日本のアイデンティティ・・・その特色と反省点大田区 大谷和夫東西冷戦が終結して、フランシス・フクヤマは「歴史の終わり」などと言ったが、同じアメリカからではあるが、 ハンチントン教授は「異文明間の衝突」の可能性を指摘している。人類のIdentityは文化・文明であり、 異文明間の世界戦争を避けるには、世界の指導者が世界政治の多文明性を理解し、力を合わせてそれを 維持しようと努力するかどうかに掛かっている。西欧は西欧文明が特異で普遍的ではないことを認め、 結束して自らの文明を再建することが生き残りの鍵となると言っている。 世界の八大文明は、西欧、中華(仏教)、日本、イスラム、ヒンドゥー、東方正教会(スラブ)、 ラテン・アメリカ、アフリカであり、日本のみ世界唯一の一国一文明である。ということは日本は 東洋でも西洋でもなく、見方によっては世界で孤立しており、逆にフリーハンドを持っているとも 言える。当然であるが日本の外国はすべて異民族、異文明である。 かつての日本は中華文明や西洋文明から学んだ面は多かったが、やはり独自の存在として発展して きており、東洋でも西洋でもない。但し世界の相互関連の中における自国の役割の自覚に欠けている 面があり、更に情報革命に象徴される世界的コミュニケーション構造の巨大な変化は日本自身にとって も歴史的転換点における選択を迫っている。 それでは日本文明の特色は何かと考えてみると、いくつかの独自なものが挙げられる。第一には おだやかに自然と共生してきた世界一長い歴史があり、奴隷制を知らない唯一の国であり、血や生け贄 を好まず、8万種のカビと共存してきた「ルーツ」が挙げられる。第二には「手の文化」が挙げら れよう。日本語には「手」のつく言葉が千以上もあり、「足」の速い人でも選「手」という。日本人の 労働は、みな「手仕事」であり、遊牧民の「足の文化」と対比され、「立たされる」という懲罰は日本 だけである。これが最先端微細技術で日本が先頭を走っている理由でもある。第三には「時間に正確」 なことである。外国へ旅行してみれば分かるが、時計の国スイスの鉄道でも日本程時間に正確ではない。 第四には「独自の言語」が挙げられる。ほかに類似の言語がなく、 世界一複雑ではあるが、世界一速く本が読める。第五には「大いなる和の国」である。一神教は束縛 の神であるが神道は寛容の神である。世界一古い聖徳太子の十七条憲法も「和」が基本である。但し 「和」には「+」の面も大きいが「−」の面もある。 次に海外から日本をみると、戦後の日本人は幾つかの重大な忘れ物をしているのではないかと 思われる。第一は「精神性」で「モノ」指向に走っている。第二には「頭脳」で、GHQ の検閲と洗脳で 戦争罪悪を刷り込まれ、自分の頭で考えることを忘れている。第三には、独立国として世界の中で 行動する「運動能力」に欠けている。第四には、人種が違えば利害調整のため「議論」が必要なのに、 議論が下手でこれを避けてしまう。第五には、現在の日本はまるで米国の保護国のようになっているが、 独立国としての「気概」に欠けている。世界的にみて現在の日本人の異常性の最たるものは、強すぎる 罪悪感と自閉症的な行動力のなさであろう。 日本は島国であり、長い歴史を持っていて風土的に恵まれた点も少なくないが、特に外国との関係で 過去に幾つかの失敗を経験している。その失敗の本質は何かを探ると、そのまま現在の日本の反省点 になる。第一には視野が狭い。第二には合理性に欠ける。第三には学習を軽視している。第四には戦略 があいまいであると指摘されている。これらは日本人論としても指摘されているが典型的な島国的甘え の構造であり、日本人の文化的遺伝子のもたらすものと思われるが、それらを自覚し、視野を拡げ、 合理的に物事に対処し、広く学習し、戦略的に対処するように日本人が変わっていかないと、これからの 世界に対処して行くことは困難であろう。 即ち、異民族・異文明と接触してゆくには、島国根性を脱却し、自立と共生に関する独自の主張を世界 に発信していかなければならないと思われる。 次回は学習の一環として「国家の衰亡と歴史の教訓」について述べる。 参考図書: 「文明の衝突」サミュエル・ハンチントン著 鈴木主税訳 集英社 「日本のアイデンティティ」伊藤憲一監修 日本国際フォーラム 「日本文明の真価」 清水馨八郎著 祥伝社 「日本人の忘れ物」 神山啓二著 清水弘文堂書店 「この国の失敗の本質」 柳田邦男著 講談社 |