江口克彦著「地域主権型道州制」の要旨(7)

道州制実現推進委員会副委員長 岡部 俊雄

生活者通信2008年2月号でPHP研究所江口克彦氏著の「地域主権型道州制」について、道州制実現推進委員会の平岡委員長が感想を述べました。道州制実現の推進は当会の二大目標の一つであり、また、この本の内容は我々が持っている問題意識や、考えていることとほぼ同じです。皆様にはこの本を是非ご一読頂きたいと思いますが、お忙しい方のためにその要旨を10回くらいの予定で連載しています。

 

(7)「地方分権」では解決できない

地方分権一括法の限界

 国は1999年に地方分権一括法を成立させた。これは、地方自治法をはじめとする475本の法律を一括して改正する法律である。

 これによって自治体を国の「出先機関」とみなしていた機関委任事務が廃止され、自治体の行う事務が自治事務と法定委託事務とに分けられた。

 この結果、法定委託事務の割合は45%となり一括法以前に比べて自治体が行う国の仕事の割合は減少したが、地方分権推進委員会が当初の議論で法定委託事務の割合を15%にすべきであるとしたのに比べると大きく後退したといえる。

 

国の関与を縮小

 一括法では法令による根拠を持たない国の関与は認められなくなり、その関与もその目的を達成するために必要最小限のものとし、自治体の自主性や自立性を配慮することが定められた。

 さらに、国の関与について自治体側に不服があるときは、その適否を審理する第三者機関が設けられることになった。

 

権限の委譲

 一括法では国から都道府県、都道府県から市町村への権限の移譲も行われた。

 「機関委任事務制度の廃止」が責任の所在の明確化であり、「関与の見直し」が口出しを制限することであったのに対し、この「権限の移譲」は仕事をそっくり移そうというものである。

 

必置規制の見直しと合併の推進

 従来は自治体に対して、特別の資格を持った職員、施設、付属機関の設置を義務づける必置規制というものがあったが、一括法では自治体の自主組織権を尊重し、これを廃止または緩和することになった。

 また、一括法には自主的な市町村の合併を推進するための財政支援や地方議会における議案の提出要件の緩和などが盛り込まれた。

 

一括法の効果とは何だったのか

 一括法によって自治体の裁量権が広がったことは確かである。しかしながら、その内容は地域の活性化や自治体経営の根幹を変えるようなところにまではいたっておらず、地域が大胆な変貌を遂げるというほどの効果はまったくみられていない。

こうした中で、最も注目されたのが法定外課税の運用である。使途を限定しない「法定外普通税」が総務省の許可制から事前協議に変わり、また、特定の目的だけに使う「法定外目的税」を設けることも可能になった。

法定外普通税では「核燃料税」とか「別荘等所有税」などが課されたりしたものの、総額は2005年度919億円で、地方税収総額の0.26%ほどでしかない。一方、新設された法定外目的税では、環境にかかわるものが多いが、総額は2005年度75億円で地方税収総額のわずか0.02%ほどにすぎない。

これは、主な税源を国が握っているために、法定外普通税にしても法定外目的税にしても、課税対象となりうるものが基本的にかなり制限されているからであり、自治体の課税権が拡大されたといっても非常に限定的なものなのである。

 

税財源にメスを入れないかぎり変わらない

 現在の地方自治の大きな課題の一つは、行政サービスをめぐる受益と負担の関係が断絶しているために、つねに財政支出が膨れ上がる傾向になってしまうところにある。

 わかり易くいえば、中央政府が国税として全国から税金を集め、それを各自治体に分配しているために、自治体住民が何のためにどのくらい自分が税金を払っているかが不明瞭になっているということだ。

 もっと重要なことは、より多くの権限と独自の税財源を地域が掌握しないかぎり、地域の経済を活性化させるのは難しいということである。

 地域が活性化するためには、地域みずからが活性化プランをつくり、みずからが自由にできるおカネでそのプランを実行に移していかなければならない。

 これから将来を考えるならば、税財源の問題をこのまま棚上げにしていては根本的な解決にはならないだろう。

 

三位一体の改革では地方が困るだけ

 小泉内閣が推進した「三位一体の改革」で、2004年度から2006年度までの予算で、国庫補助負担金の削減が4.7兆円、地方交付税の削減が5.1兆円、税源移譲が3兆円であった。

 中央集権体制そのものが、中央政府の立場に立つものであるから、数字を見てわかるように、国から自治体へ分配されるおカネの減額よりも、移譲された税源が著しく少なくなり、自治体は財政的に非常に苦しい状態に陥ったのである。

 もう一つの問題は、三位一体の改革のなかに権限の移譲が組み込まれていないことだ。国全体の財政再建は必要なことであり、そのために国から自治体に分配されるおカネが減額されることは仕方がないこととしても、それと同時に自治体がみずからの創意工夫で地域を発展させることができるよう、国が持つ権限を税源とともに大幅に移譲すべきだったのである。

 別の言い方をすれば、三位一体の改革は地方分権のための、すなわち地方を活性化させるための政策というよりは、むしろ財政再建のためのものであり、もし、地方分権を本気で推進すのであれば、権限の移譲をも一体的に行う「四位一体」の改革でなければならなかったのである。

 

尻すぼみになった構造改革特区の試み

 小泉内閣時代に三位一体の改革と同時並行で進められたものに構造改革特区がある。

 これは、自治体や事業者の立案に基づいて一定地域に限定して規制を撤廃・緩和する制度だが、これまでの経済改革と違い国からの財政支援はない。

 2007年4月までに3,500を超える提案が寄せられたが、提案数も認可数も減少傾向にある。その理由として、一つのハードルを越えても次のハードルが出てくる。例えば「どぶろく」をつくる特区は認められても、それを地域外に販売するには、また別の認可が必要になるといった理由などである。

 構造改革特区の試みは、たしかに権限移譲や規制緩和の特例という、地方分権にとって非常に重要な要素を盛り込んだものであったが、それもまた限定的な移譲や緩和であり、十分に効果を出しているとはいいがたい。結局、構造特区の試みは尻すぼみになってきているのである。

 現在の中央集権体制では、いかなる改善策を講じようとおのずと限界が出てくるということであろう。

 

期待できるのか、道州制特区

 構造改革特区の試みより理念としてさらに進んでいるのが道州制特区である。これは道州制特区推進法で北海道、または、三つ以上の都道府県の合併体の提案に基づいて国がその権限を移譲するという制度である。

 現在のところ、三つ以上の都道府県が合併するというケースはなく、事実上北海道だけが対象になっている。しかし、法律の中に既に8項目の移譲対象事業が示されており、その内容は道州制に向けたモデルをつくるという状況からはかけ離れている。政府は本気になって道州制を実現しようとしているのか疑われる内容になっている。

 政府や政治家たちは、道州制特区を馬鹿にしているのではないのか。子供だましのような権限移譲で、よくもこれで道州制を将来に見据えてなどと大見得を切ることができるものだと思う。道州制のリトマス試験紙にもならない。

 結局のところ、北海道の知事も経営者も住民も自主独立の気概がほとんどないということがいえるのではないか。