政権交代の意義

東京都文京区 松井 孝司


なぜ政権交代が必要か?政権交代のない「絶対的権力は腐敗する」からである。権力を腐敗させるのは、利権であり、既得権益だ。

政府の規制が利権を生み、肥大化する政府が利権を膨らませるのである。

パーキンソンの法則が教えるように、政府は不必要な仕事をつくり肥大化する傾向がある。縦割り行政の規制が生む利権を利用して設立された行政委託型天下り公益法人や特別会計はその典型例である。

自民党に巨額の企業献金が集中するのは、自民党も巨大な利権集団の一員となっていることを示している。

自民党による長期政権が政官業癒着による巨大な既得権益を生み、巨額の公的資金の浪費を繰り返し、日本政府は900兆円を超える巨額の累積債務をつくってしまった。

巨額の公共投資を繰り返しても日本経済が低迷するのは、投資が無駄になっていることを立証するもので、定額給付金のようなバラマキ行政による資金の浪費が政府債務を増大させるのである。

公的資金の多くが浪費になったために、日本政府のバランスシートは約300兆円の債務超過になっている。これは未来の子どもたちへの債務(未来の税金)となって残る。

「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉元総理でも議員稼業の世襲をやめられなかったように、既得権益を持つものが自己改革をすることは難しい。

小泉改革の継承を唄った小池百合子氏が自民党総裁選で惨敗したことが、それを証明している。自民党の利権体質は変わっておらず、一時的には敗退した守旧派が復活し、小泉改革は挫折したのだ。

日本経済は不況色を強めており財政出動への圧力は増し、不況を理由に利権集団による浪費は更に増大するだろう。

利権の解体は既得権益を持たないものでなければ不可能であり、自民党に代わって利権を解体する資格をもつ政党は今のところ野党第一党の民主党しかない。

最大の利権をもつのは霞ヶ関の中央省庁である。したがって、政権交代で民主党に期待するのは、霞ヶ関の埋蔵金の発掘である。脱藩官僚の高橋洋一氏は埋蔵金の額を約50兆円と試算しているが、これは「安定財源ではない」と否定し、余剰金があれば債務返済にまわすべきだと主張する人もいる。

政府の行政組織を縮小し、天下りも含めた勝ち組の高所得公務員の給与総額を削減して、政府に寄生する利権集団を解体しなければ、埋もれた余剰金や安定財源は発掘できない。

中央省庁がもつ巨大な権限を地方に移譲することが重要であるが、補助金漬け地方自治体の中には権限移譲の受け皿となることに躊躇するところもある。依存体質の自治体をいくら集めても自立は難しく、借金漬け地方経済の活性化も難しい。

国のかたちと行政組織を抜本的に変えて税金の無駄遣いを阻止する必要があり、発想の大転換が必要になる。

江口克彦氏が提案する「地域主権型道州制」は、中央省庁の利権を解体し、地域経済を活性化するための有効な手段になる筈だ。

建築や食品には数多くの規制が存在するにもかかわらず、不正行為は防止できなかった。建築規制のように、規制を増やして官製不況をもたらしている例もあるし、社会保険庁のように公務員が自ら不正に手を貸すことさえある。

公的規制をいくら増やしても、不正が露見することは稀で、不正が根絶される保障はない。効果のない公的規制は撤廃して、損害賠償などの罰則強化、内部告発の推奨、事業者の自己規制により税金を使わず不正を糾すことが賢明な策である。

電子政府、電子自治体を実現して定型業務を無人化し、公務員の数を大幅に減らせば、行政経費と公務員の不正行為は激減する。利権を生む規制は大幅に減らし、政府の規模を縮小させれば、政府のプライマリーバランスも一挙に改善するだろう。

しかし、小泉改革が挫折したように改革に抵抗する勢力は強く、行政組織の縮小は至難の業である。既得権益の巣窟となっている霞ヶ関の官僚機構は日本最大のシンクタンクで知恵者が揃っており、国民を洗脳し国民の資産を巧妙に取り上げる。その一例が名目を変えた公的保険料の徴収である。介護保険、後期高齢者医療保険の創設や年金からの天引きは、政府が巧妙に増収を企てる具体例である。

GDP(国内総生産)が増えないのに、政府が増収を企てることは、民間所得の減少、民間活力の衰退、疲弊を意味する。

民間事業体における付加価値の創造なくして国民生活の向上はなく、政府に寄生し税金を喰う利権集団が肥大化していては、日本の国内経済は衰退する以外に途はない。

政権交代の意義は、利権を解体することによって付加価値を生まなかった巨額の公的資金を付加価値の大きい民需に廻し、経済を活性化することにある。

付加価値を生む高速道路のような事業に公的資金を投入する必要はない。民間資本を活用し、短期間に世界第2位にまで大発展した中国の高速道路事業を見習うべきだろう。

米国発の世界同時株安で、国内経済だけではなく世界経済も大不況に向かおうとしている。世界不況に対処するためには、国民の不安を払拭する骨太の経済活性化策、新雇用創出、新事業と新需要開拓によるGDPの拡大策が不可欠だ。

EU(欧州連合)やASEM(アジア欧州会議)の首脳陣は金融規制を強化する国際金融システムの全面的改革を求めている。今求められるのはグローバル化する世界経済の改革であり、日本社会の少子高齢化を回避する経済政策、理不尽な信用膨張や信用収縮を防止する通貨管理策など、国内経済に囚われることなく世界経済を視野に入れた政策を日本から世界へ、特にアジア諸国に向け発信する必要がある。

政権交代後に心配されるのは、民主党に世界不況を克服できるスケールの大きい政策立案者がいるかどうかである。

守旧派の利権集団を知力で圧倒できる人材が民主党から続出することを期待したい。