「議員の皆さん、市民と一緒に勉強しましょう」

埼玉県所沢市 河登 一郎

所沢市の日刊紙「新民報」に私見が掲載されました。所沢市固有の問題がベースですが、当会の活動方針である地方自治とも関連し、他の自治体にも共通する問題を含んでいますので、参考までに投稿しました>


1.若い頃から、国政や国際問題にはずっと関心を払って来ましたが、所沢市政に関心を持つようになったのは比較的最近です。この間市政について勉強する機会や、問題意識を共有する多くの市民・議員・市職員との接点もふえました。

2.なるべく率直に問題提起したいと思います。

(1)市議会が本来果たすべき<行政へのチェック機能>も、<立法(条例制定)機能>も、充分に果たされていないと思います。議案の殆どが行政提案であり、実質的な議論が少ないまま圧倒的多数の賛成で原案通り可決されていることからも推測できます。「殆どの自治体議会で八百長と学芸会」と喝破したのは、この辺の事情を熟知している自治省出身の元鳥取県知事です。

(2)特に問題なのは多くの案件に関して、<充分な判断材料>が欠如したままで結論が出されていることです。議案を判断するためには、賛否の根拠=プラス面とマイナス面:費用対効果が分りやすく比較されていなければなりません。

(3)具体的な例を挙げましょう。

@数年前から行政業務の民間委託や指定管理者への移行が進められています。一般的に云ってやり方が正しければ、官より民の方が効率は高い=安いコストで高いサービスが提供できるケースが多いからですが、行政コストを見かけ上減らすために行われる場合も少なくありません。

A移行の前後で何がどう変わったのか、費用と効果を全体として分りやすく比較した説明は殆どありません。移行の結果、行政の人件費が軽減されたと云う資料はあっても、移行に伴う委託費の増加;逆に減少する手数料収入;市民負担利用料;更に行政サービス(休日利用)は悪くなっていないか;事故の際の行政責任の有無など、移行が市民・納税者にとって改善だったか改悪だったかを比較するためには、部分ではなく全体を比較しなければなりません。読者諸賢は、ゴミ回収事業の民間委託や指定管理者への移行(ラーク所沢・駐輪場・ミューズなど)が、市民・納税者にとって改善・改悪、どちらだったと思いますか、判断の根拠は?・・・正確には分らないと思います。判断材料が不充分だからです。恐らく行政にも分っていないと思います。そういう問題意識がないので正確な比較資料を作っていないからです。

(4)数年前のことです。ある議員から、「この議案は賛成すべきか反対すべきか良く分らない。」と相談されたことがあります。議会で配布された資料はA-41枚だけで、部分的に良いことだけが羅列されていました。これでは全体が判断できないので担当課に説明を求めたところ、内部資料を見ながら丁寧に説明してくれました。問題点は理解できましたが、市会議員が何故賛成したのか理解できませんでした。市職員とこんな会話をしたことを鮮明に覚えています。

私:「本件に多数議員が何故賛成したのだろう?」

職員:「分りません」

私:「ここまで詳しく説明しましたか?」

職員:「あの人たちに説明したって、どうせ分りませんよ」。 「……」

・・・これが多くの議員に対する市職員(特に優秀な職員)の本音の評価です。

(5)会派間の論争も重要ですが、それ以前に、議会の名誉にかけて、「大人が判断できる材料」を行政に要求すべきです。内容が良く分らないままで賛否を判断することは有権者への背任です。

3.予算・決算の審議や、行政が策定する諸計画についても同様です。予算・決算についてはあの膨大な資料のどこが重要で何が隠れているかを正確に理解できる議員は(監査委員を含めて)極めて少ないと思います。また、多くの計画が「美辞麗句」を羅列しただけで終っており、具体的・建設的・定量的な目標が欠如しているケースが何と多いことか。

4.こんな状態が長年放置されてきたのですから、市職員が議員や市民を軽視するのは当然かも知れません。行政を非難する前に、まず自らの努力が必要です。しかし、個々の議員に、財政・教育・福祉・環境・農業・税制その他すべての問題に関して、プロ集団たる市職員に対応できる知見は期待できません。一方、団塊の世代の定年到来に伴って、分野によっては深い知見を持っている多くの市民が市政に関心を持つようになってきました。これからは、議会自身も情報公開と報告を徹底し、市民の知見を活用する仕組みを作ることが、市政全体の質を高める重要な契機になると思います。