<生活者通信メルマガ版>

      「メルマガ送付のご希望」   「バックナンバー」 (2)

━━━生活者通信メルマガ版━━━━平成21年4月1日  Vol.76━

通貨は誰のものか(2)−政府貨幣発行論−

                      生活者主権の会  松井 孝司

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 リーマン・ブラザーズの破綻で始まった金融危機は世界的規模と
なって、ヨーロッパの有力銀行だけではなく米国のシティー・バン
クやバンク・オブ・アメリカも公的資金を受け入れ、公有銀行にな
るという。

 銀行が公共財である通貨を私物化し、利潤追求に奔走することは
好ましいことではないので、銀行を国民の監視下に置く公有化は歓
迎すべきことである。

 しかし、今回の信用収縮の規模はあまりにも大きく、金利低下や
銀行の公有化だけでは世界の大不況は克服できない。

 ロシア政府は基幹産業を担う企業まで公有化しようとしているが、
市場経済は否定していないようだ。21世紀の資本主義は大きく変
質し、世界は中国が先鞭をつけた社会主義市場経済を模索すること
になるのだろうか?

 大規模な信用収縮には大規模の信用創造で対処すべきで、中央銀
行によるハイパワードマネーの拠出が不可欠と思われる。日本の長
期に亙るデフレ経済は間違いなくハイパワードマネーの不足が原因
であり、マネーサプライを増やすため脱藩官僚の高橋洋一氏は25
兆円の政府紙幣発行を提案している。

 政府紙幣25兆円、日銀の量的緩和で25兆円、さらに「埋蔵金」
25兆円を活用し、「デフレ経済と大不況を克服せよ」という提案
である。これに賛同する国会議員も居り、田村耕太郎参議院議員ら
も50兆円規模の貨幣発行を提案している。

 政府貨幣の発行は奇策で、詐欺師が発行する「円天の類いだ」と
する意見もあるが、政府が返済の当ての無い国債の大量発行を繰り
返すことこそ、詐欺的行為とみなすべきだろう。その点、貨幣発行
は返済の義務がないし、インフレの危険性や貨幣価値の下落も、あ
らかじめ予見できるので国民を騙すことにはならない。

 米国はドル紙幣の増刷を繰り返してきたし、日本でも政府貨幣の
発行には実績がある。日本は対外的には巨大な債権国であり、円高
の時はインフレの危険性も少ないので、政府貨幣発行を拒否する理
由はない。

 但し、政府が発行する兌換性のない貨幣は国民の信用を担保とす
る国民共有の財産と考えるべきで、貨幣をどのように配分するかが
問題になる。ヘリコプターで空から平等に貨幣をバラ撒くことが最
も公平な分配方法で、今話題の定額給付金の配布方法はヘリコプタ
ーマネーそのものだ。大量の貨幣をバラ撒けば、デフレ経済などい
っぺんに吹き飛ばすことができるだろう。

 しかし、ヘリコプターマネーには「胡散臭さ」が付き纏い景気回
復に役立たないことを賢明な国民は見抜き、多くの国民がこのよう
な配布方法には反対している。

 また、車が通らない道路やダム工事のような公共事業に巨額の資
金を投入することも愚策である事が実証されている。

 日本政府は過去20年間巨額の公共投資を行ってきたにもかかわ
らず、資金の無駄遣いで期待した成果を挙げることができなかった。

 政府の公共事業は既得権益を持つ特定の利権集団に資金が流れ、
期待される付加価値を生まないことが多い。ケインズ流の財政政策
を成功させるためには、ハーベイロードの前提(賢明な政府)が求
められるのだ。

 学ぶべきは幕末の島津藩が発行した琉球通宝や明治政府が発行し
た「太政官札」発行の経緯である。

 500万両という途方も無い規模の借金を抱えていた島津藩は、
幕府から琉球通宝発行の許可を得て貨幣を大量に鋳造し、この資金
を産業振興と琉球交易のために活用し、藩の財政再建と明治維新で
活躍した人材の育成に成功している。貨幣を媒介とするグローバル
な交易が産業に付加価値をもたらしたのである。

 注目すべきは貨幣鋳造のため寺院から梵鐘や仏具を召し上げたこ
とである。島津藩における廃仏毀釈は仏教を弾圧するためではなく、
付加価値を生まない資金の流れを絶つための手段だったらしい。民
衆疲弊の悲声なく人気はすこぶる盛んであったという。

 島津斉彬は「農業と工業と教育が行き届かなくては、蔵にいくら
金銀をつんでも富国とはいえない」と述べている。貨幣の発行は簡
単だが、貨幣を有効活用して付加価値を創造するには知識ノウハウ
の蓄積と人材の育成が欠かせない。

