核兵器をエネルギー資源に!

東京都文京区 松井 孝司


「核兵器のない世界」の実現を期待して、2009年のノーベル平和賞は米国のオバマ大統領に与えられることになった。国連総会で「核兵器廃絶」への決議に米国は昨年まで8年連続で反対してきたが、今回は核保有国として初めて共同提案国に加わり、9年ぶりに賛成に回るという。

一方、日本の鳩山総理大臣は25%のCO2排出削減を、米国をはじめとする世界各国に求めている。

米国が大量に貯蔵する核兵器を廃棄することは世界中が歓迎することであり、廃棄される兵器のウランを原子力発電に転用できればCO2削減に大きく寄与することができるので、経済への悪影響を危惧してCO2削減に後ろ向きの米国の国民も歓迎するだろう。

原子力発電に反対してきたドイツ国民も核兵器による人類滅亡の脅威に比べれば、原子力発電所の存在など許容範囲であることは理解できる筈だ。

大前研一氏は近著「最強国家ニッポンの設計図」の中で、原子力発電の実情を紹介し「エネルギー大国ニッポン」への期待を表明している。

発電エネルギーのコストは、原子力と石油で比較すると原油価格が1バレル60ドル以上になると放射性廃棄物処理を含めても原子力のほうが安くなり、燃料となるウランは米国とロシアの「核兵器」の中に大量に埋蔵されているという。

現存するウランの用途として「原子爆弾」と「原子力発電」の内、いずれかの選択を迫れば、まともな頭脳の持つ主なら躊躇せず後者を選ぶだろう。CO2削減のため米国だけではなく、すべての核兵器保有国にウランの原子力発電への転用を呼びかけるべきだ。

原油価格の高騰とCO2削減策は低価格の原子力発電へのシフトを促進するに違いない。

すでに原子力への回帰は始まっており、ドイツでもメルケル首相の再選で廃棄される予定の原子力発電所は存続される可能性が高くなった。巨額の費用を使って使用中の原子力発電所を停止し解体するより、補修して延命させる方がメリットは大きいのである。

世界中では原子力発電の潜在需要は約120基あるが、世界各国の重電メーカーが原子力発電から手を引いてしまったため、原子力発電で主導権を握るのは東芝、三菱重工、日立などの日本のメーカーである。

原子力が衰退産業なってからも日本とフランスのメーカーだけは人材を確保してきたが、あと10年経ったら日本のエンジニアも枯渇するところだったらしい。

原子力エネルギーは20世紀最大の発見の一つである。原子力発電を否定することは、20世紀に人類が築いた成果を否定することになる。天候に左右されず連続発電ができる原子力発電は太陽光、風力発電と補完性もあり、人類が21世紀に持続可能な社会を構築するために不可欠の技術となる可能性が大きい。問題は有害とされる放射性廃棄物の処理であるが、解決不能の問題ではない。

自然界に放射線は満ち溢れており、宇宙からも大量の放射線が地上に降り注いでいる。放射線の実体はエネルギーであり、太陽光発電も太陽から出る放射エネルギーの電気への変換である。ウランの中にプルトニウムを含む高レベル放射性物質は廃棄せず、貴重なエネルギー資源として再利用すべきで、MOX燃料などの処理技術の向上を急ぐ必要がある。

鳩山内閣は25%のCO2削減を確実に達成するためにも、原子力利用時の安全性を高める放射線の制御技術と監視体制の向上を促し、日本が原子力発電で世界に貢献できる最後のチャンスを逃がさないようにして欲しい。

既存の施設にみられるように、安全性への危惧から電力の消費地から遠く離れた場所に巨大な原子力発電所を建設することは、土地買収、事故対策、送電ロス、発電停止後の解体処理を考えただけでも問題が多い。

発電と送電のコストを低く抑えるためには都市近郊での海中発電または大深度地下発電など、地域密着型で安全性が高く解体処理が容易な小型分散型の原子力発電の技術開発が求められる。

乗組員が原子炉と同居する原子力潜水艦の実例もあり、都市と共存できる安全性の高い小型原子力発電も実現は不可能ではないと思う。