道州制について(2)
道州制推進連盟会長 大谷
和夫
2.道州制提言の歴史と道州制の種類
2.1 道州制提言の歴史
明治維新で全国に9府20県273藩を設けてから、還暦に相当する60年目の昭和2年に、田中義一内閣より「州庁設置案」が出されたのを始めとして、各方面から種々道州制関連の提言が出されている。その中の主なもの17件を列挙すると下記のような一覧表となる。ただし道州制の性格としては種々であり、必ずしも一義的ではない点注意を要する。
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年 |
提言者 |
提 言 内 容 |
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1 |
1927年 (昭和2年) |
田中義一内閣 行政制度審議会 |
○州庁設置案 *数府県を包含する行政区域としての州を設ける。 *北海道を除き、全国を6州とし、国費の州庁を設け、州長官を親任。 *府県は地方自治体とし、長は公選。 |
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2 |
1957年 (昭和32年) |
第4次地方制度 調査会 |
○「地方制」案 *府県を廃止し、全国を7~9ブロックに分け、「地方」を設置。 *首長は官選、議員は公選。(自治体的性格と国家的性格を併せ持つ) |
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3 |
1969年 (昭和44年) |
関西経済連合会 |
○地方制度の抜本改革に関する意見 *府県廃止、全国数ブロックに分け、道又は州を設置。 *道州の首長と議員は住民の公選。 |
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4 |
1970年 (昭和45年) |
日本商工会議所 |
○道州制で新しい国づくりを *府県廃止、全国8道州に区画。 *道州は国と市町村の中間公共団体。 *知事及び議会は住民の直接公選。 |
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5 |
1982年 (昭和57年) |
日本商工会議所 |
○新しい国づくりのために *府県廃止、地方公共団体としての「道」を設置する。 |
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6 |
1990年 (平成2年) |
日本青年会議所 |
○地方分権への誘い(連邦制) *県合併8州とし、国の権限移す。 *市町村は合併して「藩」とする。(人口20~30万、数は400~500) *連邦政府は州の委託で、外交、防衛、国土計画、基準の設定等を行う。 |
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7 |
1991年 (平成3年) |
岡山県 |
○連邦制の研究報告書 *府県廃止、立法、司法、行政の機関を備えた7州を設置。 *州内の基礎的自治体は市町村、州内の地方自治制度は州法で決める。 *連邦は外交、防衛、金融、社会保障等統一国家存立に必要最小限の事務を担当。 |
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8 |
1992年 (平成4年) |
恒松制治 元島根県知事 |
○連邦制のすすめ *基礎自治体は人口20~30万の市。 *市の共同体として全国に8~10の州を設置し、広域行政を担う。 *連邦政府は外交、防衛、国家規模の計画や民法など基本的法規の制定。 |
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9 |
1992年 (平成4年) |
平成維新の会 大前研一代表 |
○「道州制」論 (連邦制) *人口1,000万単位の10の道州を設置、道州は経済的に自立。 *国は各道州の共同経営体。外交、国防、全国共通最低限の基準設定。 |
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10 |
1996年 (平成8年) |
PHP研究所 無税国家研究プロジェクト |
○日本再編計画 州府制構想 *市町村再編257府とし、府は福祉、保健など生活関連行政を担当。 *都道府県再編12州とし、州は府単独でできない広域行政等のみ担当。 *国の役割は、国防、外交、全国的ルール設定などに限定。 |
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11 |
1997年 (平成9年) |
読売新聞社 |
○12州・300市体制 *市町村を300程度の市に再編。 *都道府県を12の州に再編。 *市は生活関連行政、州は広域行政と市間調整、国は内政面の役割縮小、国際化への対応。 |
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12 |
1999年 (平成11年) |
PHP政策研究 レポート |
