本稿は、もともとは
はじめに:
廃棄物問題に日頃関心を寄せている1市民です。
「
「基本計画」に対する意見の性格上、具体案についてはそれぞれ別の機会に譲りますが、単なる理念としての抽象論では無責任ですから、政策の方向に関しては可能な範囲で具体的に触れました。
1.ごみ減量の目標が低すぎます:
(1)「平成18年度実績に比べて11年後の平成29年度には家庭ごみ、事業系それぞれ5%減を目標にする」という本計画案の目標は、Reduce(ごみ減量)を最重要目標とした基本方針に照らして低すぎます。予想される若干の人口増を加味すれば、ごみ総量の減少は更に目減りすることになります。
(2)他の自治体の中には、「ゴミゼロ宣言」、「95%減」をはじめとして、「半減」、「三割減」など、野心的な目標を立てて本気で取り組んでいる自治体もたくさんあります。
(3)ごみ減量は人類の悲願です。京都議定書での日本の約束を果たすためには、残り4年で14%もCo2排出を削減せねばならず、日本が議長国となる来年の洞爺湖サミットでは、2050年の長期目標ではありますが、現状より50%減を安倍元首相がぶち上げました。
(4)<云うはやすく行うは難い>現実は充分に理解した上で、困難な理由を分析することは必要ですが、「だから実行困難」の理由付けに利用するのではなく、「こうしたら打開できる」検討材料として利用すべきです。
2.若干の具体的方向について:
ごみの減量や資源化に関しては、既にいろいろな分野で検討は進んでいます。市長マニフェストにあったように、早い時期に検討委員会を設置し、期限を切って具体案を策定すべきです。以下、項目別に若干補足します。
(1)厨芥ごみも目標を高く:
@重量的には燃えるゴミの半量近く、成分のほとんどである水分を焼却するために膨大な費用がかかっています。
A
B今回の市長選前の公開質問に対して、本件についても殆どの候補者から30−60%削減を目標にしたい、との回答を得ています。
Cこの目標を効果的に実現するためには、縦割り行政を排し、廃棄物対策課・農政課・コミュニティ推進課・企画政策課・財政課など横断的な対応が不可欠です。
(2)事業系ごみは料金引上即時実行:
@
A事業系ごみがふえ続ける原因の一つに、受入処理料が周辺自治体に比べて安いことがあります。周辺10自治体のうち、10kg当たりの処理料150円が所沢を含む3市・170円3市・220円2市・250円1市・400円1市と、
B一方、焼却コストは全体平均で10kg当たり460円ですから、市民の税金で事業者に補助金を与えている結果になっています。これは公平な行政ではありません。処理料は早急に引き上げるべきです。
(3)その他プラスチック焼却の是非:
後記4.参照。
3.3R(Reduce/Reuse/Recycle)の重要性:
(1)本計画案でも、ごみ処理の基本方針として3Rが正しく指摘されています。これをさらに下世話な表現に直すと、<1がReduce、2がReuse、3,4がなくて、5がRecycle>と云うべき程、最初の2つが圧倒的に重要です。ムリなRecycleは下記4.のように、総合的に比較すると却って有害なケースが多いことに留意すべきです。
(2)ごみ減量(Reduce)には発生抑制(製品生産段階で長持ち・詰替・部品交換などごみが減る商品設計)と排出抑制(消費段階でごみを出さない努力・工夫)があります。排出抑制は自治体と市民の努力で実行できますが、生産段階での発生抑制は、法律改正など国レベルでの改革が不可欠です。
4.「その他プラスチック」焼却の是非:
(1)現在「その他プラ」は、不燃ごみとして、一部寄居の県営処分場に持ち込むほか大半は青森県・山形県など遠距離の処分場に運ばれています。遠距離輸送に伴って巨額の費用が発生するほかCo2排出など大きな環境汚染を撒き散らしています。
(2)そのために、市では「その他プラ」の焼却を計画しており、反対意見との調整が急務になっています。「その他プラ」の処理方法としては、@リサイクル、A不燃ごみとして埋立、B焼却の3つがありますが、以下のごとくいずれも問題があり、いわば<地獄の選択>を迫られています。即ち、
