江口克彦著「地域主権型道州制」の要旨(8)

道州制実現推進委員会副委員長 岡部 俊雄

(8)「地域主権型道州制」はこうする

 日本がいま必要としていることは、これまでの制度の延長線上にある改革ではまったくない。いま求められているのは「国のかたち」を抜本的に変えること、言い換えれば、中央集権体制から「地域主権型道州制」に変えることである。

 大人になれば子供の服が着られなくなり、新しい服が必要になるのと同様に、現在の日本にはその状況にふさわしい新しい制度が必要なのである。そして、新しい服(地域主権型道州制)は古い服(中央集権体制)に少し手を入れるだけでできるものではない。その身体にあった新しい服を最初からデザインする必要がある。つまり、日本の国のあり方もゼロベースから再構築されなければならないのである。

 

七つの意義・目的と四つの原則

 ここで提言する「国のかたち」は、そうしたゼロベースの観点から新しくデザインしたものだが、まずその前に新しい「国のかたち」をつくる意義・目的について考える必要がある。

 一番目の意義・目的は、国民も地域も個人も「自分自身の足で立つ」社会、すなわち「自主自立」「自己責任を果たす」「個人の正当な努力が報われる」社会を築き上げ、「日本全体を元気にする」こと。

 二番目は、そのことを阻害している「中央集権体制」を打破すること。

 三番目は、官僚主義を廃止すること。

 四番目は、国民一人ひとりが安心で、安全で、楽しく、生きがい、やりがいを感じる日本をつくること。

 五番目は、これからのグローバル化の時代にあって、国際都市、国際交流の拠点を多数つくっていくこと。

 六番目は、地域の個性を生み出し、特徴のある地域を創り出し、明るく、楽しい日本をつくること。

 七番目は、財政赤字の解消である。

 それでは、「地域主権型道州制」の原則は何か。以下にそれを記す。

(1)「競争」の促進 : 行政に対しても「競争」が行える環境を設定すること。

(2)「顧客主義」の徹底 : 政治や行政にとって、国民・住民は「顧客」であり、この顧客のニーズ

に応えることこそが政治と行政にあたえられた本来の使命のはずである。

(3)「国民・住民参加」の強化 : 官僚エリートによる一方的、画一的な政策管理の弊害を取り除く

ために、国民、政治、行政によるパートナーシップを深めることが重要となる。

(4)「ネットワーク型組織」の構築 : これまでの上意下達のピラミッド型の統治機構を情報が共有

でき柔軟かつ迅速に意思決定ができる フラットなネットワーク型の統治構造に

変えていく必要がある。

 

富士山型から日本アルプス型へ

 それでは、今日本が取り組むべき改革の意義・目的と原則にのっとった国のかたち、「地域主権型道州制」とは、具体的にどのようなイメージになるのか。イメージで言えば一つの巨大な拠点があるような「富士山型」のような統治構造ではなく、力のある拠点がいくつも存在する「日本アルプス型」の統治構造ではないだろうか。

 

道州制の区割りは12州

 こうした点を踏まえ、財政的自立と民主主義の拠点という二つの条件を同時に満たすためには、市の人口は行政コストが最も低下すると考えられる15〜40万人規模で300市、道州の人口は経済的にも社会的にも同レベルのEU諸国を参考に700〜1000万人規模で、次の12州に再編するのが妥当と考えられる。

 北海道    5,627千人 北海道(GDP:ギリシャ規模)

 東北州    9,634   青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県(スウェーデン規模)

 北陸信越州  7,739   新潟県、富山県、石川県、福井県、長野県(台湾規模)

 北関東州  14,069   茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県(オランダ規模)

 東京特別州  8,651   東京23区(スペイン規模)

 南関東州  19,651   千葉県、神奈川県、山梨県、東京都下(スペイン規模)

 東海州   15,016   岐阜県、静岡県、愛知県、三重県(韓国規模)

 関西州   12,076   滋賀県、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県(オランダ規模)

 大阪特別州  8,817   大阪府(オランダ規模)

 中国州    7,675   鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県(台湾規模)

 四国州    4,086   徳島県、香川県、愛媛県、高知県(アルゼンチン規模)

 九州    14,713   福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

(オランダ規模)

 この区割りについては歴史、習慣、風土、文化を考えて決めたものであるが、これには色々な考えがあり、それぞれ合理的な理由があると思うので、今後国民、識者の意見を聞きながら最終的な結論を得る必要があるだろう。

 

国・道州・市で機能を分担

 国・道州・市の役割分担について、その基本原則は、国の機能を出来るだけ小さくし、地域に密着した生活関連行政は、なるべく身近な自治体が受け持つということであり、その内容は次のようになる。

