官僚と闘う政治の注目情報詳細200911月)

 

1.天下り続く法人 補助金ゼロ

20091010日 朝日新聞)

 長妻厚生労働相は9日、厚労省OBが在籍する同省所管の公益法人や独立行政法人などの天下り団体に対し、10年度概算要求で補助金や委託費を2割削減するよう各局に指示したことを明らかにした。過去5代にわたり天下りが続く団体については、「ゼロベース」で見直すという。

 今年5月時点での総務省のまとめでは、5代天下りが続く厚労省所管団体は32法人。天下り団体全体には、年間7千億円程度が交付されている。長妻氏は「年金削るな、天下り削れ」をキャッチフレーズに、天下り団体への補助金削減にこだわってきた。財務省からの予算の「削減圧力」もある中で、独自の見直し基準を設定して切り込む考えだ。

 予算だけでなく、ポストの削減もすでに実施。独立行政法人「高齢・障害者雇用支援機構」など2法人について、理事ポストを一つずつ減らしている。

 

 

2.やっとメスが入る 外交官の巨額在外手当

20091014日 日刊ゲンダイ)

在勤手当が月に77万円 家賃補助が100万円

 政府は、外務省の外交官の手当を削る方針を固めた。13日、福山哲郎外務副大臣が発表したもので、来年度から「在外手当」を減額するという。

 在外手当は海外の大使館や領事館に勤務する人に支給される手当だが、これがベラボーなのだ。たとえば米国の日本大使館の場合、在外手当のうちの在勤基本手当は大使が月額77万円。等級が最も低い9号の人でも21万4500円が支給される。

 大使はこの手当だけで年に924万円を手にするわけだが、驚くのはまだ早い。このほかに住居手当や配偶者手当、子女教育手当など、もろもろの手当がつくのだ。

 それも目をむく高額。子女教育手当は現地の教育費が高額な場合、小中学生が上限14万4000円、高校生は13万5000円が支給される。月額である。住宅手当にいたっては北京やモスクワの場合、公使には100万円の家賃補助が出る。完全に貴族生活だ。

 もちろんこれは手当であり、このほかに本俸がある。大使の場合、本俸はザッと2000万円。ずっと海外勤務の外交官は手当だけで生活でき、本俸は丸々貯金通帳に残る。民間なら何をやろうと勝手だが、これらの収入は全部が国民の税金。外交官が血税をやりたい放題に食い物にしているわけだ。

 外務省事情通が言う。

「外交官は夢の職業です。海外に赴任すれば食事からプライベートまで公費でまかなえ、“海外赴任5年で豪邸が建つ”といいます。実際、40代で5000万円貯めたなんて話は外務省ではごく当たり前のこと。奇妙な手当もあります。そのひとつが配偶者手当。大使や一般の職員が妻を伴って赴任した場合、妻は夫の在勤基本手当の2割をもらえる。駐米大使の夫人なら毎月約15万円の計算。外交官でもない、単なる妻にこんなに払う必要があるのか疑問です」

 この削減方針は13日の政府与党政策会議で衆院外務委員長の鈴木宗男議員が提案したもの。ここは外務省の裏も表も知り尽くした天敵・宗男に登場願って、庶民の金銭感覚というものを外務官僚にタタキ込んでもらうしかない。

 

 

3.前原国交相「事務次官の出番はない」

20091016日 レスポンス)

事務次官の記者会見について16日、前原国交相は再度応じないことを明らかにした。

「国会でも政治家が答弁を行う。記者の皆さんとも我々が責任を持って対応していくということで、ご了解をいただきたい」。事務次官会見を要望する国土交通記者会に対して、前原氏はこう断言した。

事務次官は中央官庁の行政側のトップに立つ。政治主導を打ち出す民主党政権下で、鳩山総理は「事務次官ら官僚による記者会見の原則禁止」としたが、各省の記者クラブ加盟社、新聞労連などが再開を要望していた。

