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━━━生活者通信メルマガ版━━━━平成20年2月1日  Vol.62━

外からの眼―あるパースペクティブ

                      生活者主権の会  清郷 伸人

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1.欧米から見た従軍慰安婦問題
 2007年から今年にかけて欧米の議会で、太平洋戦争中の日本軍に
よる従軍慰安婦に対する非難決議、日本政府の公式謝罪を求める決
議が続発している。多くの日本人にとっては、同じ西側陣営に属し
ている友好国日本の遙か昔の行為に対し、今さら何をという気持ち
であろう。ではかれらのやった原爆投下やベトナム戦争や果ては数
世紀にわたる植民地支配はどうなのだという反感さえわき起こって
いる。

 しかし私は世界の中で生きていく日本はこうした異質の価値観に
対し、敵視や黙殺はすべきでないと考える。そこからは何の展望も
開けない。主張すべきは堂々と主張し、受け入れるべきはシンプル
に受け入れる。国際社会に対しては自分の考えを明確に表明し、わ
かりやすい態度をとらねばならないと思う。

 今になって日本人にとって異様とも思える決議が突然浮上してき
た背景はなにか。いろいろな推測はあるが、私にはただ一つ、日本
が太平洋戦争そのものとその戦争中に行った国際法や人道を冒す多
くの犯罪行為に対し、国家として公式に謝罪していない、曖昧でな
い明確な表現で自らの反省と決意をアジアや世界に発信していない
からである。確かに村山首相談話のような不明瞭な謝罪はあったが、
それさえ日本では批判され、貶められていることを世界は見ている。

 さらに誰が日本を代表して謝罪表明を行うかについても、現在で
は時の首相になるのだろうが、アジアや世界が本当に求めていたの
は昭和天皇である。立憲君主制だから天皇は無罪というのは日本の
国内論理であり、天皇が処刑を免れたのも単にマッカーサーのご都
合主義の結果である。侵略され、占領されたアジアや交戦国から見
れば、日本軍の象徴であり最高の戦争責任者は天皇以外になく、従
って最大の戦犯でもあるというのが暗黙の解釈であろう。その昭和
天皇が生前ひとことも謝罪しなかったことが中国や韓国、フィリピ
ンなどアジアの人々の消えないトラウマであり、世界が今も日本の
公式謝罪を認めない根源的理由である。昭和天皇が亡くなった現在、
そのような公式謝罪のチャンスは永久に失われたのであり、次善の
首相によるものしか為しえないが、それさえ日本はずっと怠ってき
たのである。

 日本の政治家や一部の日本人は従軍慰安婦の歴史的事実について
細かい反論をしているが、加害者側は都合の悪いことは忘れたり、
事実を歪曲するものだという常識を忘れてはならない。重要なこと
は細部ではなく、従軍慰安婦という真実が存在したということであ
る。この真実というパースペクティブ(観点)は歴史を見る上でき
わめて重要である。それは満州事変や日中戦争、南京大虐殺や沖縄
戦などあらゆる歴史事象に適用できる。細部は歴史学者の問題であ
る。国家や国民は真実に基づいた思想や心情を語るべきである。安
部前首相の狭い意味での強制はなかったなど細部にこだわる官僚答
弁以外のなにものでもなく、一国のリーダーの言葉ではない。

2.異端者から見える日本の病理
 最近の国会や政府に関する報道を見ていて、私は奇妙なデジャヴ
(既視感)に見舞われた。現在でなく太平洋戦争に突入する東条内
閣の頃を見ているような―これは何なのか。東条内閣は日本を国家
哲学やグランドデザインをもって戦略的に戦争へ導いたのではなか
った。近視眼的外交と政局的内政で情緒的、戦術的に権力を行使し
ただけなのだ。いわばそれは政治家ではなくズル賢さに長けた官僚
的手法そのものだった。長期的視野と世界史的戦略で国を導くので
はなく、当面の問題処理と政局的論理で権力を維持するその思考、
姿勢は彼以後の戦後もなにも変わらなかった。
 
 かつての日本はそのようにして図らずも戦争に突っ走ってしまっ
たが、今の日本も同じように迷走していると思える。法制度として
使い勝手が悪いから憲法を改正しようとか国民や世論を鎮めるため
に薬害肝炎患者の無原則一律の救済に急変するとか米国の眼を気に
して新テロ特措法案をゴリ押しするとか年金記録の大騒ぎにあわて
て出来もしない約束をするとか挙げたらキリがない。これらは指導
者に哲学や戦略のない表れであり、私のデジャヴにつながっている。

