控訴審始まる―混合診療裁判の行方

〈裁判ドキュメント─6〉

神奈川県藤沢市 清郷 伸人


2008219日午後3時、東京高裁810号法廷で第1回弁論が開かれ、1審で敗訴した国が提起した控訴審がスタートした。大谷禎男裁判長と2名の裁判官、控訴人の国は1審の5人から2審は10人の代理人、被控訴人は私一人である。

まず提出書面の確認が行われ、国から出された20071229日付けの控訴理由書・証拠と控訴状、次に私の提出した219日付けの準備書面(5)と準備書面(6)・証拠が確認された。さらに裁判長から私が1審結審後に出した95日付けの準備書面(4)について陳述を行うかとの質問があり、私は行うと答えた。(始め私は1審での書面だから必要ないと答えたが、行わなければどうなるか聞いたところ審理の対象にならなくなるといわれ、答えを訂正した)

つづいて裁判長から、私の準備書面(5)には請求が明記されてない(私は書いたつもりだが)が、口頭でも構わないから確認したい、請求は控訴棄却で良いかとの質問があり、その通りと答えた。さらに裁判官から、被控訴人の主張に1審との変化はないかと訊ねられ、ないと答えた。私の主張は、一貫して混合診療において被保険者は保険診療には保険給付権があることを確認するというものである。

ここで私の準備書面に同日付けのものが二つあることの説明を行う。準備書面(5)は国の控訴理由書を私が118日に受け取り、その反論として書いたものを219日付けで26日に裁判所に送付したものである。私は書いたものを裁判所に送る前に、控訴理由書とともにそれを法律事務所あすか代表の本田俊雄弁護士に送った。本田弁護士は混合診療訴訟になるかもしれない具体的案件をかかえ、私の勝訴報道後、依頼人から私に助力するよう進言され、私と会った経緯がある。その時は私は控訴審も一人でやるといったが、なんでも相談してくれといわれたので書類を送ったわけである。ただ意見とかチェックを求めたわけでもないのに、218日私の書面とは違う角度からの反論書面を送ってこられ、自由に使っていいとされていた。

私は13頁にわたる書面を2度読み返して驚いた。私の準備書面(5)は1審判決にそって主に混合診療禁止の法的根拠不在を基に反論している。国の控訴理由書が法的根拠のないことを意識してかもっぱら健康保険法の立法者意思とか立法趣旨を楯に、混合診療における保険給付停止を正当化しようとしているが、そのような禁止の是非論とか合理性の議論はキリのない神学論争になるだけで、1審判決はその部分の判断は避けて禁止の違法性を認めたのである。ところが、本田弁護士の書面は、国の主張する立法者意思や立法趣旨に真っ向から切り込み、明解な論理でこれを葬り去っている。

書面内容は法律家の解釈と論理が展開された相当高度なものであるが、乱暴に要約すると、健康保険法は医療の安全性・有効性の担保が目的ではなくその機能もない、その中の保険外併用療養費(旧特定療養費)も含め国民が医療を受けやすくするための経済的支援を公平に行うための法である、医療の安全性については別の薬事法や医師法、医療法などに規定がある、医師の保険外診療を禁じた療担規則(保険医療機関及び保険医療養担当規則)は行政法であり、それが立法府の意思を指し示すなどは三権分立を定めた憲法を無視する暴論である。この健康保険法の本質解釈はまったく私の思いも及ばなかったものである。国の混合診療禁止の唯一の根拠となっている健康保険法による安全性担保や法の中の保険外併用療養費制度の反対解釈を根こそぎ否定するものである。そして安全性を規定している別の法には混合診療についての規定はもちろん禁止規定もない。

私はこれはそのまま裁判の準備書面に使わなければならぬと思った。その旨を本田弁護士に伝えたら、証拠を整え、正式書面とともに開廷30分前に持ってこられ、審理に間に合ったというわけである。

最後に裁判官から次回の日程が切り出され、3月7日(金)午前11時半高裁民事7部書記官室に来るようにいわれた。私は法廷でなく書記官室というのが不可解に思われたので閉廷後、書記官に何故かと訊ねた。書記官は次回は事実関係の確認や主張の確認等口頭で行うので、広い法廷より書記官室の会議室が良いとの判断であり、よくあることだといわれた。多勢の国の弁護士相手に議論するのかと聞いたら、裁判所が国にいろいろ聞く事が主であるとのことである。それでも私は裁判は公開が原則で、当事者だけで密室で話すのは避けたいと思ったが、裁判官のやり方に文句をいって対立するのは得策ではないと考え、従うことにした。

そして密室で一方の当事者が私一人であることと、裁判所での主張の確認で、提出した本田弁護士の書面について質問があった時、私が十分に答えられない恐れもあることを考え、次回から本田弁護士に代理人を依頼しようと思った。

2008/2/20