「大麻は麻薬ではない」
月刊ペントハウス/丸井英弘弁護士緊急インタビューより
取材・文:浮ヶ谷高伸
なぜ、NHKを訴えたのですか?
NHKが1996年3月27日、午後9時30分から30分間にわたって報道した「若者に広がる大麻汚染」と題する番組で、大麻汚染という言葉を使い、番組の中でも大麻が麻薬であるという見解に立って、大麻について正確な報道をしていないからです。
大麻は麻薬ではないのですか?
まず、法的に大麻は、大麻取締法という麻薬取締法とは別の法律で規制されているという事実があります。そもそも大麻の”麻”という字は、麻薬の”麻”と同じ意味ではありません。麻薬の”麻”のいみは、麻酔薬からきたものだと思われます。大麻の”麻”はまさしく”アサ”のことです。
アサというのは、繊維の麻のことですよね。
ええ、まさに、その麻のことです。マリファナも繊維の麻同じ植物です。今回のNHKの問題もそうなんですけど、マリファナすなわち大麻は、麻であるということをまず、よく認識することが大切なことだと思います。
しかし、その麻が規制されているのは事実なわけで、法を破れば犯罪ですから、そういう意味で汚染という言葉をNHK側は使ったのではないでしょうか?
それが問題なんです。麻は古来から日本人と深くかかわりをもちつづけてきた大切な植物なんです。第二次大戦前は、その栽培が国家によって奨励されていました。神聖なものとして扱われるべきもので、そもそも、汚染などという言葉を使ってはいけない。麻はただの繊維ではなく、天照大神御印とされ邪気を払い除けるおはらいの用具として古来から使われてきました。何よりも大麻は、伊勢神宮から授与される神符・神札そのもので、「神宮大麻」と呼ばれています。現在でも魔除け、厄除け、おはらい等の目的で大麻が多く使われ、天の岩戸開き神話にも大麻が使われたという伝承も残っています。最近では、平成天皇の即位に際して行われた大嘗祭において、平成天皇が使用した着物も麻で織られたものです。それを汚染と呼ぶのは日本人としてのアイデンティティを否定することです。私は麻と稲は日本人の魂だと思っていますから。
しかし、規制されるのはやはり何らかの危険性があるからではないですか。
ハーバード大学の医学者であるレスター・グリーンスプーン氏とジェイムズ・カバラー氏の共著の「マリファナ」(青土社)という本の中でも指摘していますが、大麻には致死量がありません。危険性の尺度を致死量のこととするならば、大麻は非常に安全なものであると言えます。少なくともこれまでの調査で大麻摂取による死亡例は報告されていません。
日本において大麻はいつごろから規制されているのですか?
日本において大麻規制がはじめてなされたのは、1939年に「麻薬取締り規則」が制定されたときに始まります。しかし、その内容は「印度大麻草、その樹脂、及びそれらを含有するもの」の輸出入が内務大臣の許可制とされていただけで、製造は届出制、販売はまったく自由でした。繊維をとったり、油を得るため、また、戦争中にはパラシュートなどの軍事物資用いるために栽培が奨励されていた国産の麻が、現在のように規制されるようになったのは第2次大戦後ですね。
なぜ、それほど有益な植物が規制されるようになったのでしょうか?
日本に進駐した占領米軍が、大麻規制を日本に迫りその結果、大麻取締法が1948年に制定されました。そもそも、大麻の規制はアメリカの政策だったんですね。当時、アメリカは大麻弾圧の真っただ中で、それがそのまま日本にも波及したというわけです。そのアメリカだって、建国当時は麻の栽培を奨励していたんです。麻の繊維は貴重品で船のロープをつくったり、軍事物資でもあった。種から油を搾り繊維は衣類に使われていた。規制された理由は色々考えられます。ひとつは石油化学工業の発展です。ナイロン等との競合ですね。そして麻からは質のいい紙が作られます。木材パルプ資本にとっては驚異でしょう。それに、アメリカは禁酒法が撤廃になって取締官の仕事がなくなってしまったんですね。その新しい対象として大麻が選ばれたんでしょう。
そういえば「戦後強くなったのは、女と靴下」という言葉が示すように、日本に石油化学繊維がどっと入ってきましたね。
縄文時代から人間は植物と共生し続けてきた。宗教儀式や神話の中にも象徴的に扱われているように、大麻は人間と植物の共生のシンボル的なものだったんです。実際に福井県の鳥浜遺跡という1万2000年くらい前の縄文遺跡のなかに麻の繊維や種などが出てきています。それらをすべて否定し、犯罪にまでおとしめてしまったことが、現在の環境破壊にもつながっているのだと考えています。人間の暮らしに大麻を復権することが精神的にも環境的にもいいと思っています。
その根拠は?
