農家の生の声を取材しました
当会の運営会議でかねてより民主党のマニフェストの勉強を実施しており、昨年の9月と10月には農業政策の勉強をしました。その一環として生活者通信の昨年11月号では「バラマキではない戸別農業所得補償」という題でその時議論したことや、私の考えを述べました。
これに対して多くの方のご賛同やご理解を得たように感じておりますが、去る2月8日に幸運にも農家を直接訪問する機会を得ましたので、今回はその時の農家の声をお届けしたいと思います。
この機会を得ましたのは次のような経緯です。
かつて私が仕事をしていた
私が両者の仲介役だったこともあり、また、この地で8年間仕事をしていて知人も多いこと、加藤さんとの接触も続いていたことから、私にもこの会に出席して来賓として挨拶してほしいという依頼があり、加藤さんや長妻さんにプラスになると考え、お引き受けしました。
わざわざ飯田に行くのにそれだけでは勿体ないと思い、加藤さんに趣旨を説明し、講演会の前日に然るべき農家の方を紹介してもらって話を聞く場をアレンジしてもらいました。
加藤さんが運転手になって全て同行してくれましたが、農家の居間でコタツに入ってじっくり農業の話を聞くのは初めてだということで、大変参考になったと喜んでいました。中村豊会長宅への訪問時には、昨年結婚された加藤さんの奥様(平日は東京で以前からの仕事、週末は地元でお手伝いという金帰月来の方)も自分も勉強したいということで同行されました。
1.JAみなみ信州理事・
我々は10年くらい前に「10年後には農業はえらいことになる。」と、いろいろな方に話をしていたが、結局10年間農業の構造は何も変わらず、今本当にえらいことになっている。生活者通信2007年11月号の岡部氏の論文の末尾に掲載されている「農家の声」が現実である。
もう農業だけでは殆どの人がやっていけない。滝川氏は専業農家だが、モモ、ナシ、リンゴ、柿(こちらでは干した市田柿にする)が主体で米はやっていない。こちらで米をやると生産費も出ない。兼業農家でも農業の収入が悪いので、いい会社に勤めたり、公務員になったりして給料が安定していないとやっていけない。ダンナが勤め人で、カアチャンが農業をするという、カアチャン農業をやっている人もいるが、カアチャンもパートに出た方が良いという状況になってきている。
この状態で後5〜10年もすると、日本の農業は社会問題化するだろう。
最大の問題は農産物の価格が安いということである。
農業問題は国の基本政策として、超党派でしっかりしたものを作ってもらいたい。自給率を本当に上げようというのなら、その目標をしっかり定め、それが実現できる現実に即した農政を打ち出してもらいたい。政権が変われば農政の基本が変わるというのでは困る。
今は、民主党の方が自民党より農業の現場が見えているように思う。具体的には日本の農業を維持するためには「戸別所得補償」しかないと思う。自民党は金がないというが、無駄な金がアチコチにある。道路特定財源を作るくらいなら、農業特定財源を打ち出してもらいたいくらいの気持ちだ。
この地方では同一作物の農地が大きく隣接しておらず、自民党の「担い手」政策でいう集団化は不可能であり、未だに一件もない。この政策は農業の基本的な理解が不足している。このままでは、地域が崩壊し、都市部でいうシャッター街のようになってしまう。
また、地方が疲弊しているのは農業の活力が低下しているためだと思う。この地方でも、以前は小京都といわれた
農業が栄えれば地方にもっと活力が出ると思う。
自給率の他に食の安全・安心が話題になって来ているが、これをきっかけに、都市部の町(例えば
2.若手専業農家(
浜島氏は1年前にサラリーマン(食品流通業)をやめて実家に戻り、キュウリやトマトを中心作物にした若手専業農家の方である。
農業には魅力があり、農業はなかなかいいぞという自分の前向きな価値転換で専業農家に踏み切った。実家が農地を維持していてくれたことは幸いであった。
現金収入という面では厳しいものがあるが、少しでも高く売れる商品を作ることで、専業でやっていけているし、これからもそうしていきたい。