@「その他プラのリサイクル」は、ペットボトルと異なって(ペットボトルは汚れが少なく単一原料なのでリサイクルしやすい)多くの場合汚れがひどく複合原料なので、リサイクルするためには、洗浄・破砕・複数回の運搬・溶融・諸々の加工、と複雑な工程を経るために、それぞれの工程で石油・電力を大量に消費し、水質汚濁・粉塵発生などの環境負荷をもたらしますので、総合評価としては、コスト・資源・環境負荷の面で有害であるケースが多いと思います。
A「不燃ごみとしての最終処分(埋立:現状)」は、遠距離輸送に伴う大気汚染や土壌・水質汚染の原因にもなり、高コスト、最終処分場の逼迫などの問題もあります。
B「焼却」は、大気汚染が問題です。廃棄物焼却に伴う環境汚染は、ダイオキシンだけではありません。複合素材の化学物質や金属類の高熱焼却から発生・合成される排気ガスの中には色々な有害物質があり、科学的に未知な物質も多いと思われます。そのため環境先進国では、焼却炉からの排ガスに対する諸々の規制・基準がありますが、日本では殆ど規制されていません(重金属類に関しては規制なし)。
上記諸点を考慮して、以下の配慮が不可欠です。
@「リサイクルのためのリサイクル」は慎重にすべきです。多くの場合、部分的には<コスト減・資源節約・環境に優しい>と見えても、総合的な分析(LCA)をすると有害であるケースが多いからです。
A「不燃ごみとして最終処分」する場合は遠距離輸送を可能な限り避け、巨額の輸送費の代わりに、自区内処理のための水質や土壌汚染防止を徹底すべきです。
なお、
B「焼却」:上記のリスクを最大限避けるためには、排ガスの性状を充分にチェックすることが最低限必要です。市民の健康を守るためには、明文の規定・基準があるなしにかかわらず、少なくとも環境先進国並みの基準で自己規制すべきです。
5.廃棄物会計による正確なコスト分析が不可欠です:
(1)現状ではコスト分析が不充分です。公会計制度の限界もあり、ごみ収集・処理・などに関する正確なコスト分析は困難です。生ゴミの焼却費も分りません。
例えば、ごみの種類別・処理方法別のコスト内訳、固定費と変動費の別、奨励金の原資査定計算・他の自治体との比較など正確な分析が出来ません。
(2)今後、環境省が主導する廃棄物会計の普及がはかられることになりました。
6.ごみ収集の民間委託は良かったのか:
(1)ごみ収集の民間委託は既に数年前から、一部地区について実施されています。
(2)民間委託は、正しいやり方をすれば、コストダウンとサービス向上が同時に実現可能ですが、そのためには公正でオープンな競争と情報公開が必要条件です。
(3)しかし、現在実施されているごみ収集の民間委託によるコスト削減効果は検証されていません。部分的に比較すれば行政の人件費・収集費は削減されたと思いますが(正確には検証されていない)、委託費が増え、苦情処理・事故の場合の行政責任の有無まで総合して考慮した上で、民間委託が市民・納税者にとって改善だったか改悪だったかを比較する正確な資料は担当部にもありません。提案した行政も、承認した市議会も、市民・納税者に対する説明責任を果たしていません。
(4)市の方針では、今後も民間委託や指定法人制度への移行を積極的に進めるとのことですが、部分的でなく全体としての費用対効果を比較した上で、公正さと透明さが保証された仕組みが不可欠です。
(5)なお、民間への委託の場合の「民間」とは、企業だけでなく、NPO諸団体も含めて検討すべきです。なお、後記8.参照。
7.ごみ収集の有料化;奨励金:
(1)ごみの排出抑制の一環として、「有料化」が提案されています。有料化は市民に対する負担増の意味で反対論も多いようですが、「啓発」の効果には事実上限界があるので、経済的な動機づけを与えることはそれなりに効果があると考えます。但し、以下の諸点への配慮が不可欠です。