大転換期がかなり間近に迫ってきていると思います。経済的にもパニックがくるし、輸入も困難な状態になってくるはずです。そのなかで、一番大切なのは、自給自足です。大麻からは紙と建材が作られます。建材は、すでにスイスで開発されています。そして種からは、たんぱく質やビタミンなど有益な栄養素がとれます。燃料も取れます。タンパク質からは人工皮膚なんかもできる。大麻の繊維質セルロースを使えば、土で分解するバイオプラスチックなんかもできる。実際に、1949年代のフォードでクルマの車体に麻プラスチックを開発しています。さらに大麻を栽培すればするほど炭酸同化作用によって炭酸ガスを吸収し、酸素を出しますので、地球の温暖化対策と空気の浄化にもなります。成長も早く環境に強い大麻は、自給自足には大切な植物なんです。現在、大麻取締法があるために大麻の有効利用の研究がしにくい状況にありますが、大麻に汚染などという先入観を持たないで、厚生省や農水省、環境庁など行政当局が大麻の有効性についてもっと積極的に調査・研究することを強く希望します。紙幣なんかも麻で作ればいい。そうすれば、完全な換金植物になるんですよ。
さまざまな分野での利用価値はわかりますが、煙を吸えば中毒になったりするという弊害もあるじゃないですか。
中毒というのがどういう状態のことなのかよくわかりませんが、禁断症状、つまりそれをやめると身体的な異常が起きるということはなく、精神的な依存性もアルコールやニコチンより低いという研究報告があります。もし、社会的な行動ができなくなるとすれば、それは大麻の問題ではなくそうなる人や社会の持つ様々なストレス等が原因でしょう。
幻覚を見たり、凶暴になったりすることはないんですか?
大麻そのものに幻覚作用はありません。もし、幻覚を見たことがある人がいるとすればそれは、暗示による効果だと思います。五感が鋭敏になるということはありますが、大麻には鎮静作用があるので、それが凶悪犯罪につながる可能性はまったくといっていいほどないと思います。私の過去22年間にわたる約150件以上の弁護活動からしても大麻を使用しそれが原因となって、他人に害を与えたケースはまったくありませんでした。大麻よりも包丁の方が人を傷つける可能性は格段に高いのではないでしょうか。最近、カリフォルニア州で行われた選挙で「マリファナの薬用使用を認める」という法案に対し、55%の人が賛成票を投じたのがニュースになっていましたが、実際に、日本でも明治のころ「ぜんそくたばこ印度大麻煙草」という喘息の薬として売っていた事実があります。その他にも、世界各地でガン剤の副作用の緩和や緑内障、アルコール依存、鬱病の治療など、様々な医療的な効果が確認されています。その歴史も古く、「中国では紀元前2000年代に鎮静剤としてつかわれていた・・・」と厚生省薬務局麻薬課発行の「大麻」のなかにも書かれています。大麻は有益なハーブなんですよ。
でも、所持していれば、やはり罪は罪、法律違反なわけですから・・・
それも重罪です。大麻取締法は、大麻の栽培、輸出入については懲役7年以下、所持、譲渡については懲役5年以下と規定されています。ちなみに未成年者略取・誘拐罪は3月以上5年以下の懲役です。大麻をただ持っているだけで誘拐と同じ悪質な犯罪とされているのです。一般事件というのは、被害者がいて犯罪になるわけですが、大麻取締法においては、窃盗罪や傷害罪のように被害者が存在しません。そもそも大麻のような嗜好品を刑事罰で規制することには反対です。私は、刑罰法規は最小限なほど民主主義の成熟度が高いと思っていますから。法律に問題がある場合は、その法律を変えていくのが法律家の使命だと考えています。
今後の活動を教えてください。
麻の復権です。麻産業を復活させたいですね。なるべく自然環境を破壊しないで生きていく方法を探していくべきだと思います。大麻には、その鍵が隠されている。そういう意味では、この大麻取締法にも重要な意味はあります。この法律によって、大麻について真剣に考えるきっかけを与えてくれたわけですから。困難な状況をあえて選んで、新しい時代を作るためのステップなんじゃないだろうか、と。不思議に思うかもしれないが、私が弁護をした人の多くは大麻で捕まったことを自分にとってプラスになったと解釈しているんです。大麻取締法の廃止は、軍事基地撤廃とならんで、戦後の占領政策の見直しであり、それがまさに世の流れです。人類の意識が進化するひとつのプロセスなんだと思います表現できないと考えているようだ。その内容は一神教のキリスト教やイスラム教の教えとは異なり、善悪二元論に陥りやすい「反」ではなく「不」の表現で事物を融合する弁証法的思考である。仏教は対立する概念を「不」と否定しながら、すべての事物の一体不可分の関係性を直観しており、多様化する21世紀の社会に適応できる新しい理念を含んでいるように思う。
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☆上記文章は、9月14日のご講演の内容と大きく重なるので、丸井英弘氏のご承諾を頂き、丸井氏のHP「麻と人類文化」から転載しました。