日経BP社の政策アンケート
東京都文京区 松井 孝司
2008年7月7日と14日に日経BP社が国会議員と読者を対象に独自調査を行った政策アンケートは、「大きな政府」と「小さな政府」に対する意識調査であり、大変興味深いものであった。
国会議員は自民党と民主党議員が対象となっており、自民党議員では「大きな政府」と「小さな政府」に対する評価が二極分化していることに対して、民主党議員は岩国哲人氏を除いて殆どが「小さな政府」側にまとまっている。
国会議員全員がアンケートに答えてはいないが、「小さな政府」を目指す小泉改革が頓挫した現状からみて、このアンケートは自民党議員の意識をよく反映しているように思う。
(URL>http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080627/163910/?P=1参照)
小泉改革前の自民党は「大きな政府」で格差是正を目指す社会主義政党と変わらず、長い間社会党に出番がなく、村山首相のもとで自社さ政権が誕生したのも不思議ではなかった。日本には「大きな政府」の対抗勢力が無かったのである。弱者保護の美名の下に利権政治がはびこり、日本政府は巨額の債務を累積させてしまった。
社民党と親近感を持つ民主党議員の多くが「小さな政府」側にまとまったのは、政府の巨額の借金を黙認できないことに加え、利権と関わりが無いからだろう。
アンケートの結果は、政権交代をした後も民主党はまとまって行動できるが、政界再編があれば自民党は二派に分裂する可能性があることを意味している。
民主党議員は「小さな政府」に賛同しながら、殆どの議員が「格差是正」にも賛意を示しており、格差是正と小さい政府を両立させる民主党の考えは、一筋縄ではいかないだろうと日経BPの編集者はコメントしている。
民主党が大多数の日本国民の賛同を得るためには、このコメントに対して明快な回答を用意する必要があるだろう。
読者に対する政策アンケートの回答が重要なヒントを与えてくれる。
読者の回答は「小さな政府」「規制緩和」に集中しており、「格差是正」については民主党議員と評価が異なることがわかった。
民主党議員の「格差是正」重視への偏りは、格差是正を主張する労働組合から支持を受けることへの対応と推測され、多くの国民の意識を反映していないのだ。
東京と沖縄の県民所得格差は2.4倍もある。同じ沖縄でも公務員の多い地域の所得は高いようだ。所得格差の実態は地域経済力と既得権益有無の差である。東京への一極集中を是正し、議員や公務員に支給される税金の一部を割いて、ネットカフェ難民やニート、フリーターの自立支援にまわせば、日本国内の格差は大半が是正されるだろう。
問題は日本国内より、はるかに大きな地球規模でみた地域経済力の格差である。
最近「グローバル化が格差を拡大する」とする意見もあるが、これは近視眼的見解である。格差の固定化こそ、閉鎖社会の特徴で長期的にみれば、グローバル化は所得の平均化を促す。人とカネの移動が自由になれば、同一労働で高賃金の労働者の所得は減らされ、低賃金の労働者の所得が上昇するのは必然の成り行きである。
労働の付加価値を高めグローバル化に対応できる地域は繁栄して所得が増え、グローバル化を拒否し変化に対応できない地域は衰退の途しか残されていない。天下り公務員のように能力が無いのに既得権益に守られ高給を得ている国民はグローバル化で所得が減ることを覚悟する必要がある。
格差是正には日本国内だけに囚われることなく、低賃金でなければ成り立たない市場をアジアの低所得者に開放する政策が重要であり、移民の受け入れは、日本の少子高齢化、労働力不足を克服し、経済成長を維持するための重要な選択肢になる。
民主党や福田内閣が掲げる「自立」と「共生」という両立が難しい理念は、個人の「自立」とアジアを含む全世界との「共生」という観点に立って政策の具体化が求められるのである。