第3回高裁審理―控訴審の争点は何か

〈裁判ドキュメント─8〉

神奈川県藤沢市 清郷 伸人


1. 請求の趣旨の変更

2008512日午後1時半、東京高裁第7民事部書記官会議室で第3回控訴審の弁論準備手続が開かれた。裁判長を挟んで当事者のみによる口頭での質疑応答で、裁判所からは裁判長1名、控訴人の国からは代理人弁護士を務める法務省訟務部検察官2名と厚労省担当官3名、被控訴人側は私と本田弁護士、田村弁護士、田中弁護士の4名である。

最初に裁判長から前回、私の裁判は公法上の確認訴訟になるが、その意味で具体的な確認の請求内容を変更(というより明確化)する必要があると話したことについて、私の弁護士と次のような確認を行った。一審で、私が本人訴訟だったこともあり、訴状における請求の趣旨を裁判所の指示でより具体的な内容に変更した経緯があるようだ。それを本控訴審における審理内容にそった的確なものに具体的に変えることについては、時間もまだあるので被控訴人側で考慮する。

 

2.先進医療、高度医療の説明

次に国から前回、現在の先進医療、高度医療の概要と活性化自己リンパ球移入療法、さらに私のLAK療法(清郷注:今まで私の受けたLAK療法と活性化自己リンパ球移入療法を同義に使っていたが、厳密にいうとこの2つは似ているが異なる治療である)への適用について裁判長から説明を求められたとして次のような説明が行われた。

現在、厚労省が認めた特定の病院で先進医療として認定された保険外医療を行うことについては届け出だけでよく、審査や承認を受ける必要はない。この場合、保険医療と併用が可能である。また薬事法に外れた内容を持つものも含め、保険外医療を一般の病院が行う場合は、084月からの高度医療評価制度により、病院からの申請に基づいて国が専門家会議において審査を行って3カ月以内に出される結論で認められた場合に限り行うことができる。この場合も保険医療と原則併用が可能である。私のLAK治療は先進医療ではなく、また高度医療として申請された場合でも、064月の医療制度改革において先進医療を見直した際、有効性に疑問がつき、認定された治療から外された経緯があることから高度医療とされるのは厳しいといわざるを得ない。

ここで裁判長から先進医療の中でLAK治療に類似しているというNo73No74の詳細内容を次回提出することが求められた。被控訴人側からは、先進医療や高度医療を受けても、主治医のいる別の病院で保険治療を併用することは認められるかという疑問が示され、国はかなり時間をおいてからそれは多分ダメだと答えた。続けてそもそも混合診療に明確な定義があるか、それを医師や病院はキチンと把握できているか即ち定義に関する明文の文書があり、医療機関に周知されているかという質問が出され、これは次回答えることになった。

さらに以上の国の説明から、被控訴人(私)の請求の趣旨は、保険医療であるインターフェロン療法と(先進医療として認められているものもある)自己リンパ球移入療法の併用の地位確認ではなく、保険医療と先進医療ではない保険外医療の併用の地位確認に確定するのではないかというやりとりが裁判長と被控訴人側で行われた。

 

3.争点について

次に裁判長は、本件の争点は次のように絞られてきたと考えると述べた。まず国の主張する保険医療と保険外医療の不可分一体論は争点にならない。次に現行法で混合診療禁止になっているかという点について、国は法(健康保険法)そのものが原則禁止を出発点としているというが、それは当たらないのではないか。また原則禁止論が崩れたら議論は終わるのか。立法時の立法精神が禁止の趣旨というならそれを立証しなければならない。しかし平成元年の東京地裁判決(清郷注:混合診療禁止について明文の規定はないが、制度として妥当なものである)は昭和59年の法改正(特定療養費制度の創設)によって混合診療は禁止となったと解釈したものと考えられるが、本件の争点もここに絞られると思う。

裁判長は続けてこの争点について述べた。控訴理由書の第5(特定療養費制度及び評価療養費制度を創設した立法者意思及び立法経緯やその制度内容にかんがみても、健保法は原則として混合診療を認めない趣旨と解されること)がこの争点に関わるが、制度が変わった背景、理由など問題を含んでいる。国は特定療養費制度によって混合診療を禁じていると主張するが、一審判決はこれを採っていない。高等裁判所は判決の16頁から17頁にある争点2(保険外併用療養費制度について定めた法86条の解釈によって、同制度に該当するもの以外の混合診療については、本来保険診療に該当するものも含めて、すべて法631項の「療養の給付」に当たらないと解釈出来るか)についての裁判所の判断の部分でわからない点がある。控訴人はこれらすべてを踏まえて、次回反論することになる。

これに対し、国側は不可分一体論を繰り返し、療養の給付と費用の支給の問題、保険外医療の保険医療への影響から推定される医療費算定の不可分性など細かい反論を述べたが、特定療養費や評価療養費で可分とされているなどとして問題にされなかった。

裁判長は次回の控訴人の反論に被控訴人が反論するという予定を示して準備手続は終了した。次回は718日午前10時同会議室となった。

 

4.番外編

裁判長は、今後の争点について上記のように示唆した。行政裁判である本件に対して司法が判決に向けて論点の照準を定めるとそうなるのだろうか。

では保険外併用療養費の反対解釈が成立すれば法律の明文規定がなくても混合診療は禁止されているという法解釈が可能なのか。素人の私には、反対解釈論を退け、禁止に法的根拠はなく国の法解釈は誤りだという原判決が破棄され、国が勝つという理屈はどう考えても不合理に思える。なぜならそれは、平成183月の旭川杉尾訴訟における最高裁大法廷の判決文にある、法律の明文規定なしに国民の重大な権利を制限(当然剥奪も)してはならないという判断を踏みにじることを意味するからである。そして司法当局が法治国家の基本原則を自ら放棄することになるといっても過言ではないからである。

私は法律家ではないが常識として、反対解釈などという恣意的な要素の大きい概念を権力が重要な法律に乱用することは、民主国家では許されないと考える。例えば国同士が安全保障軍事同盟を結べば、それ以外の国とは敵対関係とか交戦関係になるという反対解釈が成り立つのか。卑近な例では、痴漢被害を避けるために女性専用車両を設ければ、それ以外の車両では痴漢行為は認めることになるという反対解釈が成り立つのか。

法律の反対解釈自体が曖昧で偶然性、恣意性の塊である。だからこそ最高裁は、国民の審判を受けない権力である行政に明確な判決を示し、法律の明文規定に拠らない解釈の乱用禁止を明示したのである。同時に国民の審判を受ける立法府の責任も示唆したのである。高等裁判所が最高裁判所の判断を尊重することを切に期待したい。