○地方政府の確立に向けて *国は外交、国際調整業務等に特化。 *市町村は基礎自治体として地域住民に関わる業務を分担。 *12の道州政府を設け、市町村地域間の調整業務を行う。 |
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13 |
2002年 (平成14年) |
PHP総合研究所 実効ある地域主権研究プロジェクト |
○地域主権の確立に向けた7つの挑戦-日本再編計画2010- *市町村257府、都道府県12州へ。 *国は国防、外交、司法、社会保障。 *州は府が単独で出来ない広域行政。 *府は生活関連行政を担当。 *国庫支出金廃止、税源19兆円地方へ移譲、地方交付税廃止、州間財政調整制度を導入。 |
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14 |
2002年 (平成14年) |
全国経済同友会 地方行政改革推進会議 |
○自ら考え行動する地域作りを目指して *国の役割を限定し、地方の事は地域の権限と責任で実施する。 *人口10万人以上の市-都道府県を広域統合した道州-国に再編する。 *人口10万人未満の市町村の社会資本は道州制が補完する。 *税源移譲、地方交付税廃止、新しい財政調整制度を導入する。 |
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15 |
2006年 (平成18年) |
第28次地方制度調査会 |
○道州制のあり方に関する答申 *道州制検討の方向 ①地方分権推進、地方自治充実強化。 ②自立的で活力ある圏域の実現。 ③国と地方の行政システム効率化。 *基本的な制度設計を示し、地方制度として道州制の導入が適当と答申。 |
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16 |
2006年 (平成18年) |
経済同友会 |
○基礎自治体強化による地域の自立 *多様な個性を競い合う、自立した地域社会構築のための5つの提言 ①地方行財政改革の本格的着手。 ②第2期三位一体改革の確実な推進。 ③基礎自治体の強化(30万人・300市)と道州制を含め、10年以内に自治体再編し、新たな地域行財政確立。 ④自治体の自立の促進。5年以内1/2。 ⑤歳出・歳入のガバナンスを働かす。 *国民は地域経営に関心を高めよ。 |
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17 |
2006年 (平成18年) |
関西経済同友会 地域主権推進委員会 |
○5年以内に連邦的道州制へ移行 *憲法改正廃県置州で地域主権実現。 *国と地方で55兆円の歳出削減、公務員は一旦解雇し85万人削減、教育公務員等126万人を民間に、公務員支援事業団設立、憲法改正し道州の自治権明示。 *国民は自分のできることで社会に貢献し、自立した暮らしで国家にぶら下がらない。 *基礎自治体は300小選挙区を目安に人口40万人程度の地域に再編。 *国際競争力ある多様な道州を育てリスクを分散。 |
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2.2 道州制の種類
道州制提言の歴史を見ると、いろいろな道州制が提言されている。これらを道州制の種類として以下の3種類にまとめてみる。
① 都道府県合併型道州制
空港、港湾、環境などで、現在の都道府県を超えた広域行政が必要になったので、中央集権制のまま、都道府県をいくつか合併して道州とする。
国や市町村については従来通りで、道州が国の下部機構となる。その下部組織として従来の都道府県が来る場合と、都道府県は廃止して、直接市町村になる場合とある。最近は都道府県廃止論が強い。
道州の知事は、官選の場合と住民の公選の場合とある。
道州制になっても、州都などで現在の中央集権制のイメージが残っている人が多い。
② 連邦制型道州制
平成2年から4年にかけて提言され、その後しばらく途絶えていたが、平成18年になって関西経済同友会から5年以内に連邦制的道州制へ移行せよ、というかなり強硬な提言が発表された。これは次の地方自治実現型道州制と似ているが、行政だけで地域の自立は難しいと見て、立法、司法も道州で持ち、国はアメリカ他諸外国のように道州の連邦政府とするものである。これは日本の国情にあっているかどうかの論議もあり、少なくも憲法の改正は必要である。尚基礎自治体が道州の下部組織なのか、自立組織なのか不明のものもある。
③ 地方自治実現型道州制
平成8年以降主流の考え方で、現在の地方公共団体を地方自治体とすることを狙っている。まず市町村合併を推進して生活関連行政を強力かつ効率的に担当できる基礎自治体を形成し、その連合体として都道府県を廃止して広域行政を担当する道州を置く。
従って国の役割は国防、外交、社会保障、基本的ルールの設定等に限定し、主として国際場裡での活躍を期待し、地方のことは権限・責任共にできるだけ地方で行い、文字通り国家形態を再編して本来の地方自治を実現するものである。地方自治とは本来権限を持って自立することであり、国へのぶら下がりから脱却することである。