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━━ 平成18年8月14日 Vol.46 ━━━━ 毎月1日・14日発行

愛国心を考える

                   生活者主権の会  松井 孝司

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 先の国会では継続審議になったが、自民党と民主党は教育基本法
の改正を目指し、「愛国心」の涵養を条文に明記しようとしている。
その賛否をめぐってはマスメデイアの論調も2分されているようだ。

 朝日新聞の論説では「国を愛せ、と一方的に教えるだけでは愛国
心が育つはずがない。まして、戦前のような国家体制への郷愁にか
られて、国を愛せ、伝統や文化を愛せ、というのならば、とても受
け入れられない話だ。」と批判している。
 読売新聞は「愛国心の涵養(かんよう)は、国家主義とはまった
く別の問題なのだ。」「そもそも愛国心の涵養が是か非かなどとい
うのは、諸外国ではありえない議論だ。不毛な論争は終わりにした
い。」 と教育基本法の改正に賛意を示している。

 平沼赳夫元経済産業相は「憲法と教育基本法は一日も早く脱ぎ捨
てるべきだ。基本法には美辞麗句が並んでいるが、家族のきずなの
大切さ、わが国の伝統文化、天皇を中心とする国柄、そういったも
のがすべて欠落している」と述べ、安倍晋三官房長官は自民党幹事
長時代に「自民党としては『愛する』はゆずれない一線だ。鉛筆や
消しゴムを大切にしようとはいうが、愛せよとはいわない」として
いる。

「愛する心」とは?

 愛国教育を主張する人達は「愛する心」をどのように捉えている
のだろうか?

 仏教では、「愛」を「執着が生む激しい欲求」と見て肯定的には
捉えていない。愛欲は人間を不幸に導く要因になることもあり、
「貪瞋痴慢疑」の煩悩から派生する想念と捉えている。人間は五陰
(色、受、想、行、識)の仮の集合体であり、五陰の内「受」によ
って「渇愛」(=想)が生じ、これが貪欲な行動(=行)となり、
これが記憶(識)されて残り、それぞれの要因が因縁となって苦悩
をもたらすと見る。「愛」が無ければ「憎悪」は存在せず、「愛」
と「憎悪」は不可分と見る。仏教は「愛」の本質が対象への執着で
あることを見抜き、「愛すること」を無条件には肯定しないのだ。
「愛」を肯定的に捉えるキリスト教とは好対照である。

 どちらが正しいか?と問われれば私は仏教の洞察力に軍配を上げ
たい。「色即是空」「五陰仮和合」を説く仏教の考え方は、人間が
常時変化する分子と細胞の集合体であることを解明する現代科学と
も符合する。

 個人と国家の関係は、組織における「部分」と「全体」の関係に
該当し、人体に例えれば細胞と身体の関係に相当する。部分と全体
は一体不可分で、部分と全体は相互補完関係で結ばれることにより、
個体は維持される。全体のルールを無視して、自己増殖のみを繰り
返す細胞はがん細胞と同じで、人体を破壊する存在となる。個人と
国家の関係も同じで、個人が利己的に行動すれば、国家は崩壊する。
個人のために国家が犠牲になることも、国家のために個人が犠牲に
なることも許してはならないのだ。個人の義務は、集団のルール
(正義)を順守することである。

 ところで、「心」とは何か?
 現代の科学はその「心」にも科学のメスを加えようとしている。
脳の機能停止、すなわち「脳死」は間違いなく「心」の死である。
「心」とは「脳の働き」であることは今や疑う余地がない。仏教で
は五陰(色、受、想、行、識)の内、「色」を除く「受、想、行、
識」を「心」と定義している。「心」は眼に見えない実在であり、
「色」と「心」は一体不可分(色心不二)と説くが、これも現代科
学と符号する。眼に見えない脳機能のイメージ化が可能となり、脳
の各機能は相互に依存し役割分担をしていること、感覚器官から入
力される信号(色)により、人間の認識の構造(心)がつくられる
ことが判った。人間の認識の構造(心)は、外界から獲得する情報
(色)に制約されるのである。
 人間の「認識」と「行動」も一体不可分の関係にあり、人の行動
パターンから、その人の「心」の構造を知ることができる。

