集団的自衛権について

東京都文京区 松井 孝司


平岡氏が本誌6月号に投稿された「集団的自衛権、是か非か」について一言コメントさせていただきます。

 

集団的自衛権は憲法改正の観点から議論されることが多いのですが、「権利と義務」の観点から考えてみるのも有意義と思います。

「集団的」という文字から明らかなように集団的自衛権は「国家」の権利です。「権利」には当然「義務」が伴います。「権利」だけ有って「義務」が無い相互契約はありません。

日本国は集団的自衛の「権利」を持っているが行使しないので、「義務」も発生しないというのが日本政府の見解でした。しかし、権利を主張する場合は当然、義務を免れることはできません。

朝日新聞の集団的自衛権行使を否定する社説「日本の新戦略―地球貢献国家を目指そう」は力作と思います。特に世界のグローバル化を肯定し、「国民国家」という概念に囚われていない点を評価します。(注)

君主制の時代には国民、国家という概念は存在せず、国境もありませんでした。君主制が崩壊し、王の財産、土地は誰のものか?という問題意識が芽生え、王の財産の正当な相続人として国民という概念が生まれ、国民国家という政治形態が18世紀末に誕生したのです。この政治形態は19世紀に全世界に広まりましたが、宇宙の悠久の歴史からみれば、国民国家の誕生はつい最近の出来事です。

アストロバイオロジーの必要性を説く松井孝典東大教授は20世紀の価値観は21世紀には通用せず、20世紀的生き方を続けて行けばエネルギーの供給に行き詰まり、国家、通貨という「共同幻想」は破綻し、その結果として人間圏も破綻するといっています。

日本が19世紀に採用した「富国強兵」というスローガンは、20世紀末には過去のものになっています。特定の国家だけの繁栄は許されない理念であり、21世紀末には国民国家という概念も過去のものになるでしょう。

人類は運命共同体として、新しい価値観を構築しなければ存続できないからです。

人間圏を存続させるために、国境の撤廃が重要課題になるでしょう。

国家が無くなれば、集団的自衛権という「権利」も消滅することになります。 


注)5月3日付、朝日新聞の21の社説は右のページで読むことができます。URLhttp://www.asahi.com/strategy/index.html