普天間問題の解決は逆転の発想で!

東京都文京区 松井 孝司


仏教の教えに「変毒為薬」という言葉がある。

この言葉は第2の仏陀といわれる竜樹が大智度論の中で「大薬師の能く毒をもって薬と為すが如し」と述べたことに由来する。大薬師(智者)の手にかかると「毒」(=煩悩)も「薬」(=解脱)に変えられるというのだ。

社会に存在する事物は、すべて両面があり「悪」と「善」は表裏一体と考え、「悪」は「善」に転換できると考えるのが仏教の思考原理である。

普天間問題で日米は共同声明を出したが、飛行場の移設は難しく普天間の基地周辺の危険性はいつまでも放置される可能性が高くなった。

普天間問題の解決には、沖縄住民の立場に立ち「変毒為薬」を可能にする逆転の発想で、「地獄」を「楽園」に変える智恵が求められる。

殺菌剤や殺虫剤のような「毒」も、使い方によっては「薬」になる。

沖縄に駐在する米軍は住民にとって「毒」かも知れないが、見方を変えれば北朝鮮のような好戦国家から身を守る「薬」になる。

沖縄の海兵隊は、実際にはありえない戦争ゲームに明け暮れる長期滞在の客と見なせば、内需創生で沖縄の経済に大きく貢献する存在と見ることもできる。

問題は「薬」の副作用であり、戦争ゲームで飛行場周辺に住む人達が蒙る危険性である。

副作用は軽減させる必要があり、危険性は放置せず一刻も早く住民の不安を解消しなければばらない。

具体策としては、すぐには実現が難しい飛行場の移設ではなく、飛行場周辺に住む人達を安全な場所に移住させたらどうだろう。基地移設案は凍結し、基地移設に必要とされる巨額の費用を危険性回避のための街づくりと住民の移住費用に当てるのだ。

米軍にとっても基地移転の必要がなくなり好都合だろう。

沖縄住民には住み慣れた土地への執着を断つ意識改革が求められるが、住民の手に巨額の土地収用代金または移住費用が渡ることになる。

街づくりは新しい都市計画と高齢化社会に相応しい機能を備えた省エネ型コミュニティーの構築で新しい付加価値の創造ができれば、軍事基地の移設工事よりはるかに大きな経済的波及効果が期待できる。

第二次世界大戦後、米軍が接収していた地域(奄美諸島と沖縄諸島)を住民移住予定の経済特区に指定し、インフラを整備してハワイに匹敵するリゾート地域に変身させ地域経済の振興を図れば観光立国のモデル地域になる。

沖縄が美しく快適なリゾート地になれば、沖縄に駐留する米軍の犯罪も減るだろう。

経済特区へ観光客を誘致するためには、交通アクセスの改善を図り、日本の円高を是正する必要があり、江戸時代に島津藩が琉球通宝を発行して沖縄を交易の拠点としたようにドルまたはアジア通貨とペッグした独自の地域通貨を使って円高を回避するなど、沖縄の弱い経済を生かす施策が重要になる。

名護市だけを金融特区に指定したような経済対策では不充分であり、ウオン安で蘇生した韓国経済の事例に学ぶべきだ。

物価が安くなれば観光客だけではなく低コストの年金生活を希望するアクティブ・シニアも呼び込み、沖縄の内需を拡大することができる。

フィリピンでも米軍が撤退したあと基地周辺は倒産と失業が相次ぎ、経済特区に指定されたという。米軍の撤退だけでは問題の解決にならなかったのだ。

明治維新前、沖縄は独立した琉球王国であり日本国ではなかったのに廃藩置県による中央集権化で強引に日本に編入され、明治維新以後日本の支配下に置かれた沖縄は苦難の道を歩むことになった。

自然環境と経済力に格差のある地域を同一条件で競わせるのは間違っている。

弱い経済を逆手に取る一国多制度(=連邦型道州制)の経済特区により地域経済の活性化ができれば、過疎化で疲弊する地域が自立し地域主権を確立するための格好のモデルになるだろう。

基地移設資金を、高齢者にやさしい街づくりのための軽便鉄道や小型原子力発電など、日本企業が得意とする脱石油のインフラ投資に転用できれば、環境技術立国による経済成長モデルにすることもできる。

仏教の逆転の発想によって米軍の基地移設費を、地域経済活性化と日本経済の成長に役立てることができれば、一石二鳥の功徳を生むことになるだろう。


22・6・14