「愛国心」について

 人間は獲得する情報によって、しばしば間違った認識をすること
があり、間違った認識が行動に結びつくと犯罪行為の原因となる。
偏見にもとづく宗教や教育は間違った認識を増幅することさえあり、
間違った認識は妄想となり「心」の病をつくる。イスラム国家の内
戦や、中国の「愛国無罪」を叫ぶ国民は、自己中心的な宗教や教育
がつくったものだ。北朝鮮の人たちの異常な行動は、国家が主導す
る共同幻想に国民が束縛されていることを示すものだろう。

 現行の教育基本法第一条に定める通り、教育の分野では愛する対
象を「真理」と「正義」に限定することが望ましい。「愛」は愛す
る対象を間違えると犯罪を招き、国家が対象になると戦争にまで発
展する可能性があるからである。戦争や犯罪を未然に防止するため
に、国民をまともな頭脳の持ち主にすることこそ公教育の使命でな
ければならない。

 20世紀の前半はヒトラーやスターリンのような頭の狂った独裁
者の出現で戦争の世紀となったが、ヨーロッパ諸国は戦争に懲り、
一国繁栄の道を捨てEU(欧州連合)を誕生させた。21世紀の世
界はグローバル化とコミュニケーション技術の発達で国境の存在は
無意味となり、国民国家(Nation State)は終焉の日を迎えるだろう。

 しかし、多文化が共生する社会では価値観が多様化し、世界は一
層混迷を深める可能性もある。世界の各国が愛国心の涵養を競えば
時代は逆行し、資源と領土獲得をめぐる争いが激化し、すべての国
家が繁栄を競えば今世紀末には膨大なエネルギーの消費で地球環境
の激変が予測される。
 人間社会に運命共同体としての自覚を促し、正義の内容を地球規
模の「持続可能性」に書き改め普遍的な正義を確立しなければ、国
家だけではなく人類も終焉の日を迎えることになるだろう。

 時代とともに正義の内容は変わる。愛国心に固執する人は、朱子
学に洗脳され尊王攘夷に奔走した幕末の志士と類似する思考に囚わ
れているのではないか?

必然の教育革命

 福沢諭吉は有名な「学問のすすめ」の中で、「私に在っては智な
り、官に在っては愚なり」と国民が国家に依存する愚かさを問題に
しているが、国家が主導する画一的な教育こそ公教育から多様性を
奪い教育の質を低下させた原因であり、政府の巨額債務、官民の給
与格差、年金格差を放置する衆愚政治は、長期にわたる官主導の教
育で国家に従順な国民を養成した結果である。

 正解を求める受験勉強と会社人間の養成に奉仕してきた公教育の
システムは定型業務と規格大量生産には適していたが、創造性が求
められる新しい時代には対応できなくなった。
 学級崩壊は、子供の変化に対応できない学校教育の現状を露呈す
るものだ。

 日本の「常識」は世界の「非常識」とされる現状も放置できない。
人間は習得する言語に思考形式が制約されるのだ。多様な思考形式
に柔軟に対応するには多言語の習得が有益であり、多言語を習得で
きた人は多文化に生で触れることにより、世界観を大きく変えるこ
とになるだろう。

 昨年暮れこの世を去ったP.F.ドラッカーは、今から30年以
上も前に「断絶の時代」を書き、世界経済のグローバル化と教育の
劇的な変革を予測して、人材開発の場としてグローバル企業の貢献
に期待し、学校教育より継続教育が重要と主張している。

 多元化する社会、多様な価値観に対応するためには、多様な教育
システムが求められる。
 教育に選択の自由を保障するために、規制を撤廃して教育バウチ
ャー制度、コミュニティー・スクールなど学校運営には法人の形式
を問わない教育システムを導入し、既存の教育制度を全面的に見直
す必要がある。
 「教育基本法」ではなく、「学校教育法」の抜本的な改正が必要
と思う。


「著者・松井孝司氏関連のHP」
「市民が創る日本再生のシナリオ」
http://www2u.biglobe.ne.jp/~shimin/saisei/
「21世紀のライフスタイルを考える会」
http://www.ls21.jp/
http://www.seikatsusha.org/ne/ma/


生活者通信メルマガ版 (マガジンID:0000146184)
ー「創刊号」 2005年01月01日発行/2005年05月01日現在読者数:1342名ー

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