「歳入欠陥」という不思議な言葉

東京都渋谷区 岡部 俊雄

 「お父チャン! 今度のボーナスが半分になるなんてとんでもない。使う先がもう決まっているんだから何としても前回どおり貰ってきてよ! そうでないとうちは収入欠陥になるわよ!」

何とも理不尽なお母チャンである。しかし、この考えが現在国家レベルで大手を振ってまかり通っているのである。

国民もマスコミもあまり不思議に思わない「歳入欠陥」という官僚用語である。

そもそも単年度主義をとっている行政の予算編成のあり方がおかしいのだが、支出は自分の意思で決定できても、収入は自分の意のままになるはずがない。

収入にあわせて支出をコントロールするのが健全な家計であり、健全な経営である。勿論収入を増やす努力はしなければならないし、収入の中にはその時に必要な借入金が含まれているのは当然である。

ある支出を予定していたところに、それに見合う収入が無いと分かった時、我々はどういう行動をとるだろうか。当然収入に合わせて支出を削減するという行動をとるに違いない。

ところが、これが行政とか官僚とかの世界に入ると、まるで別世界になってしまう。予定していた歳出は何が何でも実行することが大前提で、それに見合う歳入が足らないと、「歳入欠陥」だと大騒ぎをする。歳出を削減しようという発想はどこにもない。

今回の暫定税率廃止に対する政府、与党、自治体の反応はこれと全く同じである。道路に使うことが既に決まっているお金だから、耳をそろえて出してくれ。そうでなければそれは「歳入欠陥」だという一点張りで、歳入の範囲内でことを行おうという発想はどこにもない。

政府、与党、自治体のいずれをとっても、本当に、どうしても、何が何でも道路が必要だとは思っていないと思う。本当に必要なのはごく一部に過ぎない。彼ら、特に利権官僚や族議員がどうしても必要だと思っているのは、天下りや票・政治資金でいつもお世話になっている土建業者の仕事、即ち食い扶持なのである。

そもそも日本には土建業者が多過ぎる。彼らの食い扶持のために如何に多くの税金が使われていることか。どこの商工会議所の名簿を見ても土建業にからむ業者の如何に多いことか。

土建業者のためではないかと思われるような都市計画が策定されたり、公共施設を新設し、同じ目的の古い施設を取り壊し、そこに別の目的の公共施設を新設し、また、同じ目的の古い施設を取り壊し、・・・というハコモノ建設ドミノ現象を計画している自治体もあるらしい。相変わらずの土建国家である。

時代の大きな流れが見えないのか、土建業界縮小のことに触れるのが恐ろしいのか、土建業界の他業種への転換が遅すぎる。政府はむしろその転換誘導に力を注ぐべきで、延命のために貴重な税金を投入すべきではない。

今回の暫定税率廃止に対して政府、与党、自治体が鬼の首でもとったように「歳入欠陥」だと、あたかもあってはならないことが起こっているかのように声高に騒ぐのなら、正直に「土建業者延命税不足」だと、分かり易く言ってもらいたいものだ。

歳入欠陥があると言いながら職員は何のためらいもなく所定のボーナスや給料を貰っているし、相変わらず税金の無駄使いを続けているという不思議な世界である。橋下大阪府知事の改革姿勢に対する職員や市町村長の抵抗が雄弁に物語っている。行政の収支は別世界だという非常識な常識から決別し、その時の収入、歳入に応じて支出、歳出を弾力的に、臨機応変にコントロールする仕組みと、その精神を行政内に確立し、「歳入欠陥」などという言葉が一日も早く死語になることを期待したい。

やはり、政権交代を実現することと、道州制の国家を構築することしか解決策はないのかもしれない。