 われわれは日本という船に乗っているが、その船が何の目的でど
こへ向かっているのかは知らないままで当面の嵐や補給の問題に忙
殺されているだけなのかもしれぬ。もしかするとわれわれの船をコ
ントロールしているのは別の大きな船かもしれない。ではわれわれ
はなぜリーダーにふさわしい船長(政治家)と信頼できる成熟した
クルー(官僚)を持つことができないのか。その責任の半分はわれ
われ船客にある。なぜなら曲がりなりにも戦後日本はリーダーを民
主的に選ぶことができるからである。後の半分はクルーをマネージ
できないというよりクルーにコントロールされているリーダーにあ
る。

 私はここでは前者のわれわれ船客の問題を取り上げたい。われわ
れの意識の中に低劣なリーダーしか選べない土壌が醸成されている
のではないか。われわれ船客の中にはメディアもいるが、報道人も
日本では同業組合的発想のもと画一的なニュースリリースに囲われ
ている。それは戦前、戦中の大政翼賛的報道と変わらない。知る権
利の絶対性と表現の自由保障の現代でさえ報道主体の職業意識が低
ければそれは死んだも同然である。逆に意識が高ければ、自由が制
限されていてもそれが障害にならないどころか、真実な、人の心を
打つ報道や表現の必要条件とさえいえるのである。

 われわれ一般船客も同じである。戦争という大きな犠牲を払って
やっと手に入れた近代民主日本であり、国民の権利主体の福祉国家
である。だがわれわれにはその自覚がない。それは占領軍から一方
的に与えられた果実でしかない。時間とともに問題が生起するそれ
らの果実をより良いものに育て上げ、後世に伝えようとする当事者
意識がない。一言でいうと国民はすべてお上依存である。われわれ
国民に公の意識はきわめて薄い。公のことはお上任せで、国民は大
企業の経営者でさえ自分と自分のまわりのことしか考えない。下手
をすると自分のこともお上に助けてもらおうと考えている。子供た
ちには権利ばかり主張しないで義務を果たせといいながら、自分は
負担をなるべく軽くして受益ばかり求める。そのような国民の選ん
だリーダーのもと日本という国家は世界一の借金大国を作り上げ、
後世に受け渡そうとしている。

 つい20年ほど前は世界2位とか3位だった一人あたりGDPは昨
年18位に転落した。それは永年の政治家、官僚、財界のトライアン
グルによる国民の富の不正な分配、泥棒国家(クレプトクラシー)
的体質がもたらした結果である。そして今や膨大な国家の借金が積
み上がり、その解決はどんどん先延ばしされている。われわれ国民
も負担を嫌い、公的機関への要求のみを肥大化させてきた。高度成
長期の幸運に酔い、ゼイ肉のついた思考からいまだ抜け出せない。

 私たち国民は高福祉高負担か低福祉低負担かを選ぶ岐路に立って
いる。経済成長万能説は麻薬である。幸運にも成長の果実が成った
ら、それはすべて国の借金返済にまわすべきである。1月8日の日
本経済新聞経済教室に載った前産業再生機構専務の冨山和彦氏の論
文は近年出色の優れたものであるが、後世にできるだけ良質な国家
社会を渡すことこそ最高の品格とし、中高年世代に激しい意識変革
を迫っている。米国では新型インフルエンザワクチンの投与優先順
位で、国家が決めた最優先の65歳以上が自分たちより子や孫たちに
与えよと声を挙げ、順位を逆転させた。このような精神こそ真の品
格である。

 繰り返すが、現代日本の病理は自分しか考えないわれわれ国民の
意識の中にある。日本が正しい、品位ある、快適な国になるには、
われわれ一人一人が社会や後世といった公を優先する強い意識を持
った個人として確立することが何より重要である。それは今年のサ
ミットの最重要議題になる地球温暖化問題に対しても最も必要とさ
れる精神でもある。


「著者・清郷伸人氏関連のHP」
http://www.kongoshinryo.net

生活者通信メルマガ版 (マガジンID:0000146184)
ー「創刊号」 2005年01月01日発行/2005年05月01日現在読者数:1342名ー

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