官僚と闘う政治の注目情報詳細(2009年10月)
1.官僚主導の象徴に幕−最後の事務次官会議
(2009年9月15日 毎日新聞)
14日正午、首相官邸2階の小ホールでは、毎週月、木曜定例の事務次官会議がいつも通り始まり、特段の案件もなく20分弱で終わった。これが1886(明治19)年から123年続いた同会議の幕引きとなった。
「きょうの会議が最後になるだろうが、今後もメンバーは連携して、国家国民の利益にならないことがあれば大臣にものを申すことも必要だ」。議事進行役を務めた漆間巌官房副長官は居並ぶ各省の次官に呼びかけた。
警察庁長官から官僚機構トップの官房副長官まで上り詰めた漆間氏だけに、次官会議後の記者会見でも「閣議は事前の調整作業が大事。それを役人が行ってきた象徴が次官会議だ」と意義を強調。「脱官僚」を掲げ、新政権での同会議廃止を打ち出した民主党への恨み節が口を突いた。
内閣官房発行の「内閣制度百年史」によると、会議は内閣制度ができた翌年に外務、内務、大蔵、陸・海軍など9省で始まった。戦後、芦田内閣時代の1948年8月、内閣官房次長(現官房副長官)が「閣議に提案する案件は、原則として次官会議に付するものとする」と通知したことで、閣議案件の事前審査が原則化された。法的根拠はなく、民主党は「官僚主導の象徴」と批判してきた。
新政権では政策テーマごとに関係閣僚による「閣僚委員会」で省庁間の調整が図られることになる。麻生政権とともに16日付で退任する漆間氏は「暗中模索、試行錯誤が続くだろう」と否定的な見方を示して最後の会見を終えた。しかし、在職のまま民主党政権へ移行する各省の事務次官は廃止方針に異を唱えるわけにはいかない。
丹呉泰健・財務事務次官は会議後の会見で「新政権の方針に沿って対応していく。取りやめになったとしても、閣議にかける案件は事前によく調整することを心がけなければならない」と慎重に言葉を選んだ。6月の記者会見で民主党の政策を「現実的でない」と批判した井出道雄・農水事務次官も「新政権の方針に従う」と低姿勢。同党が次官会見の廃止を検討していることにも「情報発信の一つの方策ではあるが、唯一無二だとは思わない」と理解を示した。
「政」と「官」の新たな関係構築が手探り状態で始まった。
2.長妻厚労省 「国民のため」のモデルに
(2009年9月24日 朝日新聞 社説)
「脱官僚依存」を掲げる新政権の閣僚と、身構える官僚。その緊張関係を象徴するのが、長妻昭氏を大臣に迎えた厚生労働省だ。
新大臣の初登庁といえば、職員らが拍手で出迎えるのが慣例。だが組閣翌日の17日、長妻氏を迎えた厚労省に拍手はなかった。
長妻氏は年金記録のずさん管理を暴き、社会保険庁や厚労省に対する批判の急先鋒だった。首相官邸での就任会見でも「ウミを出す」と宣言。省内のピリピリした空気が、儀礼的な拍手すら押しとどめたように見えた。
その反面、大臣着任のあいさつを聞こうとする職員で省内の講堂はあふれた。長妻氏がしようとしていることへの関心は高い。
こうした状況を考えれば、長妻氏の率いる厚労省こそ、新政権が掲げる「政治主導」のよきモデルとならなければならないことは明らかだ。
「大臣は役所の長であると同時に、国民から送り込まれた行政のチェック役」。13年前に旧厚生省の大臣になった時の菅直人氏の言葉だ。長妻氏も同じ思いに違いない。
菅氏は薬害エイズ問題で役所の抵抗を押し切って情報開示を進める一方、介護保険の導入に筋道をつけた。長妻氏は菅氏の経験にも学んで官僚を賢く使いこなすことが期待される。厚労省の改革や国民に対するサービス向上という成果に向け、政治主導をしっかりと根づかせてもらいたい。
長妻氏はさっそく、後期高齢者医療制度の廃止、生活保護を受けているひとり親世帯への母子加算の復活、障害者自立支援法の廃止などを打ち出した。いずれも、民主党が総選挙で政権公約に掲げていたものだ。
これら新大臣の政策を具体化するための選択肢を考えるのが官僚の仕事あることは言うまでもない。政策や大臣の判断の前提となるデータ、試算といった情報を大臣と国民に包み隠さず開示することが不可欠である。
一方で長妻氏も、専門家としての官僚や国民の声を反映する仕組みを工夫することが求められる。
目的は、鳩山首相が就任直後の記者会見で語ったように「とことん国民のための政治」を実現することだ。
