生活者主権の会生活者通信2000年05月号/04頁..........作成:2000年05月07日/杉原健児


東京都の‘外形標準課税’について

埼玉県 河登一郎

【1】石原東京都知事が2月初旬に突如発表した ‘外形標準課税’が大きな反響を呼んでいる。 当然、賛否両論が全国から各分野から嵐のよう に湧き上がっている。いずれが正しいかは別とし て、現在までのところ石原都知事の作戦勝ち、銀 行側の迫力負けの形で実行にうつされる。 賛否両論の要点は下記3のとうりで、それぞれ 傾聴すべき論拠があり、筆者自身生活者の視点か ら、公平に判断しようとすればするほど難題だな と云うのが実感である。 【2】この問題を直接論じようとすれば、それだけ で1冊本がかけるほど内容のあるテーマだが、生 活者の視点からは、実施が決まった問題をアカデ ミックに論ずるより現実をふまえてせっかく提起 された問題をより建設的に活かす方向の検討が重 要である。 以下は、その趣旨での提言である。 賛否両論の要約と、筆者の簡単な意見は、参考 として下記3に整理しておいた。 (1)‘外形標準税の適用対象企業の拡大 本制度の本来の目的は、赤字企業もいろいろな 行政サービスを受けているのだから、サービスを 受ける度合いに応じてコストの一部を負担すべき と云う趣旨の課税公平論である。現在、全国企業 の約 2/3は赤字団体であり、享受している行政サ ービス・コストの応分の負担をしていない。税負 担の平準化・公平化のためにも本税の必要性が永 年叫ばれ、政府税調でも導入が決定していながら、 政治力の強い諸団体からの反対が強く未だ実現し ていない。この機会に全国的に本税の適用対象法 人を一気に拡大すべきである。 税回避目的に悪用されている公益法人やえせ宗 教法人、更には中小企業団体など、政治力の強い 諸団体からの各論反対に対し、選挙を意識した政 府の、先送りや例外ずくりが予想されるが、利害 と結びついた票への配慮が優先しては、公正な課 税は実現しない。(中小企業育成のための支援策 は別の課題である) (2)減税による還元 本税は前述のように、増税が本来の目的ではな く、税負担の平準化、公平さが主目的である。従 って、本税はなるべく広く浅く適用すべきであり、 その結果得られる税収は なるべく早い時期に法 人税・所得税などの減税で還元すべきである。東 京都の場合、現在は危機的状況にある財政改善が 至上命令だが (3)を含め大幅な合理化を実現すれ ば、都民、企業への還元は十分に可能である。 (3)都の行政費および開発費の削減 今回の措置は、都の財政の極端な悪化を改善す ることが目的で、悪化の直接の原因はバブル崩壊 による税収不足であるが、真の原因が長期間にわ たる放漫財政や野放図な、ハコモノ中心の巨額の 浪費であることは誰の眼にも明らかである。しか も、その実態が“伏魔殿”といわれる密室での金 権癒着の横行であったことも周知の事実である。 財政再建の一環として、都職員の賃金の見直し を含む大幅な経費削減に着手したことは評価すべ きだが、一方で廃棄物行政を都の管轄から外して 外郭団体に移すなど(その結果市民の目が届きに くくなる)危険な動きにも注意が必要である。ま た、開発事業も最近は知事の方針で“住民の反対 で停滞している事業はどんどん進めろ“と云うこ とになったらしく、東京湾有明地区の埋め立て、 日の出町のトラスト共有地の強制買収、その他各 地での再開発事業が強引に進められようとしてい ることも危険な兆候である。いずれにせよ、行政 費や開発事業を大幅に削減しなければ、税収をい くら上げても赤字体質は変わらず増税のみが残る。 【3】賛否両論の要約および筆者の評価 <反対論> (1)課税の公平性に反する。 ◇憲法14条1項“法の下の平等” ◇地方税法72条22“著しく均衡を失しないこと” (2)算出根拠(資金5兆円/業務粗利益3%など) が不明確かつ恣意的である。 公益法人・宗教法人・赤字中小企業・信用組合 ・金庫及び外資系企業など本来なら本税を負担 すべきだが政治力が強い対象を、恣意的に巧妙 に避け“取り易い所から取る”と云う戦後税制 の最悪の手法を真似た。 (3)決定過程が密室的、不明朗で 納税者に対する 説明義務、立証責任、情報開示が不充分。 (4)金融再編がおくれる。 <賛成論> (1)法の定める手続きは経ている。地方税法72条19 に基ずき、都議会で充分審議をした上多数決で 決定した。 (2)中央主導、交付金をベースとした中央依存型行 政から脱皮し、真の地方分権を実現するために は、地方独自の財源が不可欠である。 (3)大銀行は 多大な行政サービスを享受し、巨額 の公的資金を受けながら、自己責任の不良債権 処理のため、応分の負担を免れている。 (4)本税の必要性はすでに多くの機関で認められて いるのに、政治の都合で先送りが続いている。 できるところから実施しないと、いつまでたっ ても公正な課税は実現しない。 (5)都の財政は、危機的状況で手段を選べない。 <筆者の評価> (1)今回の課税を租税理論の視点から評価すれば、 上述の如く問題は多いと言わざるをえない。銀 行は世論に迎合したり、お上の顔色を窺ったり せず、全国民監視の下でオープンな議論を堂々 と展開し、法の公正な判断を求めるべきである。 それが民主主義である。 (2)しかし、本税に対する一般的な評価がマスコミ だけでなく、各分野の識者たちからもそうじて 高いのは、大銀行に批判的な感情論だけでなく、 行財政改革の遅れや骨抜きに対する苛立ち、中 央官僚主権行政から地方分権への動き、 さらに は財投資金の極端な浪費や癒着など、現在わが 国が抱えているいろいろなひずみに対する根深 い問題意識があり、これを白日の下にひきずり だした政治的効果は大きく評価したい。 (3)上記のように賛否両論は、議論のベースがずれ ており(賛成派は主として政策論、反対派は税 理論が立論のベースになっている)場合によっ ては裁判所として法解釈の枠をこえた政治判断 は司法になじまないと云うことで、判断を避け る可能性もあるのではないか。とすれば、それ は司法の限界であり 国民の主体的な議論がま すます重要になる。 (4)最後にまったく別の視点からの懸念として、石 原慎太郎と云う人物の持つ民主主義とはなじみ にくい権力的な危険な体質を感じる。今回の課 税問題ではそれが仮にプラスに作用したとして も、今後“生活者の視点”の切り捨てに結びつ く可能性を危惧するのは筆者だけではあるまい。 人物評価に複眼の視点が不可欠な所以でもある。

生活者主権の会生活者通信2000年05月号/04頁