所沢市第4次行政改革大綱(素案)へのパブリックコメント

埼玉県所沢市 河登 一郎

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今年4月に所沢市では、<第次行政改革大綱:「行政経営」有言実行宣言」>を策定しましたが、それに先立って「同大綱(素案)」を公表し市民のパブリックコメントを募集しました。本稿はパブコメに応募した私見のうち総論部分です。このテーマも各自治体に共通の問題を含んでいますので、投稿させて頂きました。なお、所沢市には「行政経営推進委員会」なるものがあり、私は公募委員の一人として過去2年間審議に参加していましたので、委員会でも私見を何回か発言しましたが、この機会に大きな3点に絞って整理したものです。

但し、最終的に公表された「行革大綱」には、残念ながら私見はあまり反映されておらず、依然として「美辞麗句の羅列」が多いことを付言します。一方、市民の一部からそれなりの反響があり、これからも建設的な提言を継続したいと思っています。

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所沢市第4次行政改革大綱(素案)へのパブリックコメント        2008317

行政経営推進委員会提言に先立って公表された今回の第4次行政改革大綱(素案)は、重要な論点は網羅されており、全体として良くまとめてあると思います。

以下、個々のテーマではなく考え方に関する重要なポイントついて3点指摘しました。行政経営委員会で主張したことと重複する点もありますが、要点を以下の通りです。

1.「公務(員)とは何かが問われている」は正しい問題意識です:

本大綱(素案)の4.論点整理の冒頭で、<@(公務)員とは何かが問われている>と原点に遡った問題提起は正しいと思います。その上で、素案の内容について以下の諸点を指摘します。

(1)  <公務員の仕事のあり方を根本的に見直す必要が生じた>も正しい指摘です:

@問題は、この重い課題をどのように具体化し実現して行くかが重要です。

当市でもそれなりに努力されていますが、行政内部だけの検討ではどうしても現状維持に傾きがちで、真の改革は困難だと思います。

A一つの方法として「行政の事業仕分け」があります。これは政策シンクタンク「構想日本」が提案し、現在多くの自治体で実施・検討されている制度です。具体的には、行政で実行されている諸々の事業を、○公開の場で、○具体的な業務内容について、○廃止を含むゼロベースで、○誰がやるべき仕事か(国か県か市か民か廃止か)、○「外部の目」を入れて、徹底的に見直す仕組みです。多くの自治体で効果を上げています。

行政経営の有力な手段として、所沢市でも前向きに検討することを強く推奨します。

この制度を国や県でも実行すれば、行政コストは大幅に減ることになります。

(2)  行政業務の一部の民間移行提案(民間委託・指定法人など)は充分検討に値します:

正しい方法で実施すれば、<より安いコストでより良いサービス>の提供が可能な場面が多いからです。

<正しい方法>の最低必要条件は以下の2点です。

@    公正な競争(入札・見直し条項を含む)、

A    情報公開(報告義務・費用対効果の全体比較を含む)。

(3)  比較は全体像で見ないと意味がありません;移行は市民のために良かったか:

移行によって、全体としての市民負担が減ったのか・サービスは改善したかの比較が不可欠です。行政の人件費が見かけ上減っただけの効果では意味がありません。

当市が実施してきた民間移行は、この点が明確でありません。上記条件の多くが充足されていないと思います。民への移行が市民にとって実質的には「改悪」ではなかったか(市民負担増・サービス低下)と云う指摘に対して、行政は説得力ある説明責任を果たしていないと思います。関連する数字は+/−すべて算入し、定性的な評価も入れた全体像を、分りやすく整理した比較表が不可欠です。

2.地方分権を前向きに取り込みましょう:

(1)本素案は「4.(1)C」で地方分権について触れていますが、○地方分権の方向では、○事務量の増加は避けられず、○市の経営は成り立たなくなる・・・と、地方分権を国や県から押し付けられる迷惑なことと消極的に捉える姿勢が見られます。

(2)地方分権は、住民の視点に立ってもっと前向きに捉えるべきだと思います。例えば、産廃施設の許認可権限は県にありますが、県が所沢市民の立場に立ち、実態に即して正しい許認可や違法操業・不法投棄対策を実行できていないことは周知の事実です。物理的にも不可能に近い。これは市民にとって不幸な状態です。

(3)このように、行政業務によっては、現場に近い基礎自治体(所沢市)で権限と予算を保有すべきです。「行政を経営」するためには自分で決定し実行できる権限と能力がなければ素案で強調されている「自律的な行政経営」は作文で終わります。

その上で、県や国に対して現場から見たあるべき政策の方向を発信すべきです。

(4)行政経費のムダを省いて効率的に使うことは至上命令ですが、行政サービスを犠牲にしてまで行政経費を減らすことは最終目的ではありません。行政経費を効率的に使うこと(eg.競争入札・補助金見直し・特殊勤務手当て見直し・不要事業廃止など)と、行政サービス向上のために思い切って経費を増額することは両立させなければなりません。

(5)もちろん、経費増対策は簡単ではありません。ムダの排除の他にも、税収増(市民の払う国税や県税の還流や企業誘致なども)や、市民(団体)との協働など「経営体としての対策」が不可欠です。

3.「実行」しなければ意味がありません:そのためには具体的な目標が不可欠です:

(1)本大綱(素案)だけでなく、市が策定する諸々の計画(基本構想・基本計画・各種実施計画など)はいずれも行政実務家・専門家・市民有志などの衆知の集大成ですから、(一部の問題点を除いて)総じて良くできていると思います。

(2)しかし多くの場合、それら良案の多くは「作文」で終わっており、具体的な成果に結びついているとは云い難い状況です。<美辞麗句の羅列>と酷評する人もいます。最大の原因は、<具体的な・数値を伴った>成果目標がないか、あっても抽象的・目標が低いことにあります。(例えば、<目標=法令遵守>の例さえある!)。

(3)これではせっかく軌道に乗り始めた事業ごとの施策評価・事務事業評価も抽象論で始まり抽象論で終わってしまい、評価者(行政職員・管理者)も気の毒です。

(4)行政経営実行PDCAの各段階で、可能な限り厳しい数値目標を設定し、その達成度を数字に基づいて具体的に評価することが重要です。抽象論は本物の評価ではありません。本素案の「有言実行宣言・行動計画表」にも、具体的で厳しい数値目標は意外に少なく補強が必要です。具体例を一つ挙げると、「民間委託化の推進」の目標は「実施件数19件」となっていますが、件数だけでは意味がありません。上記1.(3)で触れたような内容が伴わなければ、市民にとって改善か改悪か不明です。

(5)もちろん、行政サービスは金額に換算できない分野も多いですから、金額以外の定量評価(eg.公共施設の休日利用・公共交通機関の利用など)や定性評価も(なるべく具体的に)加味すべきことは云うまでもありません。

以上