スイス旅行随想録 (6)大田区 大谷和夫食事に関しては、元来粗食に育ち、何でも美味しく感じてしまうたちで、あまり自分の舌に自信の もてる方ではない。おかげて世界のあちこち出かけても、未だかつて食事の質に苦労したことはない。 従ってあまり味覚の面で程度の高い報告は期待できないが、スイスで感じたことを一通り報告する。 ツアーなどお仕着せの食事の場合は、後からまずかったとか量が多すぎたとか文句を いっていれば済むが、個人旅行では、朝はホテルでのコンチネンタル式朝食でどうもこうもないが、 昼と夜とは全くの自己責任でレストランと食事を選択しなければならない。ガイドブックでおすすめの レストランを探したら、目下Bernなどシーズンオフで休業中などということもあり、又Basel で おすすめの店はクレジットカードが使えないなどということもあった。暖かくなったので、 店の外にもテーブルや椅子を出していて大勢飲食しているので、街を歩きながら美味しそうに 見える店を選んで入ってみた。 一応各地で名物料理というものは一通り食べてみた。名物に旨いものなしといわれるが、それ程まず いということはないが、量の多少が見当つかず、全部食べきるのに苦労したのが再三であった。 日頃から食事で残すという習慣がない上に、スイスでは食事を残す人を殆ど見かけたことがないので、 無理して食べきってしまった。その反動で、あと一食をスープ+サラダ (サラダバーから適当にもってくる)にしたり、生協のスーパーで、パンやソーセージ、 名物の乾燥肉やチーズに牛乳やビールなどを仕入れて、ホテルの部屋で軽く済ませて調節 したこともあった。デザートとしてチョコレートやケーキにも美味しいものが多い。 日本ではメニューといえば食べ物や飲み物のリストを指すが、スイスではリストのことは シュパイゼ・カルテといい、メニューといえば定食となる。一品料理で何がよいか分からぬときなど、 メニューにすると、言わば日替わり定食として前菜・スープ・主皿・デザートと一通りのものが 比較的手頃な値段で出てくる。インターラーケンでは湖の魚料理が出てきた。 一般に日頃食べるのは肉料理で、日本では見かけない子牛肉がよく使われる。ゲシュネッツェルテス は子牛肉の薄切りのクリーム煮でチューリッヒの代表的な料理である。リューシティというジャガ芋 のつけあわせも名物だが、ソーセージなどと組み合わされる。牛・豚・鶏などを細かく切ってスープで 煮込み、パイに包み、キャベツの酢づけを付け合わせとしたベルナープラッテは名前の通りベルンの 名物である。勿論スパゲッティやリゾット乃至中華料理の焼き飯もある。大都市には日本料理店もあるが、 覗く機会はなかった。チーズがなかなか美味しいが、チューリッヒでチーズフォンデューを頼んだ時は、 チーズやパンの量が多いばかりか、付け合わせのジャガ芋の細切りのフライが膨大な量で、 共に食べ終わった時には満腹の度を越してしばらく身動きできなくなってしまった。 南方のイタリア語地域のルガーノではやはりイタリア料理が多く、東南部ロマンシュ語地域の サンモリッツのホテルではスぺインのバレンシア風のパエリアが絵入り看板で宣伝されていた。 勿論魚もあったが、ソーセージや子牛焼き肉と組み合わせたパエリアがあった。 飲み物は地元のワインかビールを頼んだが、まずまずというところであった。又コーヒーはどこでも 大変美味しかった。ただ食事一般でいえば、日本のように変化に富んでいることはなく、 又相対的には物価も高いように感じられた。又今は名物と言っているが、チーズフォンデューなども、 スイスの貧乏時代の苦肉の食べ物だったと言えなくもないような気がした。心なしか溶かしたチーズに 入れるパンの質が昔より随分上等になってしまったように思われる。 (つづく) |