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━━━生活者通信メルマガ版━━━━平成21年7月1日  Vol.80━

混合診療における患者の権利

                      生活者主権の会  清郷 伸人

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 私の提訴した混合診療における健康保険受給権確認訴訟について、
6月16日に行われた控訴審最終弁論において被控訴人の私は次の
ような意見を陳述しました。

 
1.日本における進行がん等重病患者をめぐる状況

 毎日のように日本の病院で繰り返されている悲劇があります。
「もう治療はありません、ホスピスに行ってください。」日本人の
2人に1人がかかるといわれるがん治療の最前線では、患者や家族
が医師にそう告げられて絶望の淵に追いやられています。

 しかし、それは国の認めた保険という範囲の治療はないというこ
とで、世界で有効性、安全性の認められた薬や治療はまだあるので
す。

 ただ日本では保険でないために医師は実施できないのです。日本
の審査や承認があまりにも遅いだけではなく、コストが高いため保
険承認の申請すらされないものもあります。このような行政制度の
壁で助かる命が失われているわけです。

 病院や医師の勇気ある好意で、保険外の世界標準薬や医学的根拠
のある先進治療が行われることもあります。実際、臨床現場では保
険外の先進医療を求める声は多く、潜行して行われているとも聞き
ます。

 しかし万一露見すれば病院の保険指定停止や保険医療費返還とい
う厳罰が待っており、医師も患者も萎縮しています。したがって現
状では保険治療の尽きた患者は、死を待つだけなのです。私もそう
なる可能性のある進行がんの患者です。


2.この状況を作り出した医療制度

 日本では保険医療機関は感染症など急性期疾病だけでなく難病化、
重病化するがんなど慢性期疾病に対しても一律に保険内診療しか許
されていません。認められた少数以外の保険外診療は禁じられ、も
し実施したら併用する保険診療の保険給付は停止され、全額自己負
担となります。

 この結果、世界標準の抗がん剤の4割が使えず、日々進歩する治
療も死に瀕した患者に届かないという状況が続いています。これが
今の日本の保険医療制度です。


3.この医療制度の存在理由とされているもの

 このような患者の生存権を侵すほどの権力行為の理由とされてい
るのが、一つは医療の平等性の確保、もう一つが安全性の確保とい
われているものです。

 平等性の確保とは国民皆保険制度のもと国民は等しく公平に医療
を受けなければならないというものです。それは理念としては正し
いのですが、対象世帯の1割以上が月々の保険料を払えず、保険証
を取り上げられたり、保険治療の自己負担分も払えない人が多数存
在する一方で、差額ベッドという月に何十万もかかる費用が公認さ
れている現状があります。

 さらに保険指定を受けない医療機関では自由診療が認められ、病
院が決めた高額な費用を払えばそれはいくらでも受けられます。歯
科では昔の差額徴収のような混合診療は公然と行われています。医
療が平等でない現実がすでにこれほどあるのです。

 一方で他に治療がないような窮地の重病患者が保険外診療を受け
た時だけ行政は平等性が壊れるという理由で保険給付停止という懲
罰を加えるのですが、そこにおいてこの理屈は矛盾しており、苦し
むのは裕福でない重病患者だけです。まさに弱者をムチ打ついいが
かりです。

 保険料をキチンと払った上に自費で保険外診療を受けただけで一
切の保険を取り上げられるなら、では自費で個人年金を契約したら
公的年金は取り上げられるのですか。私塾に公立学校の子弟を通わ
せたら退学になり、罰金を払うのですか。

 このように保険外診療の併用を禁ずるための平等性という理由は
見せ掛けで合理性はありません。保険外診療を併用しても保険診療
には保険を給付する方が平等に近づきます。

 次に安全性の確保ですが、ここでも自由診療の問題が浮上します。
自由診療という保険外診療が危険だから、それと保険診療との併用
は認めないというのが国の理屈ですが、それならなぜ危険な自由診
療を野放しにするのですか。すべての医療機関に保険指定を義務づ
けないのですか。

