スイス旅行随想録 (3)大田区 大谷和夫[2]言語、交通と観光一方個人旅行となると、交通手段が極めて重要となり、観光についての現地情報も大切である。 この点スイスは流石に観光国だけあって、旅行者にとって大変行き届いたサービスがシステム化されてて いる。 但しご承知のようにスイスの国語は4ヶ国語である。とはいっても 2/3はドイツ語系で大半を占めており 、西部のフランス語系が約2割、南部のイタリア語系は1割以下、東南部のロマンシュ語系は1%以下と 言われている。今回訪問した中でLuganoはイタリア語圏、ChurやSt.Moritz はロマンシュ語圏であるが、 その他はすべてドイツ語圏である。更にドイツ語圏は比較的英語も通じ、観光案内や博物館の説明などにも 英文のものが少なくない。しかし地名なども本来のドイツ語と英語ではニューアンスがかなり違ってくる 場合もあるので、出来れば多少のドイツ語の心得がある方が望ましい。街角や公園での老人との会話も やはりドイツ語優先であった。 それにしても St.MoritzのDorfの丘の先で道に迷い、地元の女性にドイツ語で話かけたら、「ドイツ語 ノー、スペイン語かイタリア語で」といわれて一瞬戸惑った。しかし「Zentral ?」と言ったら 「あーセントラルね」と道を教えてくれてほっとした。鉄道の車掌や大都市の観光案内所では英語も通じる が、小都市やレストランになると大分怪しくなる。尤もドイツ語といってもスイス弁というやつで、 元々ドイツ語で Gruess Gottという挨拶用語をスイス弁では Gruetziといい、何でも挨拶のときにGruetzi というと相手も親近感を持つらしい。これは45年前に仕入れた辞書にない特殊用語であるが、現在も通用 する事を確認した。 スイス国内は、国鉄を始めとして鉄道網が充実している。スイスパスを買っておくと、大半の交通機関、 即ち国鉄、郵便バス全線、多くの湖を航行する船、殆どの私鉄線、一部の登山鉄道、主要都市の市電・ トロバス・バス等の公共交通機関はいつでも自由に乗り放題である。但し一部の登山鉄道、ケーブルカー、 ロープウェイなどは有料で、パスを提示すると運賃が 25%割引となる。ユングフラウヨッホに登る際には、 グリンデルバルドまでは無料だが、そこから上の登山鉄道は有料で、但し 25%割引ということになって いる。 もちろんスイスパスも結構な値段で、例えば15日間1等の料金が2人組だと1人あたりにして37,950円と なる。しかし1日いくら乗ってもグリーン車で2,500円程度と思えば、むしろ良く利用すれば安いものだと いえるかも知れない。しかも喫煙席と禁煙席は仕切で分離されており、車によっては「おしゃべり無用」の マークがついているものもある。最近は国内旅行を殆どしないので国内のグリーン車との正確な比較は できないが、スイスの方が一般的に上等で静かで空いていて乗り心地が良いように思われる。 因みにパソコンの乗り換え案内で調べると、なんと新幹線ののぞみでは東京から新横浜まででグリーン車は 3,710円もするそうである。 列車の場合客の数が少ないせいか、駅には改札がなく、車掌が時々廻ってくるが、一度検札した人は 覚えているらしく、2度と検札を要求されることはなかった。一方市電の方は全然改札がない。 運転手一人で2〜3両連結しているが車掌はいない。これなら無賃乗車ができるではないかという発想自体 がスイス人にはない。車掌がいなくても神様がお見通しというのがそもそもの常識だそうである。 地球環境問題から市内電車も見直されているが、このようなモラルの問題をクリアできないと、 いたずらに人件費がかかって効率的にならないであろう。 スイスの国鉄で便利なのは、例えば Zurich からBasel へ行こうとすると、ほぼ毎時同じ時間に列車が 出ること、又目的地別に専用の時刻表が無料でもらえること、駅では発着の時刻表とホーム並びに一等車の 停車位置が分かるようになっており、更に荷物のコイン・ロッカーが完備しており、鉄道・ホテル・観光の 案内所が便利な所にあることである。勿論少し長距離の列車には食堂車がつき、軽飲食の移動販売車が 廻ってくる。 その代わり、列車は何時とはなくするすると静かに何の合図もなく発車しており、停車する際も駅の アナウンスはなく、次がどこだかも車内放送以外表示は一切ない。それに結構待ち合わせをしているので、 時計の国にしては時間が正確ではなく、最高10分位の誤差がある。 一方観光案内所に行くと、その土地の名所を図示した地図を呉れるところが多い。中には代金をとる所も あるが、どこえ行っても親切に教えてくれる。ただし観光案内所は時々移転するらしく、JTB の ガイドブックに記載されている場所ではない所が二三カ所あったが、これを見つけるのは実は容易では なかった。(Zirich 、Lugano、Churなど) このように旅行者にとっては至れりつくせりのサービスがあるが、しかし観光の対象として街の中や 車窓から眺める風景が美しいだけではなく、治安もよくて安心して旅行できるという点で恐らく スイスは世界で一番ではないかと思われる。そしてそれは他の国が容易に真似ることができないほどの 開きがあるように思われる。又それが一人あたり GNP世界一を継続する力の一部ともなっているように 感じた。 (つづく) |