江口克彦著「地域主権型道州制」の要旨(3)

道州制実現推進委員会副委員長 岡部 俊雄

生活者通信2008年2月号でPHP研究所江口克彦氏著の「地域主権型道州制」について、道州制実現推進委員会の平岡委員長が感想を述べました。道州制実現の推進は当会の二大目標の一つであり、また、この本の内容は我々が持っている問題意識や、考えていることとほぼ同じです。皆様にはこの本を是非ご一読頂きたいと思いますが、お忙しい方のためにその要旨を10回くらいの予定で連載しています。

 

(3)日本に「地域主権型道州制」を導入する

 

「骨太」に示された道州制

 2003年の衆議院選挙は日本政治史で画期的なものとなった。自民党がマニフェストに「道州制導入の検討」を示したからである。選挙に勝った小泉総理はさっそく「骨太の方針」で「道州制の検討を本格化させる」と明示した。更に総理の諮問を受けた第28次地方制度調査会も、道州制の具体的制度設計を検討すべきだという答申を行った。

 小泉政権を引き継いだ安倍政権では道州制担当大臣を新設し、大臣の下に「道州制ビジョン懇談会」を設置した。こうした政府の動きと併走するように自民党は道州制調査会を設け、更にこれを推進本部に格上げした。

 経済団体やシンクタンクなども道州制に向けた提言を積極的に発表するようになった。

 このように近年になって道州制推進の動きが急速に活発化してきた。

 

まだ知られていない道州制

 しかし、「道州制」と言う言葉が徐々に知られるようになりつつあるとしても、その内容については一般的にあまり知られていないのも事実である。

 地方にかかわるさまざまな問題も、「年金問題」も「政治とカネ」の問題も道州制を導入することが、その解決の糸口になるのだが、そこまで理解できる人は少なく、また、十分に議論もされていない。選挙で道州制が話題にならないのも、そうした背景があるのではないかと思う。

 道州制の実現には政府、各界指導者、オピニオンリーダーの方々が、国民に対する説明を継続的に行い、国民に理解を深めてもらう必要がある。

 

なぜ「地域主権型道州制」なのか

 「地域主権型道州制」の導入は、明治維新以来続いてきた中央集権的な国家の統治システムを根本的に変えるという改革である。ではなぜ今「地域主権型道州制」が求められるのか。その理由は、

@    現在の行政単位は狭すぎる。交通網や移動手段が発達し、物理的に狭すぎると同時に、広域な行政課題が増えている。

A    人口が減少し、県によっては将来行政が立ち行かなくなるところが出てくる。こうした事態に備えるためにも都道府県より広域な自治体が必要になる。

B    中央集権は無駄と堕落を生む元凶である。全国画一的な規格の押し付け、永田町に対する米搗きバッタのような地方政治家の誕生、地方の個性の抹殺、財政の肥大化、債務の拡大。そしてその結果が国民の甘え、たかり、依存心、責任転嫁などの悪しき体質に影響をあたえている。

C    国際経済のグローバル化の中で、競争に敗れないためにも、全国いたるところが繁栄するようにしなければならない。

ということである。

 

経済活性化の切り札

 「地域主権型道州制」がもたらすメリットで注目すべきは、日本経済を活性化させる手段として大きな効果をもつという点である。

 世界経済のけん引役ともいえるアメリカ、EU、中国は、いずれもその域内で通貨、金融、労働市場といった統一された経済インフラを持ちながら、内部の各地域が、それぞれの特性に応じた多様な経済戦略を立案、実施することによって発展している。

 一方、日本はといえば、明治維新からの中央集権的な国家体制をいまだに維持している。その体制は戦後の経済発展をもたらしたが、現在の世界水準でみると日本の競争力を著しく弱めている。

 いまや中央集権は我が国において「諸悪の根源」になっている。日本に既に存在する経済インフラを有効に使い、各地域で多様な経済活動ができる「地域主権型道州制」の導入は、日本の運命を変え、EU、中国、アメリカのように競争力を高めることになるだろう。

 

「地域主権型道州制」のかたち

 道州の区割りについては12州に再編するのが望ましいと考えるが、他に9、11、13州などに再編する案もあり、今後慎重に検討していくべきだ。

 基礎自治体についても歴史、文化、風習などを考えると一概には決められないが、行政コストが最も効率的になると試算される人口15〜40万人程度の規模、全国300の基礎自治体に再編するのが望ましいと考えるが、今後いろいろな案に十分な検討を加える必要がある。

 こうした区割りより、もっと重要なことは国、道州、基礎自治体の役割分担であり、国が地域の活動をコントロールする状態を排除することである。国と道州・基礎自治体の間には上下関係は全くなく、ただ役割が違うだけという対等な関係が「地域主権型道州制」である。

 

課税自主権、税率決定権、徴税権

 地域の「主権」を担保するためには各道州に国から干渉されない、自らの意思によって徴税できる課税自主権が付与されなければならない。

 さらにいえば、国の財源については、国の政府は道州の公共財であるという観点に立って、各道州がそれぞれの域内総生産の大きさによって「国費分担金」として負担するようにしてもよいかもしれない。またこの「国費分担金」システムは地域間の財政力格差を自動調整することにもつながるだろう。

 この「国費分担金」システムだけではなく、国と道州・基礎自治体で税目を分ける方法も考えられる。

 方法はいずれでもかまわないが、重要なことは国が各地域に財源を分配するという現在の制度を根本的に改めるということである。

 

EUのように日本を元気にすること

 「地域主権型道州制」の意義目的は、

@ 日本全国を元気にすること。

A それを実現するために中央集権体制を打破すること。

B       規制万能、責任回避、秘密主義、画一主義、自己保身、形式主義、前例主義、セクショナリズムの官僚制を改めること。

C       国民一人ひとりが安心、安全で楽しく、生きがい、やりがいを感じる日本社会をつくること。

D       競争激しいグローバル化のなかで、日本各地が繁栄の拠点となり、日本全体で諸外国と競っていけるようにすること。

E       多様性のある国土をつくって日本を外国から見ても魅力のある国、投資したい国、観光に行きたいと思われる国にすること。

F       そしてその結果として財政の効率化、無駄の排除、簡素化を実現することである。

 ヨーロッパに出かければ、ほとんどの国は元気で活力がある。それは共通の経済基盤のもとでお互いに主体性を持ってEU加盟国が競争し合っているからである。

 「地域主権型道州制」はそのEUをいわば「お手本」にしている。しかしそれは環境設定を行うことでしかなく、企業、情報、資金、文化を呼び込み、地域の経済を発展させるのは、その「主権」とともにその地域の競争力を高めていく能動的な努力が不可欠であり、それを行うのは「人」である。