 自由診療が存在する以上、誰でもそれを受けられます。保険診療
を受けている患者も他の日に他の病院で受けることは十分可能です。
保険診療だけ安全を検討して保険外診療は知らん顔というのも医療
の安全性からは矛盾した話ですが、それでも世間で医療事故や薬害
が多発しているということはありません。

 なぜ多発しないかというと医師法や医療法や薬事法といった医療
の安全性を担う法律があって、機能しているからです。そもそも健
康保険法というのは本質的には患者が医療を安価に受けられるため
の経済的支援法なのです。経済的支援法で安全性を確保しようとい
う発想が誤っているのです。

 国はこの平等性と安全性の確保という理由から、健康保険法には
明文規定はなくとも保険外併用療養費(旧特定療養費)の反対解釈
によって混合診療禁止原則の趣旨を持つといっています。

 しかし理由があれば規定は要らないというのも暴論ですし、その
理由も、平等性は事実として崩れている上、保険外医療が保険医療
に悪影響を及ぼして安全性を損なうという立法事実の証明はありま
せんでした。それも当然で医療の安全性と保険は本来別問題なので
す。保険であろうがなかろうが医療は安全でなければならないので
す。


4. 健康保険法の解釈と混合診療

 一方、健康保険法の意義は大きく、国民が安く公平に医療を受け
る上での基礎的社会保障です。だから保険財政の破綻は防がねばな
りません。

 保険外併用療養費制度はそのための立法です。先進医療をすべて
保険にしたら財政が破綻するから一部の先進医療には診察、検査な
ど基礎部分に保険を給付する、あとは自費でやるという制度です。

 もちろん保険診療には保険を給付します。それだからといってこ
の制度に他の先進医療を併用した場合は保険診療まで奪うという規
定などありません。そもそも従来公認されてきた差額徴収という混
合診療の一部が特定療養として制度化されたからといって、その反
対解釈で保険診療という最重要な国民の権利を奪うことなど許され
るはずがありません。

 原判決は健康保険法を精査して、私の保険受給権剥奪に法的根拠
はないと判断しました。しかし混合診療の是非についての判断は留
保しました。だから国は控訴ではなく保険受給権剥奪についての立
法措置を講ずればよいのです。

 混合診療は難病患者の私にはメリットが大きいのですが、保険指
定停止というペナルティが病院に課される以上、実施できない状況
に変わりはありません。しかし国が混合診療の禁止と被保険者の保
険受給権剥奪をセットにして規制をかける以上、私の請求が認めら
れれば禁止規制に影響が出ることは避けられないでしょう。

 これほどの強権をもって国が禁じている混合診療について考慮す
ると、デメリットもありますがメリットの方がはるかに大きいと考
えます。

 さきほどその平等性、安全性について述べましたが、他に知識や
情報の少ない患者が悪徳医に引っかかるという懸念も禁止の理由と
いわれています。しかしそれは過大なパターナリズムというべきで、
国が免許を与えた大部分の医師を信頼して重病や難病の患者のニー
ズに応えるべきです。

 悪徳商法の多発する通信販売でも禁止になることはありません。
ニーズがあり、そのデメリットよりもメリットが大きいからです。
悪徳商法には商売を禁ずるのではなく法的罰則で対処しているよう
に悪徳医には厳罰を科すのが正しいのです。

 保険治療の効果がないためにやむなく保険外治療を求める患者の
選択肢を奪うことで悪徳行為を防ぐなど本末転倒の考えです。悪徳
医師を出さないために患者から薬を取り上げるという論理です。

 保険治療の尽きた難病や重病に苦しむ患者のためにも、混合診療
はルールを定めて原則解禁すべきと考えます。


5.審理過程そして憲法判断

 私は混合診療における保険受給権剥奪には法的根拠がない、この
行政措置は違憲行為であると原審から一貫して主張してきました。

 これに対し、国は原審では療担規則と医療の不可分一体論および
保険外併用療養費制度の反対解釈論を法的根拠として主張し、敗訴
すると健康保険法の成り立ちや経緯、立法者意思を持ち出して混合
診療ははじめから禁止されていたことを控訴の理由としました。