 明治の初期には金が大量に海外に流出し日本国内の通貨量が激減
し、深刻なデフレに陥っていた。明治新政府は由利公正の提言で
「太政官札」という政府紙幣を発行し、資金不足を補った。明治初
期には租税制度が確立しておらず政府収入のうち約46%が紙幣発
行により調達されたという。西南戦争の巨額の戦費も紙幣の増発に
頼り、明治10年以降インフレーションを引き起こしてしまった。
インフレを抑えるため増税という手段で政府紙幣の強引な回収を行
ったため農産物価格は43%も下落し、明治6年の地租改正で土地
の所有者となり納税者となっていた農民は松方デフレと呼ばれるこ
の政策の被害者となり、土地を捨てて夜逃げする農民さえあった。

 西郷隆盛は遺訓で「税金は少なく」、「政府は収入の範囲内で運
営すべきこと」を強調しているが、明治政府は「政府が必要とする
資金を国民から強引に搾り取った」のである。増税とデフレ経済で
苦しむのは常に 「官=Tax Eater」ではなく、「民=Tax Payer」で
ある。

 政府貨幣の発行で信用が拡大できれば、デフレ経済はインフレに
変わる。資金供給によるインフレへの誘導は易しいが、インフレを
阻止するための迅速な資金の引き上げは技術的にも政治的にも難し
いことが問題だ。

 殆どすべての政府が肥大化する傾向があり、一旦拡大した政府組
織は利権集団となって経費節減、組織の縮小には反対する。

 政府に国債で資金を調達させるのは、国債の金利が財政規律を守
るための砦になることを期待しているのである。

 したがって、肥大化して借金漬けとなり信用を失った政府が金利
ゼロの貨幣発行の母体となることは避けた方がよい。資金の浪費癖
がついた大きな政府がインフレ時の貨幣の回収を難しくするからで
ある。パイパーインフレを防止できなかった政府の数は、歴史上枚
挙にいとまがない。

 政府の肥大化、「官」の支配を避けるために、政府とは別組織の
信用力のある公有銀行が、国民に代って信用創造の役割を担うこと
が望ましいと思う。

 発行する貨幣の価値を維持し、インフレを防止するためには、信
用創造に見合う付加価値の創造が必要である。貨幣の供与先は「官」
ではなく「民」の Tax Payerを優先すれば、民間における付加価値
の創造がGDP(国内総生産)の増大をもたらし、税の自然増収の
形で貨幣が回収されるし、臨機応変の金利操作でインフレは防止で
きる。

 世界各国の通貨の交換レートが下落するなかで、日本の円だけが
独歩高になったのは、日本銀行の通貨管理策によるものである。

 生涯を通じて市場経済の優位性を説きノーベル経済学賞を受賞し
たハイエクは「貨幣発行の権利を、政府・中央銀行だけに独占させ
ることは、社会の利益にならない」と述べているが、政府・中央銀
行に依存する個人と企業は、貨幣の自由な選択が許されないと甚大
な被害を蒙ることがある。

 日本経済を支えてきた物づくり産業と輸出産業は世界不況と円高
で壊滅的な打撃を受け、軒並み赤字決算に転落してしまった。

 円高が続けば Tax Payerとして貢献してきた物づくり産業は崩壊
するか、または海外に脱出し、国内における雇用の大幅な減少は避
けられないだろう。

 日本が物づくり立国の伝統を維持するには、デフレ経済の克服と
円高の是正は緊急の課題である。中国や韓国の経済的発展は日本と
の交易が可能にしたのであり、円安による日本製品の低価格化と信
用供与は全アジア地域のGDP増大にも大きく寄与することは間違
いない。

 日本銀行は国民の信託に応え、2〜3%のインフレターゲットを
設定してデフレ経済の克服と円高是正のため日本銀行券の大増刷に
踏み切り、融資先が所有する信用と資産を担保に、ハイパワードマ
ネーの大量供給を日本のGDPが倍増するまで継続することを期待
したい。

☆通貨は誰のものか?−サブプライム問題を考える−(20年3月1日)
  http://www.seikatsusha.org/merumaga/61-80/vol-64.htm



「著者・松井孝司氏関連のHP」
「市民が創る日本再生のシナリオ」
http://www2u.biglobe.ne.jp/~shimin/saisei/
「21世紀のライフスタイルを考える会」
http://www.jstyle21.net/
http://www.seikatsusha.org/ne/ma/


生活者通信メルマガ版
(マガジンID:0000146184)

−「創刊号」 2005年01月01日発行−
≪2005年05月01日現在読者数:1342名≫


★「メールマガジン」送付ご希望の方は、
下欄左に「メールアドレス」を記入し「登録」ボタンをクリック下さい。

<メールマガジンの購読は無料です。>

メールマガジン登録
メールアドレス:

メールマガジン解除
メールアドレス:

Powered by まぐまぐ
「生活者通信メルマガ版」の 「サンプル」
ここをクリック下さい
   (2)