市川市の委託業務検証専門員制度について

生活者主権千葉の会代表 高橋 聡


1.背景

965月に千葉県市川市において、「オンブズマン市川」を設立してから、さまざまな行政の無駄使いのチェックを実施してきました(納税貯蓄組合、重複旅費請求、市川駅南口市有地無料貸出し、市川駅南口再開発用地不正買収)。最近では、市議会事務局に対する政務調査費の不正使用に関する行政監査請求も実施しております。市民による行政のチェックの方法は、他市での事例を参考に食費、交通費、不動産売買等にターゲットを置き、毎年発行される決算書または予算書を元に、公文書公開条例を用いて該当部署より必要な文書の公開を求め、証拠集めをするところから始まります。既に稟議決済が降りた書類でないと公文書としての公開対象になっていないとか、職員の意識が低く不存在の回答だったりと証拠となる文書にたどりつくのに長い時間を要する場合があります。ところが、行政訴訟には時効があり、その事実を知りえてから1年以内に監査請求を提出しなければならない縛りがあり、重大な証拠をつかんだときは既に時効ということが少なくありません。但し、談合のような悪質な事件には、判例として時効の制限はなくなっている。

公文書公開条例で入手した見積仕様書と見積予算を見ると、民間業者にボッタクリを受けているような事例に数多く遭遇した。土地買収予算の根拠となっている、不動産鑑定書の中身が通常のレートの23倍になるように不正に捻じ曲げられている事例もあったが、土地鑑定書の見方のわからない職員では信じるしかない。市川市の職員はコスト意識よりも、自分の担当する業務が予定通り実施されることが何よりも優先課題であって、競争見積で安く入札した業者が手抜き工事をすることを嫌います。実施後、しっかり監視すれば是正措置も取れるのですが、検収時に細かくチェックすることは追加の業務となるようで、どんぶり勘定であとはうまくやっての感覚なのでしょう。

 

2.行政内内部監査のスタート

千葉県の市川市では全国で先駆けてともいえる行政の新しい取り組み(千葉市長の肝いり)H194月よりスタートしています。以下に昨年5月の定例記者会見で公表した文書の抜粋を示します。今回はこの制度の効果について、ご報告したいと思います。

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H195月の定例記者会見(要旨の抜粋)                   514日(月曜日)

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  最後に、今年度の組織変更についてです。これまで本市におきましては、従来から係制を廃止し課レベルのフラット化を進めてまいりましたが、今年度は新たな取組みとしまして、4部をモデルとして部のスタッフ制を導入しました。また、業務委託に関わる手続きの透明性、公平性を高めるために、職員と、民間企業での経験を有する委託業務検証専門員による専門家組織である業務管理課を設置いたしました。市職員と民間企業での経験を有する専門家による組織体制は、県内でも、全国的にも初めてであります。

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(2) 県内で初めて業務委託に関わる組織「業務監理課」を設置

   平成194月の組織改正により、管財部に新たに「業務監理課」を設置しました。業務委託に関わる手続きの透明性、公正性を高めるため、職員5名の他、民間企業での経験を有する委託業務検証専門員7名を配置して、仕様書及び設計書の調整を行なうとともに、業務別の標準仕様書、契約実績等も反映した積算基準を作成し、業者からの見積もりに頼ることなく職員自らが費用を積算できるようにすることを所管しています。

(管財部 業務管理課)

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3.市川市の業務監理課の効果

 「委託業務検証専門員」というのは、新語かも知れません。今まで行政のシステムとして、民間では当たり前のコスト削減を専門に業務を実施する職員は存在していなかったため、記者クラブの記者も正確に理解できていなかったと思います。今年になった、昨年度の成績について記者発表されたようですが、どこの新聞にも掲載されていなかったようです。そこで、市川市の「業務監理課」に対して情報公開を実施して、H1910月の説明資料と今年3月までの業務成績データについて資料を入手しました。結果は次ページの表に示しますが、審査件数464件の適正化による減額分が約14千万円、増額分が約17百万円となっています。この分、財政の健全化や福祉に税金がまわせることになります。H18年度以前も同様な無駄使いをしていたことが想定されます。これを全国規模で実施できれば、国の借金の返済も見込みが立ちます。

 かつて、オンブズマン市川では市川市が実施する、業務委託費の支出、土地購入代金の算定が不適切であるとして、監査請求を連発してきました。市川市の土地開発公社が不適切な不動産鑑定に基づき通常の2・3倍の価格で購入。既に原価償却済みの物件に対して10年以上も同額のリース代を契約。人口移動調査を初年度と同額で2回目、3回目と契約(2回目以降の報告書はほとんど初年度分の内容)。これらに対して、情報公開制度を利用して、限られた情報のなかで効果の高い件名について聞き取り調査等から重要な証拠書類を探し出し、行政訴訟まで実施したが、時効の壁で敗訴。