 しかし控訴審で立法精神が立証できないとなると、特定療養費制
度以降には禁止の趣旨を持ったと言い出しました。国はいったい何
を法的根拠と確信してきたのでしょうか。

 たとえば憲法29条2項には「財産権の内容は、公共の福祉に適
合するように法律でこれを定める」とあります。それは、公共の福
祉の要ともいえる健康保険受給権は給付も剥奪も法律で定めるよう
憲法が命じていると解釈できるのであります。

 憲法のいう法律で定めるとは、明文で規定するという意味です。
憲法は、法律内容を明文規定でなく趣旨とか反対解釈で解釈するこ
とはきわめてあいまいで恣意的になりやすく、行政権力が濫用しや
すいことを見抜いております。だからこそ法治国家においては、法
律の明文規定によらないで行政が国民の権利を奪うことは許されな
いし、同時に法律を作る立法府の責任も憲法は明示しているのです。

 私は健康保険法に私の保険受給権を剥奪する根拠はないと主張い
たしますが、万一根拠があるとされたら、今度は健康保険法の違憲
判断を求めねばなりません。

 憲法で保障された国民の基本的人権は、法律に具体化されて守ら
れるのが法治国家の第一条件と思います。しかし基本的人権が国籍
法やらい予防法などの法律によって破られてきたことも事実です。
私の保険受給権は法律ではなく裁量行政によって違法に破られた例
と思っていますが、司法の判断次第では法律によって破られたこと
になるかもしれません。

 その場合、健康保険法によって毀損された基本的人権とは、まず
何よりも自ら望み、必要とする医療によって命を少しでも保つ生存
権、納付義務を果たした被保険者間の給付に関する看過できない不
合理な差別という平等権、税金とは別に強制徴収された保険料の対
価としての給付という財産権であります。

 私の場合、がんの転移の確定後、放射線治療に続いてインターフ
ェロン療法とLAK療法の併用が4年間行われ、そのため症状は悪
化せず日常生活を送れたのですが、この混合診療が公になったこと
で、LAK治療は中止となりました。

 保険受給権の剥奪によって混合診療を禁ずる現行の医療制度は、
患者から治療効果を期待できる医療の可能性の芽を摘んでいること
で、患者の治療選択権、医療における自己決定権を侵し、その結果
生存権を侵しております。

 また正しく保険料を払った被保険者が保険外診療を一つ受けただ
けで、保険受給権を奪われるのは、保険診療のみを受けて保険を受
給する被保険者との間に生命と健康と給付に関する看過できない不
平等の扱いを受けているといえます。

 また健康保険は支払った保険料の対価ですから、法的にも被保険
者の財産といえるものです。個人の財産を国といえども奪うには、
相当に重大な理由が必要ですが、混合診療がそれに当たるとはとて
もいえないと思います。

 このように健康保険法によって、私が憲法で保障された基本的人
権をこれほど侵されているとするならば、私は健康保険法に対して
違憲の判断を求めるのであります。
 

6.まとめ─私の訴えの真実

 この裁判で私が求めているものは、命の瀬戸際に追いつめられた
難病や重病の患者が、世界の標準治療や先進治療を知る医師と話し
合って選んだ治療が今の日本の保険で認められていないというだけ
の理由で、それを受けた途端に医師の診断やCT検査やインターフ
ェロン治療のような保険診療まですべて保険給付を取り上げられて
自費になるだけでなく、それら大切な保険診療そのものを受けられ
なくなるという理不尽で非人道な国家権力の停止であります。

「著者・清郷伸人氏関連のHP」
http://www.kongoshinryo.net
http://www.seikatsusha.org/ne/kiyosato/


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(マガジンID:0000146184)

−「創刊号」 2005年01月01日発行−
≪2005年05月01日現在読者数:1342名≫


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