衆議院議員選挙(1996.10.20)無効請求事件の上告 (1)千葉県 治田桂四郎初めて、最高裁の外形と大法廷の内部を見た。外は、現代風の城(城壁は、御影石が積み重ねられて いる)、内部は、広く裁判官の席の後ろと傍聴席の後ろに大きな金色に見える太陽を描いたと言われる 抽象画のような西陣織の額が二面づつ据えられている。誠に厳かな感じがした。10時に始まったが、 宮川先生が、トップで用意した原稿(弁論要旨)を読み上げた。関連の方々が続き、昼を挟んで午後も 続いた。最後に被告人からも反論があった。午後3時で終わった (判決は、後日あることになっている)。 下記は、宮川先生の弁論要旨ですので、少し難しいと思いますが、目を通してみてください。 【宮川教授最高裁弁論要旨】○上告人・宮川淑 ○被上告人千葉県選挙管理委員会 ○右当事者間の選挙無効請求事件に関し、上告人提 出の上告理由書を補充して口頭にて以下の陳述を 行います。 ○平成一一年一〇月六日 ○最高裁判所御中 一、衆議院議員選挙区画定審議会設置法 (以下においては、区画審設置法と略します。) 三条二項が、憲法四三条一項に違反する点につい て、上告理由書を補足して述べます。 憲法四三条一項は、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と規定して います。ここにいう「全国民を代表する選挙された議員」という代表論は、すべての個人の対等・平等を 原理とする近代国家の成立に伴って、各地域の利益代表として議員を選出していた中世来の議会が、 人間個人を単位とする全国民の代表選出へと変質した近代国家の議会制における代表原理を示し、 これによって、国会議員は、選挙区から派遣された「代理人」(delegate)ではなく、国民の支配的意思に 政治的には拘束されつつも、最終的には自己の判断と良心に基づいて振舞える「自由委任」(free mandate) の立場にある者として位置づけられたのであります。 以上の憲法四三条一項理解は、憲法学において定説であります。 ところが、「国会および選挙の実態を見ると、 『身分』ではないにしても、『地元利益』や 『業界利益』、『企業ぐるみ』や『組合ぐるみ』など、さまざまの共同体的利益が公然と大きな役割を 演じており、他方では、『地域代表』『職能代表』『利益代表』などの観念を、裁判所の判決までが十分な 検討なしに用いているという事情があるだけに、『代表』のもつ古典的な意味- 代表は選出母体の利益代表 であってはならない、という禁止的な規範意味- に、あらためて注意をむけることは重要である」という 指摘が憲法学者による憲法四三条一項についてのコンメンタールにおいてなされております(樋口陽一他 共著『注釈日本国憲法下巻』青林書院、八六三頁)。 (以下の文献、判例その他からの引用については、それらの名称、頁等を口頭で述べることは省略し、 すでに提出済みの書面中の記述を以って替えます。) では、裁判所による憲法四三条一項の理解はというと、それはこれまで、参議院議員選挙に関する いわゆる定数訴訟において、昭和五八年四月二七日判決( 民集三七巻三号) 以降、その見解が説示されて おります。 最高裁判所の多数意見は、憲法四三条一項にいう「議員の国民代表的性格とは、本来的には、 両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるにかかわらず特定の階級、党派、地域住民など 一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するもの」(同上三五一頁)という理解を示されつつも、 まずは衆議院と参議院を区別し、「ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあっても、 参議院議員については、衆議院議員とはその選出方法を異ならせることによってその代表の実質的内容 ないし機能に独自の要素を持たせようとする意図」(同三五○頁)があるとの認識を示し、参議院の 「地方選出議員の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したから といって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになる ものということはできない」(同上三五一頁)と述べ、人口の少ない県への手厚い議員の配分を肯定して おられます。 つまり最高裁は、衆議院と参議院を区別し、議員が「都道府県代表的な意義ないし機能」を「事実上」 持つ点を、参議院選挙区( 旧法では地方区) 選出議員に限定して認めているのである。言い換えれば、 最高裁は、衆議院議員に関しては、もとより全国民代表であって、都道府県代表的な意義ないし機能を 持つとは全く認識されていないのであります。本件訴訟の原判決の見解は、明らかに最高裁のこの理解と 異なり、都道府県への議員の配分の持つ意味に関し衆議院と参議院を区別していません。(つづく) |