ニュージーランドの政治と暮らし

〜議会を中心として〜

   千葉県議会議員 吉川 ひろし


 2009726日から821日まで「ニュージーランドの政治と暮らし」というテーマで個人視察をしてきました。NZの人口は約430万人ですが、私が訪問したのは北島のオークランド市(人口130万人、市議20名)、ロトルア市(人口9万人、市議12人))、ウェリントン市(人口42万人、市議14人)、南島のクライストチャーチ市(人口38万人、市議13人)の4都市です。ニュージーランドの視察目的は、@地方議会と選挙制度についてA緑の党についてBオンブズマンの活動について、C平和な国の理由、D民営化の問題、E住民の暮らし、等々である。

《報告》

NZの国会や地方議会では、住民の意見を取りまとめて議会で議論すると同時に議会は住民の意見を聴取して、判断・決議することがベースになっている。日本の議員の中には、」「議員は住民の代表」という意識が強くて、市民から「全部を一任されている」と勘違いしている人も時々見受ける。しかし、NZでは議員に議決権は付与されているが、その決定のプロセスに住民が関与する仕組みが「制度」として規定されている。従って、常任委員会などでも住民の意見表明の機会が一人3分〜5分しっかりと担保されている。多数の人が意見表明を要望したらどうするのか?と聞いたら、「全部聞く」と議員は答えていた。

さて、NZの国会議員は122名で、小選挙区62、比例53、マオリ選挙区7である。このように先住民のマオリの人たちの声が国会に届くようにマオリ出身の議員が必ず選挙で当選するように「マオリ選挙区」を設けている。緑の党の国会議員のキース・ロック氏は「緑の党の国会議員は9人であるが全員が比例で当選した。比例区がなければ緑の党は国政に参画できなかった」と言っていた。日本の供託金が選挙区で一人300万円、比例区で一人600万円ということを告げたら、NZでは$300(2万円程度)であり、日本の人たちは民主主義を知っていないのでは?と笑いながら言っていた。国会議員も地方議員も任期は3年である。キースさんの国会議員の報酬は845万円であり、10%を緑の党に納め、1%を国際緑の党に納めている。秘書2人と事務所費は国費で賄っている。

国政の投票率は70〜80%で高く、日本と同様に投票は学校や公共施設で投票する。地方選挙は「郵便投票」であり住民は候補者名が書かれたシートにチェックを入れてポストに投函する仕組みである。しかし、投票率は40%前後と低い。その理由は、福祉、教育、警察はすべて国の仕事であり、また、環境保全は地方広域組合などが行っていて、地方自治体の役割は住民税の賦課徴収、ごみの収集などであり、日本の地方自治体よりも仕事の範囲が限られていることに原因があると思う。郵便投票では「投票用紙の買収」の不正はないか?と質問したら、「市民は民主主義を知っているので、議員も市民もそのようなことは考えもしない」と言っていた。仮に、そのようなことがあったら当事者は社会的に抹殺されるとも言っていた。

地方議会は人口比による区割りで、1区で2〜3人が選ばれるという中選挙区である。地方議会には緑の党の人もいるが、むしろ無所属での立候補が多い。オークランド市のように大きな市議会では政党・会派の存在があるが、ほとんどの市議会には会派はなく、市長が議長を務めて全員が議論するのが普通である。市議会議員は毎週のように昼間に開催される委員会や審議会があり、その他に夜開催される市議会・地区議会にも出席するので兼業は困難であり市議は「専門職」である。

地方自治体には、市議会の他に地区議会(地区協議会)があり、1地区に10名程度の議会議員も選挙で選ばれる。地区の市議会議員は地区議会議員を兼任していて、地区議会での議決を地区の代表として市議会で議論する。市議会議員の報酬は自治体の人口にもよるが、300〜500万円程度で、住民の平均所得よりは高額であるので、住民から費用対効果についていろいろと不平が出ている。地区議員の数や報酬は自治体によって違うが、大体住民5000人に対して1人程度の議員数で、報酬は年間60万円〜120万円程度である。地区議員は議員以外に他の仕事を持っているので、夜7時ごろから開催される夜間議会である。もちろん地区議会でも住民は意見表明ができる。この地区議会の下に町会、連合自治会がある。私が傍聴したオークランドの地区議会では、連合自治会長が地域の消防署の移転問題について要望を発言し、その次にオークランド消防局から2人が消防体制について意見を述べていた。それらを受けて議員同士が地区防災のあり方を協議して、市議会で取り上げてもらうように、地区選出の市議会議員に要請していた。

さて、最後になるが、日本の行政機構と違うのは、主席行政官(Chief Executive Officer )の存在である。この行政官は公募で選任されて議会で承認されるが、行政のプロとして市長の2倍程度の報酬をもらい、予算執行権と人事権を付与される。プロの行政マンとして実績をあげて現在より条件の良い国内外の自治体に転職することがよくある。また、市長も議員も直接に職員に住民要望を要請するのではなく、あくまでも議会というオープンの場でこのCEOを通じておこなうのが常である。行政執行機関と議決機関がはっきりと分離しているので、議員の口利きなどが起こりにくい仕組みができている。今回の視察では、民主主義の原点である選挙制度や議会のあり方について大きく学ぶものがあり、日本の未熟な議会制民主主義をあらためて再確認することができたが「道は、なお遠し」である。

以上