@不法投棄:有料化すれば不法投棄をする人は、残念ながら必ず出てきますので、対策が必要です。監視には自治会や市民団体の協力が不可欠です。ルール違反者に対しては罰則も検討すべきです。市民団体の協力に関しては後記8.参照。
Aリバウンド:有料化を実施した自治体では、多くの場合リバウンド現象(有料化直後はごみが減るけれど、だんだん元に戻る傾向)があると云われています。不断の啓発が必要です。罰則とは逆の経済的動機付け(買い物袋持参者に値引きなど、一部では実施されていますが、全市的な運動として定着させるなど)も有効でしょう。
B「受益者負担原則」:ごみの有料化だけでなく公的施設の利用料に際しても「受益者負担原則」が負担の公平さの視点から主張されており、それなりに合理的な考え方ではありますが、料金徴収の場面だけでなく、補助金や奨励金などの支給に際しても適用されるべきです。特に「声の大きい圧力団体への補助金」については、本来の目的がなくなった後でも利権化して存続しているケースも多く、公平さを欠いています。
8.市民と行政との協働について:
(1)最近「行政と市民との協働」が色々な場面で主張されますが、多くの場合、単なる行政人件費削減の方法として提案される傾向があるようです。
(2)行政コスト軽減はもとより急務ですが、それを善意のボランティアの無償奉仕に求めるのは安易に過ぎますし、責任の所在(特に事故の場合)が不明確になります。善意の労力にも限界があります。
(3)行政のやるべき公的機能を市民(団体)に委託する場合には、必要実費とできれば若干の経済的メリットを考慮し(それでも行政コストに比べれば格段に安い)、一定の報告義務を課すこと、一定期間経過後は公平な評価をして委託先を見直すなどの仕組みの併用が必要です。コストの大幅削減とサービスの向上が同時に実現可能です。
最後に:パブリックコメントの取り扱いについて:
1.概要版はもう少し詳しく:
(1)パブリックコメントをまじめに書くためには、本計画案をある程度詳しく読まなければなりませんが、多くの市民が80ページ近い計画案を詳細に読み込むことは困難ですから、「概要版」を策定されたことは評価されます。
(2)但し、せっかく策定された「概要版」も図を含め大きな文字で3ページでは、抽象的な理念と結果としての目標だけで終わってしまいます。
(3)ある程度、具体的な意見を求めるためには、もう少し詳しい概要版がある方が良いと思います。どの程度が適当かを特定出来ませんが、例えば全体の1割程度7−8ページ(5−10ページ)でしょうか。
2.フォローアップがきわめて重要です;市民のチエは活かさないと意味がありません:
(1)この種のパブリックコメントでは、行政がコメントの論点を整理して、いくつかのテーマに分類してHPなどで公表されることが多いですが、それだけでは不十分です。
(2)それだけでは、せっかくの意見が活かされたのか・一部は役に立ったのか・内容が不充分だったのか・間違っていたのか・無視されたのか・ガス抜きに使われただけなのか、分りません。
(3)できることなら、意見に対しては(悪意の非難は別として)、市としてそれぞれに誠意を持って回答し、提言のうち参考になる件については、市民・行政共同で検討会を作り、建設的な方向へ進める、など前向きのフォローアップが極めて重要だと考えます。行政が独自で進める場合に比べれば時間と手間はかかるでしょうが、民の知恵を生かす・行政と市民との協働とは本来そういうことだと思います。
(4)「市民委員会」:
@市長のマニフェストで提案された「市民委員会」は素晴らしい提案だと思います。必要な手続きを経て早い機会に具体化して頂きたい。
Aもちろん、市民だけでなく、行政・市議会議員・専門家も含め、但し従来のように市民が形式的に参加する審議会ではなく、実質的な審議が行われることが絶対条件です。
Bテーマによって、複数の検討委員会を設置すべきです。これこそが「開かれた行政」「開かれた議会」の今後の姿たるべきだと考えます。
以上