 これが、現在では50万円以上の業務委託契約はほとんどチェックの対象となり、無駄な税金の支出につながる仕様書は指導の対象となっている。稟議の際の添付書類の仕様書と見積もりはほとんどが外部の業者が作成していることがほとんどであり、この段階でチェックができれば、労力も少なくてすみます。これらは、決済前の公文書でもあり、オンブズマンではタッチすることもできなかった部分です。情報公開の時のヒアリングで、3件の業務委託稟議が中身の審査において、減額ではなく業務そのものに重複があるとか、内部の職員で実施可能とかで、稟議そのものがなくなっていたようです。この3件分の減額は集計には入っていないとのこと。

 

審査集計表

審査月

審査件数()

審査金額()

適正化額(確定)()

減額分

増額分

4

81

602,398,119

22,777,477

9,098,840

5

87

425,563,981

27,107,839

22,050

6

48

255,969,320

38,162,968

126,000

7

39

151,141,348

11,902,174

0

8

31

140,933,827

7,027,550

598,800

9

34

146,853,503

8,850,350

1,348,624

10

52

317,556,817

13,834,474

2,211,780

11

38

167,581,615

3,861,376

3,344,255

12

21

105,198,695

2,538,244

126,664

1

24

76,272,092

7,401,932

0

2

7

6,590,509

21,000

0

3

2

3,232,950

206,850

160,175

合計

464

2,399,295,776

143,692,234

17,037,188

 

 

 記者発表された資料の中に、「業務監理課」の組織の情報があります。市の職員が5名で専門員が7名となっています。課長は前の監査事務局の課長が横滑り、専門員の経歴は土地計画コンサルタント、技術士(土地計画及び地方計画)、プラント設備建設会社、一級建築士、機械会社検査部長、大手建設会社所長、大手建設会社技術部長となっています。これらの民間の経験を行政に取り入れることで、適切な税金の使われ方が確保されます。役人はどうしても前例主義にとらわれがちで、前年度と同じ予算と仕様書であることの方がミスはないと考えます。そこに無駄な税金の投入と無理な発注が生じます。表の適正化額に増額分があります。昨年度と同じ予算としていると、手抜き工事を誘発したり、品質を落とす可能性があるものを適切な仕様書に修正させた結果です。これはオンブズマンにはない発想です。

 この行政の無駄使いに対する適切な処方箋は今年の全国オンブズマン千葉大会で公表し、全国で採用してもらうための広報をしようと当初は考えていましたが、活動そのものは行政であり、オンブズマンではないので合わないと考え断念しました。それと、「業務監理課」の実績としても今年の1月から3月に掛けて実施している、H20年度予算案チェックの方がボリュームもありインパクトがあるようです。それらの実績がそろう今年度末ぐらいを目標に別の手段を考えたいと思います。

 また、この「委託業務検証専門員」制度は市川市長が導入を決定したから実施できたのであって、役人は外部の人間を中に入れるのは基本的に抵抗します。行政の首長もオンブズマンに叩かれ叩かれているだけに、今までの行政活動の間違いを認めるようなことはしないのが普通の感覚です。そうゆう意味では宮崎県や大阪府のような、しがらみのない首長にこのようなシステムを注目していただきたい。


 

 

・・・・・・・・・・・・・・・Q&A・・・・・・・・・・・・・・・

 Q1.業務監査課を設置することによる年間の経費増は? 

()  わかりません、情報公開でどの程度出てくるかも不明です。但し、専門員以外の職員はほかの部署からの異動ですから

職員の人件費増はないと考えられる。

 Q2.民間からの専門員7名の経費は? 職員5名の従来の仕事は?  

()  専門員は12日か3日の出勤で12万円です。職員5名のうち課長以外の4名はわかりません。

 Q3.12名の課員を配置して節約できたのは審査金額の約5%ですが、費用対効果の観点から見ていかがですか? 

()  約6%です。1月から3月の来年度分の低減額も大きいと考えています。

 Q4.節約できた金額から諸費用を差し引いて、実際に財政の健全化や福祉に回せる税金はどのくらいありますか?

()  役所は単年度予算ですから、節減しても振り分けはできないかも知れない。しかし、昨年度の実績を元に来年度の予算

配分を作れるので相対的に割り振っていると思われる。市川市の来年度予算案の昨年度ベースの比較資料に注目したい。

 Q5.監査の必要性は否定しませんが、オンブズマンがタッチできる方式を探れないか?

()  専門知識を持った職員が役所内にある全ての資料にアクセスして調査しているのであるから、効率が天と地ほどにある。

オンブズマンで外から実施する場合は分厚い予算書が出てから、しらみ潰しに情報公開するしか方法がありません。

担当職員の労力もオンブズマンの労力もはかり知れません。