道州制について(1)

道州制推進連盟会長 大谷 和夫


(はじめに)


 平成18年2月28日、第28次地方制度調査会は 「道州制のあり方に関する答申について」という答申を内閣総理大臣宛に提出し、道州制の基本的な制度設計を述べると共に幅広い国民的な議論の動向を踏まえて道州制の導入を判断すべきであるとしている。

 このため、国民は今後の国と地方のあり方について、適切な判断が求められているが、道州制という言葉にもあまり馴染みのない方もあり、適当な解説も得難いので、ここに道州制について、読者の皆さんのご理解を得ることを目的に、次のような項目でできるだけ分かり易い解説を試みることとしたい。

 

  1.市町村合併と地方分権の流れ

  2.道州制提言の歴史と道州制の種類

  3.道州制推進連盟

  4.道州制の定義と必要性

  5.道州制推進連盟の目指す道州制

  6.地方と国の役割分担と小さな政府

  7.道州制への再編成案

  8.道州制の政治・財政と期待効果


 

1.市町村合併と地方分権の流れ

1.1 市町村数の変遷


明治の大合併

 明治21年までは江戸時代から引き継がれた自然集落が71,314あった。明治22年近代的地方自治制度である「市制町村制」を施行し、約300500戸を標準規模として全国的な町村合併が行われた結果、39市、15,820町村となり町村数は約5分の1になった。

大正時代

 その後人口の増加と都市化が進み、大正11年には911,242町、10,982村、計12,315市町村となり、以後も市と町が増え、村が減り、市町村数は少しずつ減少していった。

昭和の大合併

 戦後の昭和2010月には、205市、1,797町、8,518村、計10,520市町村であったが、昭和22年5月に地方自治法が施行され、昭和2810月、286市、1,966町、7,616村、計9,868市町村となり、町村合併促進法が施行された。これは新制中学校1校を設置管理するのに必要な人口として、町村は8,000人以上の住民を有するのを標準とし、更に昭和31年に新市町村建設促進法が出され、町村数を約3分の1に減少することを目途とした。この結果昭和36年には556市、1,935町、981村、計3,472市町村となり、市町村数はほぼ3分の1になった。

昭和・平成の大合併

 昭和40年4月には、560市、2,005町、827村、計3,392市町村となっていたが、市町村合併の特例に関する法律(申請期限平成17年3月31)が施行された。その後平成11年7月には地方分権一括法も施行されたが、平成18年4月には778市、845町、197村、計1,820市町村となった。しかし更に市町村の合併は必要であるとの判断から、平成17年4月より市町村合併特例新法が5年間有効ということで施行され現在に至っている。


 

        

 

 

 

 

       備   考

明治22年4月

 39

  15,820

 15,859

前年市制町村制施行で71,314より激減

大正11

  91

 1,242

 10,982

 12,315

 

昭和2010

 205

 1,797

  8,518

 10,520

 

昭和2810

 286

 1,966

  7,616

  9,868

22年地方自治法、28年町村合併促進法

昭和36年6月

 556

 1,935

   981

  3,472

31年6月新市町村建設促進法施行

昭和40年4月

 560

 2,005

   827

  3,392

市町村合併特例法施行

平成18年4月

 778

  845

   197

  1,820

17年より市町村合併特例新法施行

 

 

1.2 市町村合併の背景は何か?


 明治以来市町村合併が進められてきたが、その背景として主な項目を5点挙げてみる。

①地方分権の推進 

 平成11年、地方分権一括法が出て、自己決定・自己責任のルールに基づく行政システムの確立が求められているが、各地域が個性ある多様な行政施策を展開するには、一定の規模と能力(権限、人材、能力)が必要である。 

②少子高齢化の進展

 少子高齢化から人口減少状態が始まってきたが、市町村が提供するサービスの水準を確保するためには、ある程度の人口の集積が必要である。

③広域的な行政需要の増大

 人々の日常生活圏が拡大するに伴い、現在の市町村の区域を越えた行政需要が増大しており、新たな市町村経営の単位が求められている。

④効率的行政改革の推進

 国・地方を通じて、極めて厳しい財政状況にある中、国・地方とも、より一層簡素で効率的な行財政運営が求められており、更に一層の行政改革の推進が必要である。

⑤昭和の大合併(昭和30年前後)から50年が経過し、時代が変化

 例えば、交通、通信手段が飛躍的に発展しているが、それに対応して新たな市町村経営の単位が求められている。

 以上の背景から基礎自治体である市町村の行財政基盤を強化する必要があり、そのための必要な手段として市町村合併が進められている。現在の市町村数は1,820であるが、更に合併を進めて1,000位にしようという案と約300に集約しようという2案が現在ある。


 

1.3 市町村合併のメリット


 市町村合併により行政基盤の強化をはかれば、住民にとって次のようなメリットがある。

①住民の利便性の向上

  旧市町村の境界を越えて、学校とか保育所などの公共施設の利用・サービスが可能になる。

②サービスの高度化・多様化

 保健師や診療所など、専任の職員・組織を置くことが出来るようになり、より多様な行政施策の展開が可能になる。

③広域的なまちづくり 

 広域的な視点にたって、魅力ある美しいまちづくりをより効率的に実施できる。

④行財政の効率化

 合併によって、それぞれのまちが別々に行っていた仕事をまとめるので、市町村の三役(首長、助役、収入役)や議会の議員が全国では大幅に減少し、人件費だけでも大幅に削減され、行財政の効率化が図れ、これからは市町村の時代になる。


