経団連「道州制の導入に向けた第1次提言」要旨

発表 2007年3月28日 日本経済団体連合会)

道州制推進連盟 会長 大谷 和夫

はじめに

 経団連は行政改革推進委員会のもとに「道州制に関する検討会」を設置し、有識者からの提案と助言を得ながら道州制導入の目的やその効果について検討を進め、道州制に関する基本的な考え方をとりまとめたのが本提言である。

 

1.これまでの地方分権改革、税財源移譲の評価と課題

(1) 「上下・主従関係」から「対等・協力関係」へ

 2000年の地方分権一括法の施行で、国と地方の関係は、形式的には「上下・主従関係」から「対等・協力関係」になり、第1次地方分権改革と呼ばれるが、国から地方公共団体への権限移譲はまだ不十分である。

(2) 不十分な税財源移譲

 第1次地方分権改革以降、三位一体改革が行われた。これは@国庫から地方公共団体への補助金の減額、A地方交付税の見直し、B地方への税源移譲、を同時に行うものであったが、地方交付税や財政調整をめぐる問題は決着しておらず、国から地方へなお巨額の財政移転が続いている。

 

2.道州制導入の意義・目的

(1) 統治機構の見直しを通じた政策立案・遂行能力の向上

 もはや、全国画一的な政策のもとでは新たな活力は生まれず、今後は、多様性を容認しつつ、地域の自立のもとで新たな付加価値を生み出すことが必要である。このため統治機構の抜本的改革を通じて、我が国の政策立案と政策遂行の能力の飛躍的向上が期待される。

(2) 地域経営の実践による選択と集中

 道州制のもとで道州が担うべき政策のフレームは次の三つである。

@住民が安心して暮らせる地域づくり

A地域の発展に向けての基盤づくり

 B地域における産業政策の策定

(3) 地域における行政サービスの質的向上

 「民間でできることは民間に」の理念で、国・地方を通じて官の役割を必要最小限に止めると共に、国と道州、基礎自治体、さらには地域コミュニティとの間で、適切な役割分担を実現し、持てる資源を集中し、行政サービスの質的向上に努めることが必要である。

 

3.道州制の導入によってかたちづくられる新しい国の姿

(1) 個性ある地域づくりと分散型国土・経済構造の形成による国際競争力向上

 道州制の導入により地域の自立性・自主性は飛躍的に高まると期待される。道州は10程度としても欧州の主要国と比べても同等の経済力、人口規模を有しており、直接海外のダイナミズムを取り入れながら地域の活力を更に高められ、東京一極集中も是正の方向に向かい、地域間の経済格差の是正も期待される。

(2) 官と民、国と地方の役割の再構築、地域コミュニティの活用

 真の地方自治の実現をはかり、住民に近い行政サービスは基礎自治体で、広域行政は道州が担い、国は外交、防衛等国として必要最小限に限定し、補完性の原則に基づく明確な役割分担がなされ、国・地方を通じた簡素で効率的な体制が実現される。

 加えて、行政サービスによらない「共助」「相互扶助」の仕組みを、住民、NGONPOなどの地域コミュニティで復活し、基礎自治体の行政サービスと組み合わせると良い。

 又、道州、基礎自治体が担う事務・事業は自主財源で遂行するのが基本であり、各地域で課税の在り方が模索されよう。全国的財政調整は、それぞれの道州が財政的自立を果たせるまでは、明確でわかりやすい基準の交付金制度とし、以後国の関与なしに道州間で配分し決定する仕組みを導入すべきである。

 住民自治の基本的単位である基礎自治体の数は300500程度とすることを目指し、市町村合併はさらなる見直しを行うべきである。

(3) 国・地方を通じた行財政改革の実現

 国・地方支分部局から道州へ、都道府県・政令市から基礎自治体へ権限移譲により、道州や基礎自治体の公務員には行政能力の飛躍的向上が求められ、国家公務員についても同様である。

 他方行政の一元化で公務員数及び人件費の削減も可能となり、財政健全化の道筋が明確になると共に、少子化・高齢化の進展で減少する労働力人口の新たな供給源になる。  

 さらには政治の在り方も大きく変化し、国会議員や地方議会議員の数もスリム化されると共に、選挙での争点が明確になる。又増大する役割にふさわしい地方議会とすべく、その在り方や体制を大幅に改革する必要がある。

(4) 地域づくりにおける主体性の尊重

 道州が当該地域の経済社会のグランドデザインを描き、基礎自治体と地域コミュニティが具体的な地域づくりを担うことになる。従って住民はこれまで以上に地域づくりに関する意志決定に関与することができる。

 企業も又、各道州の努力や独自性を踏まえて、本社や工場等の立地および事業戦略を選択できるようになる。

4.道州制導入に向けての道筋

(1) 政府によるイニシアティブ

 道州制の導入実現には政治の強力なリーダーシップが必要である。3年以内にとりまとめる「道州制ビジョン」で道州制に関する国民的論議を喚起することがまず必要である。その上で内閣、地方代表、民間有識者からなる「道州制導入に関する検討会議」を早期に立ち上げ、具体的課題を整理すべきである。

 2015年度を目途に道州制導入を目指すには、遅くも2013年までに関連法案を制定し、2年程度の移行期間で道州制を導入する必要がある。

(2) 責任分担型の社会を目指した国民の意識改革

 「お上依存、国依存」意識を払拭し、行政サービスについては既成概念を一切捨て去り、住民自治の原則に基づいて、「責任分担型の社会」に転換すべきである。住民一人一人の自助自立の意識が、地域に豊かさと活力をもたらす前提となることを強く訴えたい。

(3) 日本経団連の取り組み

 道州制の導入は「究極の構造改革」であり、地域経済の自立と活性化につながる点を強調し、各地の地域経済団体とシンポジウムを共催するなど導入機運を高めて行く。

 又今後の国政・地方選挙では道州制導入をマニフェストに掲げるよう働きかける。

 さらに道州制に関する具体的な制度設計について検討し、政府・与党などに提言する。

5.道州制憲章7ヶ条(試案)

 各地域がこれをモデルに独自の憲章を策定し、住民の自立自助への意識を高めてほしい。

@国に依存せず、地域の個性を活かし、それを磨き上げる心が日本全体に活力をもたらす。

A地域の自立は、そこに住まう住民の発意と熱意によって実現される。

B日本に、世界に誇れる街づくり・地域づくりを進める。住民全員が努力し責任を果たす。

C地域を愛し、地域のために尽くす人材は、地域の宝である。

D一人一人が生涯を通じて地域に根ざし、はつらつと生活し、学び、働ける地域をつくる。

E多様な挑戦の機会にあふれ、全員切磋琢磨する社会をつくる。又弱者に手を差し伸べる。

F家庭を基本単位とし、住民が相互に支え合う地域をつくりあげる。

6.おわりに

 本提言は基本的考え方で、更に検討会で下記の具体的第2次提言を2008年秋に纏める。●国、道州、基礎自治体の位置づけ、役割と権限。●中央省庁の再編。●道州間の財政調整の在り方。●道州制導入による経済波及効果の推計。●首都の位置づけ、大都市制度の在り方。●相対的に経済活性化が遅れている地域の取り扱い。●道州への移行プロセス、先行的導入の実現に向けた制度設計。●憲法を含む必要な法体系の整備。

(07-04-04)

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☆この文章と次頁の「道州制・最近の注目情報」は、道州制推進連盟の4月定例会での配布資料です。