政権交代のチャンス到来か?

東京都文京区 松井 孝司


財務省は去る8月24日、平成17年度の政府の貸借対照表をまとめ、国の資産から負債を差し引いた債務超過額は289.2兆円になったと発表した。

国家の債務は未来の税金である。官僚が自らの首を絞めるような悪い数字を公表するのは、増税をするための準備であり、「財務省は国民を騙している」と警戒するのは民主党の河村たかし議員である。

最近の相次ぐ閣僚の辞任劇は政治家の金銭感覚が麻痺していることを実証してくれたが、金銭感覚麻痺による税金の無駄遣いとバラマキ行政が、財政破綻を生むのは必然だろう。

雇われ公務員の財務省の官僚が心配して債務超過額を公表するのに、国民から選ばれた真の公務員である国会議員がこの事実に頬かむりをし、付加価値を生まない豪華な庁舎や議員会館を建てつづけ借金を増大させているのは、衆愚政治そのものである。経済音痴の政治家が政権を担っていては日本経済が長期に亘って停滞するのも当然だ。

今から10年も前に、時の武村大蔵大臣が財政危機宣言を出したがTax Eaterの政治家は聞く耳を持たず、政府の負債額合計は980兆円の巨額に達している。

毎年100兆円を超える巨額の借換債が低金利に抑えられているため財政破綻が顕在化していないだけで、実体はすでに破綻しているとみるべきだろう。日本銀行が金利を上げたくても、日本政府に金利を上げる余力は無い。

 

Tax Eaterに立ち向かい「自民党をぶっ壊す」と叫んで「小さな政府」への改革を明言した小泉内閣が国民の絶大な支持を集めたのは、大増税を回避するために大改革が不可避であることを国民が直感しているからではなかろうか?

幸か不幸か、小泉改革を引き継いだ筈の安倍内閣は突然、主が入れ替わり派閥談合の政治に戻ってしまいそうだ。

小泉内閣が言葉だけの改革に終わり、政府の債務を増大させたのは小泉氏が所属する政党の議員の多くが職業政治家で既得権益の代弁者であったからである。

国会議員が既得権益の代弁者では改革を続けることは難しい。既得権益と無縁の政党による政権交代だけが、真の改革を可能にするのだ。

 

政府に対する「財政破綻」宣告こそ野党に許される特権で、政権与党に引導を渡すための絶好の武器になる。

野党第一党の民主党が賢明な国民に代わって、この「宣告」を出すことは権利であり、義務でもある。そうすればTax Eaterに支配される無責任な政府の実態を国民に周知させることになり、民主党にとって次回総選挙が有利になることはあっても、不利になることは無い。財政破綻が顕在化して不利を蒙るのは、既得権益を享受してきた人たちである。

 

「そのうち何とかなるだろう」と気楽に構えているすべての国民に危機感を持ってもらわなければならない。

当然、既得権益を持つ民主党支持者にも犠牲を伴うが、次世代に借金の付けを回さないために犠牲を受け入れる覚悟が必要だ。

不公平な公的年金制度を改革して制度を一元化するためにも、また巨額の年金過去債務を解消するためにも、高額の年金を受給している高齢者の既得権益への切り込みは欠かせない。官民格差是正のために高額の給料、退職金と共済年金で既得権益を享受する高級公務員は、給料、退職金カットなどの犠牲を受け入れなければならない。公務員は夕張市の職員と同じ運命にあることを自覚する必要があるのだ。

「財政破綻」宣告は政権交代を促すだけでなく、政権交代後のドラスティックな改革を可能にするだろう。財政破綻の実体から目を逸らすことなく、国民にも犠牲を強いる抜本的改革案を提示し、賢明な国民の支持を仰がなければならないのである。

 

巨額の債務超過という「癌」を治療するためには小手先の対症療法では間に合わず、小泉内閣が果たせなかった真の骨太の構造改革が必要になる。

小泉内閣が口先だけで唱えた「道州制」の導入こそ明治の廃藩置県に匹敵する大改革で、当然のことながら士族(=官僚)からの大反対が予想される。「道州制」は民主党のマニフェストに早くから掲げられていたが、民主党が困難を予想して具体化を躊躇しているうちに自民党に政策の名称だけ摘み取られたのが悔やまれる。

 

中央省庁を縮小解体し、多くの権限を地方政府に移す「道州制」は、中央集権制のもとで生れる巨大な利権と税金の無駄遣いを一掃する有力な手段となり、東京一極集中から「多極分権国家」への変革は、地方経済の活性化に大きく寄与するだろう。

少子高齢化で縮小する国内経済だけに囚われていたら衰退する地方経済の活性化は不可能である。世界中から人材と企業を誘致するために、交易権と課税権を含めた強力な権限を持つ民間主導の地方政府が必要だ。国民の金融資産を税金という形で中央政府に拠出することを止め、個人と地域のために有効活用する政策が重要になる。税制の合理化で民間の豊富な資金を起業による付加価値の創造に誘導すれば、1500兆円を超える金融大国の日本がGDPの4%以上の経済成長を達成することは容易だろう。

 

財政破綻の顕在化を目前にする次回総選挙は政権交代の絶好のチャンスだ。

政府の巨額の累積債務をどのように縮小するのか?民主党は国民の叡智を結集して全国民が目を覚ます画期的な政策を立案し、具体的な数字を挙げてその方法をマニフェストに明記する必要がある。

政権交代が行われても株価暴落の心配がなく、地方経済の飛躍的発展が期待できるマニフェストが求められる。

政権を担う政党が賢者の集団に生まれ変わり、既得権益に毒される衆愚政治と決別して賢明な国民が支持する「道州制=多極分権国家」の実現に乗り出せば、日本のGDPは倍増し、明治維新、第二次大戦後の改革に続き、借金漬けの日本は三度目の奇跡の再生を果たし、世界の耳目を驚かせることになることになるだろう。

しかし、「道州制」という困難な改革を避け、弥縫策の繰り返しで衆愚政治に埋没すれば、日本の再生は夢で終わり財政破綻が現実となって、大増税と長期に亘る経済の低迷で日本は凋落への道を歩むことになるだろう。