 

1.4 市町村合併特例新法とは


 既に市町村合併特例法で市町村数は1,820となり、村のなくなった県が13、村の数が1つの府県が11となったが、全国的に健全な基礎自治体を作るには尚市町村合併が必要という見地から、平成17年4月より5年間の時限立法で市町村合併特例新法ができた。

①合併特例区制度等の創設

 合併関係市町村の協議で、1又は2以上の旧市町村単位に法人格を有する区(合併特例区)を一定期間(5年以下)設置でき、区長を置き、住所表示にその名称を使う事ができる。

②市町村の合併に関する障害を除去するための特例措置

 地方税の不均一課税、議員の在任特例等、現行合併法の特別措置は基本的に存置。但し合併特例債は廃止し、合併算定替は、現行の特例期間10年を段階的に5年に短縮する。

③市町村合併推進のための方策

○総務大臣が、市町村の合併を推進するための基本方針を策定する。

○それに基づき、市町村合併推進審議会の意見を聴き、都道府県が合併推進構想を策定。

○都道府県知事は、構想に基づき、申請に基づき市町村合併調整委員を任命し、合併協議会に係る斡旋、調停ができる。又合併協議会設置の勧告、議会が否決したら住民投票を請求できる。市町村の合併に関する協議の推進に関し、勧告を行う事が出来る。


 

1.5 地方分権の推進と地方分権一括法


 平成5年6月地方分権の推進に関する決議が衆議院及び参議院で行われ、平成7年5月には地方分権推進法が可決し、同年7月には地方分権推進委員会が発足した。以後平成1011月まで5次に亘る勧告が出され、平成11年7月地方分権一括法が成立し、平成12年4月施行となった。

 地方分権一括法には宮内庁・科学技術庁を除く全省庁、24府省庁・委員会に関係する475件の改正法律をとりまとめたもので、法律本体で1200頁強、要綱、新旧、参照条文を合わせると4000頁弱という膨大な分量の法案となっている。

 地方分権一括法の特徴を要約すれば以下の8項目となる。

①国と地方公共団体が分担すべき役割の明確化

 地方公共団体は、住民福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担う。

 国は、国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい事務や全国的な規模で又は視点で行うべき施策や事業の実施、等を重点的に担う。

②機関委任事務制度の廃止とこれに伴う新たな事務区分の創設

 これまで都道府県知事や市町村長を国の出先機関とみなして事業を行わせていたものを機関委任事務と言い、都道府県の事務の7~8割、市町村の事務の3~4割を占めていたが、地方公共団体の長に対する国の包括的な指揮監督権を廃止し、地方公共団体が処理する事務を新たに自治事務と法定受託事務とに区分することとなった。

 尚機関委任事務の廃止に伴い、国が直接実施する事務に変更されたり、事務自体が廃止されたり、自治事務に変更されたものもある。

 又法定受託事務では地方議会の権限が及ぶことや、条例を制定できることなど幾分地方の主体性を発揮する条件が広がったが、尚法定受託事務が多すぎると意見もあり、今後その事務区分を適宜、適切に見直す旨の条文が国会審議で追加された。

③地方事務官制度の廃止

 機関委任事務制度の廃止に伴い、この制度を前提として成り立ってきた地方事務官制度をすべて廃止することとした。(社会保険関係、職業安定関係など)

④国の関与の見直し

 国による地方への関与は、法令に根拠をもたないものは認められなくなり、自治事務、法定受託事務ごとに、関与の基本類型が置かれることになった。又関与を行う場合も、原則として書面によるなどのルールも定められた。更に関与が廃止されたり、関与が縮減されたものも沢山ある。又国と地方公共団体との間に係争処理の仕組みも作られた。

⑤権限移譲の推進

 国と地方公共団体との役割分担の原則を踏まえて、国から都道府県、都道府県から市町村への権限移譲を行うこととした。又人口20万人以上の市は特例市として都道府県の一定の権限を包括的に移譲する新しい制度も設けられた。

⑥必置規制の見直し

 国が法令により一定の職員や組織の設置を全国一律に地方公共団体に義務付けることを廃止又は緩和し、柔軟な設置を可能とする事にした。

⑦地方公共団体の手数料に関する規定の整備

 機関委任事務制度の廃止に伴い、手数料については、すべて条例で定めることとした。尚全国的に統一した取り扱いが特に必要と認められる手数料については、原則として改正後の地方自治法で一括して定められている。

⑧地方公共団体の行政体制の整備・確立

 今回の地方分権改革をより効果的にするために、地方公共団体の行財政能力の一層の向上と行政体制の整備確立が強く求められることになる。このため、自主的な市町村合併の推進、地方議会の活性化、中核市の指定要件の緩和等を行う事にしている。

 自主的な市町村合併の推進では、旧市町村の区域ごとに置くことができる地域審議会の設置、合併特例措置の創設、普通交付税の算定の特例期間の延長等を行い、地方議会の活性化では議案提出要件や修正動議発議要件の緩和、議員定数制度の見直しを行うことにしている。又中核市では昼夜間人口比率の要件を廃止し、平成12年4月、全国で川崎市をはじめ5市が指定対象となることになる。