地方自治体の活性化策
−法令上書き権−
東京都文京区 松井 孝司
日本国憲法第41条には「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定められている。しかし、法律が国会で成立しても具体的な細部の規定は霞が関から出される政令、省令で決められる仕組みになっており、官僚の裁量行政を許す原因になっている。
「地方自治」は言葉だけで、地方自治体は霞が関の裁量で動いているのである。日本全国に広がる官僚主導の画一的行政が地方の自立を抑え、道路事業など中央省庁に依存する付加価値を生まない公共事業が資金循環の無駄を生み、日本のGDP(国内総生産)を長期にわたり低迷させる要因となっている。
国会は1999年7月地方分権一括法を成立させたが、自治体の運営は殆ど変わらず、地方を自立させるような成果も挙がらず、地方はむしろ衰退に拍車がかかっている。
地方自治体にも地方議会があり、立法権があるようにみえるが地方議会の実態は「無い」に等しく、地方議会無用論も囁かれる今日である。
この実態を改めるには、政令、省令より自治体の条例を優先させ、自治立法権を明確にする必要がある。真の地方自治を実現するためには政令や省令を地方自治体の要望を入れ改定するための「法令上(うわ)書き権」が必要なのだ。
この「法令上書き権」の確立は、地方自治に関わる権限を自治体に移譲するために不可欠の条件といえる。
国会の立法権を地方に「分け与える」のではなく、本来地方自治体がもつべき特定分野の権利を明確にするだけであり、これこそ「国民主権」を規定する日本国憲法の精神に適うものだろう。
議院内閣制のもとで国会は国民の主権行使を代行しているだけで、地方自治体の首長と議員も主権者から直接選任されており、国会と地方自治体が持つ権限は対等でなければならない。これまで法律を超える条例は作れないとされてきたのが間違いなのだ。
地方自治体の「法令上書き権」が確立できれば、裁量行政は官僚の手から地方自治体に移ることになる。中央省庁からの補助金は廃止し、国会の承認を得た事業予算は権限移譲と併せて一括して地方に移さねばならない。
「法令上書き権」が確立されると地方自治体は一変するだろう。例えば、縦割り行政で厚生労働省が支配する保育園と文部科学省が支配する幼稚園の管理は自治体レベルで一元化し、幼保一元化施設に自治体が補助金を出すことが可能になる。
木造建築が密集する地域が東京都内には多く存在するが、都市計画法、土地収用法、建築基準法はあっても機能せず、地震災害時の大火災が危惧される。区画整理をしようとしても近隣の同意がないと事業ができない仕組みになっているが、違法建築に独自の罰則を設け、危険特定地域を限定して住民エゴを超えた「まちづくり」を許す自治体が出てきてもおかしくない。
新しいコミュニティーの構築で住宅の建て替えがすすめば「まちづくり」再開発が膨大な建築需要を生み、国内需要の増加が、地域経済の活性化と日本のGDP増大に寄与するだろう。
「まちづくり」など生活に密着する政策を自治体が決めることになれば、市民の参加意識が向上し、地方選挙の投票率も確実に高まることが期待される。
画一的行政は排除され、地方の実情に合わせたさまざまの条例が誕生し、よりよい行政を実現するために、首長、地方議会、地方議員は政策を競い、地方自治体間に善政競争が始まる筈だ。地方政府で不正がはびこることがないように、中央政府は事業と利権を手放すことによって巨額の予算を消費することなく、監視行政に特化できる。
「法令上書き権」の確立が縦割り行政で肥大化した中央省庁の縮小解体と地域公共サービスの拡大、効率化と地方自治体の自立に大きく寄与することが期待される。