれる人が多い。学生 時代から投資や運用に精を出して来た人は、私が長年付き合ってい る人の中にも沢山いる。私はなるべく彼等に重要な仕事を頼まない ようにしている。概して彼等は落ち着きがない。本業よりも個人的 なマネーゲームが気になって、仕事に集中出来ないのではないかと 危惧してしまうのだ。 文章の草案を面倒がり、なるべく電話で済まそうとするせいか、 文章を書かせると下手な人が多い。他人の成功例を聞きつけるとす ぐにその「物まね」に走るせいか、物事を深く洞察して、自身で最 善の道を考え出す訓練に欠けているような気がする。 「電話料がタダ」も香港人ビジネスマンの能力向上に障害の一つ となっていると思われる。正確に言うと「無料」ではなく、料金は 「回線一本でいくら」だから、かける相手が香港域内であればかけ 放題、月に何百回かけようと、1〜2回しか使わずに済まそうが、 電話の所有者が電話局へ払い込む金額は同じ。損か得かの計算が働 くと、必然的に「タダ同然」又は「何回もかけた方が得」みたいな 生活習慣が身に着いてしまう。他人の家へ行った時にも、初めて買 い物に入る商店であろうとも、断りなしにその家の電話を使って平 然としていられる文化も育まれる。 私のサラリーマン一年生の時代には、「ダイヤルする前に先方へ 伝えるべき事柄をメモして、理路整然と話す習慣を身に着けよ」と 教わったものだが、香港では余計なお世話で、言い忘れた事を思い だしたら「又かければよい」となる。だから同じ相手から一日に何 回もかかって来ることがある。広東語はイントネーションの高低幅 が広いから、大声で話す国民性と相まって、外国人から見ると、香 港人同士の会話は他愛ない内容であっても、声を荒げた「喧嘩調」 に聞こえる。大勢の人が集まる所ほど「喧騒のボルテージ」は高く なる。食事の時間帯にレストランに居ようと、通勤途上の地下鉄車 内であろうと、あっちでもこっちでも「電話中」の光景が目に入り、 耳障りである。 最近の日本にもあったが、時々証券取引の場では「誤入力」、 「誤操作」、「誤作動」などによる「システムトラブル」もあり、 「大損害」や、その反対に「ぬれ手で泡」みたいな「不労所得」が 転がり込んで来ないとも限らないから、ファストフードで腹を満た し、自前のアンテナは四六時中世界中の出来事に目を光らせると同 時に、相場のアップダウンに集中していなければならない。まるで 絶叫マシーンの真下で暮らしているような環境におかれる。長期間 香港に滞在していると、私は情緒不安定になりはしないかと心配に なる。香港を発つ日になると少しほっとするが、車で空港へ着くと、 出発ロビーの中央に据えられた5メートル四方の巨大なスクリーン に、24時間ぶっ通しで流れる相場の速報が嫌でも目に入り、追い 討ちをかけられた気分になる。 私は香港を老後の永住地に選べるほど図太い神経を持ち合わせて はいないらしい。香港出張から帰って来ると、たいてい絵画展や音 楽会へ行ったりして、平常心を取り戻すのに時間を要する。四季 折々に合わせて俳句や短歌をひねり、花鳥風月を味わうのも良い。 「ルールの範囲であれば何をやっても構わない」を旗印にして荒 稼ぎをしている人は日本にもいる。「株の時間外取引」、「敵対的 買収」、「売り抜け」など、昼間から赤ワインで「スローフード」 を楽しみたい我々「普通の人間」には思いもよらない手段で、他人 のふんどしを利用して、巨額の資金を操り、投機と投資に励んでい るようだ。 「テロリストはその力不足が故に、メディアを使いたがる」と言 われる。メディアを利用して相場を人工的に煽ることが法的に許さ れることであっても、我々「古い人間」としては将来ある若者にそ れを「お勧め出来る手本にせよ」とは言いがたい。日本のメディア の方もそのあるべき姿をどこかへ置き忘れ、短絡に「話題性」を追 求するあまり、タダで宣伝してやって、ネームバリューの高揚に手 を貸し、彼等の計算通りに踊らされている感がある。 そこで一言釘を刺したい。彼等が買収の標的とする業種に「ラジ オ放送局」と「テレビ局」がある。税制上これらの業種は「特養老 人ホーム」、「労働組合」、「農協」、「学校法人」、「公務員共 済組合」、「宗教法人」、「新聞送達業」等と同格に列せられ、 「その公益性に鑑み、法人事業税を免除」されている。「免除」ど ころか、地方税法第72条では「国と地方自治体はこれらの企業・ 団体から事業税を徴収してはならない」と、厳しい文言で国と自治 体を規制している。つまりこれらの公益性の高い業種に対して「優 遇」、「公的支援」又は「ハンデ」を与えていることになる。ハン デを与えられた企業の運営や取り扱いに「資本主義経済」の物差し をあてた、「自由経済」や「市場原理」の理屈は馴染まない。株を 上場させるテレビ局もおかしいが、上場を認める証券取引所と所管 する官庁も狂っている。 たとえ「特養老人ホーム」が上場出来たとしても、その株が投機 の具にされ、365日24時間お年寄りをお世話する経営者や職員、 それに奉仕に来て下さる多くのボランティアの方々の高邁な理念が 大株主の損得勘定で捻じ曲げられてはたまらない。今日の株取引は 「配当金」の概念が軽視されて、資本の売買差益を享受する「キャ ピタルゲイン」を追求するといった、資本主義経済のメカニズムと は少しかけ離れた、どちらかと言えば「鉄火場の丁半勝負」に近い ものだ。公益性の高い企業や団体が資金を集める手段としては「社 債」を発行して、出資者には安定した「インカムゲイン」を提供す る方が似合っている。 堀江さんや三木谷さんとか村上さん達がルールの範囲で何をしよ うと、私には関わりの無い事だが、メディアが「勝ち組」なる新語 を用いて、必要以上に彼等を「英雄視」するかのような報道を繰り 返すことは甚だ迷惑。その裏返しが必然的にそれ以外の「普通の 人々」を「敗け組」に仕分けるがごとき印象を撒き散らすことにな るからだ。少なくとも「荒っぽい儲け話」ばかりをあまり子供に聞 かせてほしくない。「額に汗して、損を承知で弱者を支援するよう な子供」に育てようとしている親だって居るのだから。「著者・板橋光紀氏関連のHP」 http://www.seikatsusha.org/ne/it/ |
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ー「創刊号」 2005年01月01日発行/2005年05月01日現在読者数:1342名ー ★「メールマガジン」送付ご希望の方は、 下欄左に「メールアドレス」を記入し「登録」ボタンをクリック下さい。 <メールマガジンの購読は無料です。>
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