雇用や医療、年金、介護など多くの分野で国民の期待を集めているのが厚生労働行政であり、長妻氏だ。民主党が約束した「生活第一」の模範となる政治のありようを示すべき中心舞台こそ、厚労省にほかならない。
政権公約に基づく新政策づくりは決して易しくない。税や保険料の負担増が避けられないように見えるのも少なくないからだ。
利害を調整して国民的な合意をどうつくるか。大臣と官僚が本気で力を合わせねば、いい答えは出ない。
3.<天下り禁止>2法人2ポストの後任選ばず 厚労省
(2009年10月1日 毎日新聞)
厚生労働省は1日午前、所管法人で任期満了となる役員のうち、2法人2ポストの後任は選ばず、理事数を削減すると発表した。9月29日の閣議決定では、各閣僚が後任の任命の必要性を検討することも明記しており、さっそく長妻昭厚労相が役員ポストの削減に踏み切った。
4.厚労省、独自の人事評価制度
(2009年10月7日 朝日新聞)
長妻昭厚生労働省は6日、厚生労働省独自の人事評価制度を発表した。「コスト意識・ムダ排除」「制度改善」「情報開示・公開」の三つの視点で、設定した目標の達成状況を評価する。長妻氏がこだわった「アフターサービス」も評価項目として導入した。
長妻氏は総選挙前から「政権交代後、すぐできることは人事評価を変えること」と語っており、「官僚の手綱を握る」(長妻氏)狙いがある。この日の記者会見では「厚労省の役所文化を変える第一歩とできれば」と強調した。
新制度では、全職員が6ヵ月ごとに個別の業務目標を2〜5項目立てる。課長・室長級以上の管理職は組織目標、部下は役職に応じた目標を設定。例えば「活用が低調な○○交付金について改善・廃止を含めて検討」など具体的にする。
アフターサービスの項目を加えたのは、昨年4月に導入された後期高齢者医療制度が周知不足などにより国民の反発を招いたことが背景。長妻氏は「国民の苦情や要望を統計的に示し、それを公表する取り組みを進めたい」とも語った。
5.国交相、職員出席を禁止 道路建設などの「促進大会」
(2009年10月7日 朝日新聞)
前原誠司国土交通相が、地方整備局を含む全職員に対し、道路の建設促進などを目的に開かれる大会に出席しないよう指示した。鳩山内閣が公共事業の大幅な見直しを掲げる中、官僚主導の事業決定をさせないというメッセージとなる。政権交代に伴う予算編成過程の変容ぶりを象徴した動きといえそうだ。
こうした大会は例年、「期成同盟会」「総決起大会」などと題し、予算編成を前にした10、11月に開かれる。知事や市町村長、国会議員、地方整備局長ら国交省職員、自治体職員のほか、建設業者なども参加。国交省が事業の進み具合などを説明し、政・官・業一体となって予算獲得に向けて気勢を上げる。
国交省によると、大臣指示は1日付で、官房総務課から公共事業に関する全職員、全国の地方整備局総務課宛に電子メールで送られた。「公共事業の促進を図ることを目的とする大会」について、「職員が出席することにより事業促進を国が後押しするかのように受け取られるおそれがある」として、「大臣から職員(大臣、副大臣、政務官を含む)が出席を控えることとの指示が官房長にあった」との内容だ。
9日に宮崎県日南市で開かれる東九州自動車道の建設を求める「地区協議会」。事務局の日南市に2日、出席予定だった九州地方整備局(福岡市)の部長や地元の国道事務所長らが「国交相の指示」を理由に欠席を伝えてきた。協議会は県選出の民主、自民両党国会議員ら約千人が出席予定で、変更なく開催されるという。
東京都など1都8県で構成する「関東国道協会」は、11月に開く講演会について、パンフレットから関東地方整備局(さいたま市)の名前を削除する。協会事務局の問い合わせに、同整備局が「組織としてこうした催しに出席することは適当でない。名前も絶対出さないで欲しい」と答えたためという。これまでは国交省職員や大学教授らを招き、道路行政について語り合う内容だったという。
大臣指示について、宮崎県の道路担当幹部は「やりすぎではないか。大会は地元に工事の現状を正しく伝えるのが目的だ。出席自粛の指示は、情報を幅広く公開する新政権の精神にも反している」と批判している。
(今村優莉、長富由希子、須藤龍也)