自分は自力でやろうという意識が強いので、あまり政治に頼りたくないが、しいていえば、農業の魅力を高める政策を実施して欲しい。そうすれば農業が活性化し、結婚の問題なども解消の方向に向かうだろう。
いま農業に積極的に参加したいと思っている人はかなりいるはずだ。
もう一つ無理な注文をすれば、今の農家はどんどん高齢化しているが、石にかじりついてでも農地の現状維持をして欲しいということである。一旦休耕地にしてしまうと、それを再び農地に戻すことは至難なことになってしまうからである。農地さえ維持されていれば、必ずそこに戻ってくる若者がいると思う。
また、現在の自民党の「担い手」政策は特定作物に特化して大規模化することのみ考えているが、農業のやり方には多くの選択肢があってもいいのではないかと思う。
3.長野県農業会議常任議員・飯伊農業委員会協議会会長・
中村 豊氏 の話
この地区で自民党の「担い手」政策に基づいて集団化した事例は一件もない。水田依存度が低いからである。北部の上伊那地区では30〜40件あるようだ。
この政策はコメ、ムギ、大豆等に特化しているが、それは違うのではないかという意見が強い。最近開かれた危機突破集会でも国の農政は間違っているのではないかという意見が主流であった。
民主党が提案している「戸別所得補償」が基本だと思う。それも基幹作物に限定せず、多くの作物に適用し、コメからのシフトにも役立つようにすべきだろう。
日本の農業は中小の農家が支えているということを忘れてはならない。それは面的にまとまりにくいからである。
国は集落営農に誘導しているが、法人化が条件になっており、赤字になったときどう対応するのかまことに不安である。また、集落営農に参加できなかったその周りにいる中小農家はその格差にどのように対応せよというのか全く分からない。その上戦後から自作農主義でやってきた日本の農家がはたしてサラリーマン化された農業に馴染むかどうかも疑問である。
これからは大勢のいろいろな人に農業をやってもらう方向が望ましい。特定な者に重点化した農政は間違いである。また、農業をやることによって生活をエンジョイするというのがこれからの方向であろう。
また、自給率という問題意識が国民全体に低いと思う。小泉総理になってから変になってしまった。経済財政諮問会議主導の経済政策が農業の基本や現場が分からないまま、農業を一般の企業や製造業と同じに見立てて農政を誘導したのではないだろうか。掛け声は立派だが、それを実現する政策は何もないようにしか見えない。
新しく農業を始めたい人や企業に対する農地の考え方は、一つは休耕地を耕作してもらうという方策と、もう一つは所有と利用を分けるという方策で対応するのが現実的だと思う。
この地方の作物の中では柿(干して市田柿として販売)は、手間はかかるが労務費も適正に支払うことができるので、生産量が伸びている。
4.取材を終えて
今回の取材で、我々の問題認識が農家の方々と大きく違っていないことが確認できました。特に民主党の「戸別所得補償」の政策が大きく支持されていることも分かりました。これをバラマキだという人は、自給率を無視する人か、農業のことが良く分からない人か、自民党の人です。
最近の輸入食料の安全面での不安を考えると、カロリーベースの自給率向上だけではなく、食の安全・安心という面からみた自給率の向上も図らなければならないと思います。
今回取材に応じて下さった方々は皆さん真剣に、また、熱っぽく対応して下さいました。それほど農家の方々の農業問題や農政に対する問題意識や危機意識が高まっているのだと思います。
都会に住むものはもっと農業についての理解を深めなければなりません。今回の取材で、実地も含めた農業教育の必要性を強調する方もおられました。経済財政諮問会議のメンバーですら農業音痴になっていることを考えれば、日本の農業は危機的状態にあるといわざるをえません。
全国民が農業の本質を理解して、正しい農政が確立できるよう真剣に考えなければならないということを認識させられました。
今回はまことに楽しい取材でありました。取材に協力して下さった方々、及び、加藤学さん本当に有り難う御座いました。