国の役割外交、安全保障、危機管理、年金や医療などの国民基盤サービス、通貨、金融システムなどのルール設

定や監視など、国民にとって最も大きな公共財の提供。

道州の役割河川、道路、橋、通信基盤、港湾、空港、生活環境整備、林野事業、災害対策、危機管理、能力開

発、職業安定、雇用対策など、便益の広がりが広域的な公共事業。

市の役割生活保護、社会福祉、老人福祉、保育所、幼稚園、消防、救急、生活廃棄物収集・処理、医療、保険所、

小中高等学校、図書館、公園、都市計画、街路、住宅、下水道、災害対策、戸籍、住民基本台帳など、

便益の広がりが特定の地域に限定される公共事業。

 さらに重要なのは、市や道州が独自の判断で条例を制定できることをしっかりと担保することである。また、市や道州の政策領域に関する法律については、市や道州はその内容に「上書き」をする権利、修正をする権利を担保する法律を作ることが必要である。

 

国会議員と国家公務員は半減

 これまで国の役割とされていたものが道州や市に移転するわけだから、中央省庁も国会も、かなりスリムな形になる。具体的には組織を大幅に削減し、国家公務員を約50%削減したいと考えている。

 また、衆議院議員の数は市の数に合わせて300名、参議院議員の数は各道州10名ずつとして合計120名にする。こうすると、衆議院議員は約40%の削減、参議院議員は約50%の削減となる。

 

地方交付税と補助金は廃止

 現在の自治体は、地方交付税や国庫補助金を通じて、財政の多くの部分を国に依存しているほか、本来は自由な裁量があるべき地方税についても、国から大きな制約を受けている。こうした状況を断ち切るには、市や道州が自前の税財源を確保することが必要になる。これについてはいまのところ二つの基本的な方向があると考えられる。

 その一つは、国税を廃止し、各道州および市がみずからの意思によって徴税できる権限を持ち、国の政府の財源については、各道州がそれぞれの域内総生産に応じて「国費分担金」として負担するようにする。

 もう一つは、税を国税、道州税、市税に区分けするやり方である。

 

変わる国と地域の財政規模

 これまで述べてきたような形で役割分担を行えば、国も地域も財政規模が縮小されると試算されているが、重要なことは、道州・市がそれぞれの権限で歳入と歳出をコントロールできるという点である。それによって地域の必要や事情に応じた財政運営が行えるのである。つまり、道州・市が財政規模自体を変えられるのである。

 

水平的な財政調整システムを構築

 「国費分担金」システムを採用しても、また、税源区分けシステムを採用したとしても、道州間あるいは市の間での財政調整は必要になるだろう。

 では、どのような財政調整が望ましいか、一言でいえば、水平的な財政調整システムである。つまり、国が集めた税金ではなく、地域がそれぞれ集めた税金をプールして、それを分配するという制度である。また、基準財政需要額のすべてを満たすような調整はさけるべきで、不足分はそれぞれの地域の自助努力で調達すべきと考える。

 

「公的債務共同管理機構」を創設

 「地域主権型道州制」を導入するにあたって、その前に立ちふさがる大きな障害の一つが、国ならびに自治体が現在背負っている多大な長期累積債務である。この過剰な債務に対する負担を何らかのかたちで軽減できなければ、いくら新しい国のかたちを描いたところで、国も自治体もなかなか身動きがとれない。

 そこで「地域主権型道州制」を採用するときに、同時に「公的債務共同管理機構」を創設し、国と地方の長期債務をすべて移管するのである。移管された長期債務の元本の償還は国や道州に実力がつくまで一定期間「塩漬け」にし、しばらくは利払いのみを行っていくのである。

 国全体の「借金」が減るわけではないが、こうしたスキームをつくることによって、持続可能な財政をとりあえず確立する基盤ができあがるだろう。

 

「地域主権型道州制」を実現する手順

 「地域主権型道州制」を導入するにあたっては、次のような手順が必要と考えられる。

(1)  国民啓発活動・世論喚起

 まず最初に行うべきは「地域主権型道州制」とはいったいどのようなものなのか、いかにそれが現在の日本にとって喫緊に必要なものか、広く訴えていくことである。

(2)  地域主権型道州制担当専任大臣・地域主権型道州制実現諮問会議の設置

 「地域主権型道州制」導入を具体的に進めるという段階になれば、担当大臣は兼任では十分な仕事はできない。明治以来の大改革には、専任で、その実現に邁進できる能力のある大臣が必要になる。また、専任大臣設置と同時に、具体案や工程表を策定する「諮問会議」を設置する必要がある。

(3)  首相の決断・国会の決議

 「地域主権型道州制」は「国体」を根本的に変革させるものであり、非常に大きな抵抗が、とくに政治家・官僚、そして民間からも出てくることは確実である。そうしたなかで、首相は導入案を国会に提出し、衆参両院において、これこそがこれからの日本を救う、現在考えられる究極の「新しい国のかたち」であることを、信念をもって真摯に訴え、賛成多数を得なければならない。

(4)  道州知事・道州議会の選挙

 道州知事はこれまでの都道府県知事とは比較にならないほどの裁量があたえられるのだから、その候補には、これまでの都道府県知事経験者のみならず、企業経営経験者など多くの有能な人たちが名乗りをあげてくるだろう。

(5)  税財源の完全移譲と「地域主権型道州制」による行政の開始