元官僚の「ふるさと納税」に関するコメント

東京都渋谷区 岡部 俊雄

 生活者通信3月号にふるさと納税に関する三つの投稿文が掲載されましたが、元財務官僚の高橋洋一氏は著書「さらば財務省!」の中で、また、元自治官僚で現福井県知事の西川一誠氏は311日の朝日新聞「私の視点」で、ふるさと納税に関する見解を述べておられます。

 「さらば財務省!」の内容に全て賛同するものではありませんし、また、西川知事は道州制に反対の立場を表明しておられ、私の意見と大きく異なる方でありますが、このふるさと納税に関する記述は、両氏とも私の見解と似ています。

両氏とも、この「ふるさと納税」の導入にかかわってこられた方でありますし、元官僚のコメントということで興味があると思いますので、原文のまま掲載します。

 高橋氏はこの制度に対する中央官僚の業腹な思いを述べておられ、また、西川氏はこの制度を更に発展させるために、年末調整の対象とすることを提案しておられます。

 

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高橋洋一氏のコメント

 20075月、菅義偉総務相が創設を表明した「ふるさと納税」が議論されている。これは文字通り、ふるさとを離れて働く人が、自分の裁量で、ふるさとに税金の一部を納めることができるという制度だ。納税との名称がつけられてはいるが、「税額控除方式による寄附」ということで実現まであと一歩である。

 このふるさと納税が話題になる背景として、素朴な考え方がある。地方自治体は税金を投入し、学校や病院を建て、福祉を充実させて、子供たちが育つ環境を整えている。しかし、子供たちの多くは大きくなると都会の大学に行き、都会で就職する。地方は苗から一生懸命育てても、果実は都会が摘み取っていく。現在、財政が黒字なのは東京都と愛知県だけで、他の都道府県は例外なく赤字に苦しんでいる。

 都市部が得ている税収のいくらかは人材を育成している地方にも還元されていいのではないか−多くの人はこのイメージだと思う。

 ただ、結果としては、そのように都会と地方の所得格差を埋めるようになると思うが、ふるさと納税の真意は、納税者が自らお金の使い道を決められるということである。ふるさと納税が実現して、国民が税の一部をふるさとに直接、納めるようになると、これまで「お上が吸い上げて、お上が配分していた」システムではなくなる。この点を、私は発案者の一人として強調しておきたい。

 お上たる役所の論理では、こんな制度はとても許せない。役所は国民のカネも自分たちの権限で使って当たり前と考えている。中央官庁の官僚はとくにこの感覚が強く、「国庫にいったん入ったカネはすべて自分たちのものだ。使い道を決めるのは自分たちで、他のものには手を一切触れさせない」とほとんどの者が思っている。

 国庫へ入るカネが減って、しかも自分たちが独占している配分権まで侵される。中央省庁の官僚にとって、これほど業腹なことはない。

 

西川一誠氏のコメント

 新年度の自治体予算には、地域をよくしようという工夫の事業が多く見られる。例えば、世界遺産・熊野古道の整備と案内標識などの設置(和歌山県)、奄美群島の希少野生生物の生息地調査(鹿児島県)など、昨春から始まった「ふるさと納税」を利用して進める事業である。

 この制度の提唱県であるわが福井県も、高校生の吹奏楽部の楽器購入や小学生の田んぼ体験などに約2千万円を計上した。

 「ふるさと納税」は郷里などの自治体に寄附をし、その証明書を持って確定申告をすると、その分の住民税が控除される制度である。わが国は、地方で生まれ、地元で教育を受けた人材が進学や就職を機に大都市へ移り住み、活躍するというシステムに支えられてきた。「ふるさと納税」は、こうした状況のもとでふるさとを思う気持ちを寄附を通して形にする仕組みだ。

 反応はどうか。

福井県が設置した「ふるさと納税情報センター」に寄せられた情報を集計すると、これまでに全国の都道府県と約900の市町村で約2万件、23億円を超す「ふるさと納税」が行われている。最終集計ではもっと増えるだろう。景気後退の中で、初年度としては上々の数字だ。

 だが課題もある。住民税の控除には確定申告が必要なのだ。

 所得税の納税者は全国で約5100万人だが、確定申告をする人は16%(約800万人)にすぎない。大半はサラリーマンで、給与から自動的に源泉徴収され、保険料や扶養などは会社が「年末調整」をしてくれるから、確定申告になじみがない。

 そこで、私は「ふるさと納税」も天引きが出来るよう制度の拡充を提案したい。寄附の証明書を勤務先に提出し、年末調整時に会社が手続きを代行してくれるなら、「ふるさと納税」は一層広まるだろう。

 大阪、名古屋圏の人口はすでに頭打ちだし、東京都の人口も減少の兆しが現れている。最近は景気後退の影響もあろうが、人々の「ふるさと志向」が強まり、故郷に帰ったからだろう。

 「ふるさと」という言葉を含む新聞記事の件数を、80年代以降、朝日新聞のデーターベースで探ってみると、年々増え続けており、特に97年ごろからの増加傾向が目立つ。

 97年前後といえば、約680万人の団塊の世代が50代を迎えた時期だ。故郷を離れ、都市で働いてきたこの世代の人たちの心に、ふるさとへの思いが芽生え始めたのではないか。今のふるさとへの流れは、そうした気持ちが世代を超えて広がったことの反映だろうと思われる。

 今後は、様々な世代の人々がそれぞれの「ふるさとに帰り住む」ことによって、日本全体が元気になってほしい。そのためにはまず、ふるさとに心を帰す「ふるさと納税」がさらに普及することが重要だ。「ふるさと納税」を年末調整の対象とし手続きの簡素化を求めたい。