事務次官会見の廃止を強調する一方で、前原氏は馬淵澄夫副大臣による定例会見を実施するとした。また、長安豊政務官が、三役会議、政策審議室での会議などの経過を会見する。馬淵氏の会見は毎週月曜日、長安氏は毎週木曜日に定例化する。

大臣会見は、今まで通り、閣議後の毎週、火曜日と金曜日に実施されるので、国交省では週4回の定例会見が行われることになる。大臣と事務次官が会見を行っていた前政権と定例会見の回数では同じになった。

副大臣の会見については、筆頭として馬淵氏が行うが、社民党の辻元清美副大臣についても「要望があればご出席いただけるのではないか」と、前原氏は話した。

《レスポンス 中島みなみ》

 

 

4.ミスター年金・長妻厚労相の苦悩をどう解決すべきか

20091021日 DIAMOND online 山崎元のマルチスコープ)

 2010年度予算の概算要求が出て、民主党政権の心配点が幾つか見えてきた。最大の懸念は、多くの大臣が所管する組織の惰性に飲み込まれそうになっていることだ。

 政権交代に至った前回総選挙で、国民が最も期待した政策の筆頭は、どの世論調査を見ても「年金と社会保障」だった。こうした中、民主党マニフェストの「7割を一人で抱えている」と言われている「ミスター年金」こと長妻昭厚生労働大臣が「苦悩」しているようだ。

 

足を引っ張る身内の敵

 『毎日新聞』(1018日、朝刊)の記事によると、来年度予算の概算要求締切り日の1015日に平野博文官房長官から「マニフェスト(政権公約)工程表の重要3項目以外は入れないでほしい。これは内閣の方針です」と電話があったという。「重要3項目」とは、子ども手当(半額)、年金記録問題対応、雇用保険拡充を指す。これによって、「診療報酬増額」「肝炎対策」「生活保護母子加算の復活」など民主党がマニフェストで約束した項目が予算額を計上しない「事項要求」になったという。

 この記事が正しいとすると(一面トップの記事だから裏は取ってあるのだろうが)、大きな問題が二つある。

 先ず、平野官房長官の言う「内閣の方針」の決定者は誰で、どのような手続きで決まったのか。鳩山首相の了承を得ているなら組織権限上はいいが、平野官房長官が何人かの閣僚と情報交換して決めたという経緯なら些か問題だ。民間会社でいうと、「社長室長」あるいは「経営企画室長」あたり(何れにしても社長に寄り沿う「経営茶坊主」)が、社長の威を借りて、社内に権力をふるうような構図だ。平野氏は、鳩山内閣の汚れ役的な役回りを引き受ける強面なのかもしれないが、彼が「官邸強化」と「官房長官の権限強化」をはき違えているようだと、内閣は前途多難だ。

 また、この問題が鳩山首相の耳に入っているとしても、たとえばマニフェストにもあって、長妻厚労相が既に方針を明言した母子加算の復活のような項目が予算化されていないことは、政治的に不適切だ。企業で言うなら、社長が、最も重要な事業部門の意見を聞かずに、経営企画室の話だけを聞いて、来年の事業計画を決めているような状態だ。

 しかも、事項要求について、藤井財務大臣は「ほとんど実現できないだろう」と語った。かつて経験した大蔵官僚時代に覚えた「断固査定」の気分なのかも知れないが、マニフェストの重要項目が多数対象に入っていて国民の関心が高い内容について、「実現できないだろう」と言い放つ政治的なセンスと状況理解力の欠如にはあきれる

加えて、子育て応援特別手当を巡る、仙石行政刷新担当相の言動も賛成できない。

 『毎日』の記事によると、「ものすごいけんまくで」、「子育て応援特別手当は公明党が始めたものだ。切らないとだめだろっ」と長妻大臣に迫ったという。

 同手当は、35歳児に対して36千円を一回限り支給するもので12月に始まる予定で、既に自治体は準備に入っていた。大まかに言って、政策的には「子育て手当」の前倒し実施だ。

「子育て手当」に十分な必要性があって、政策として望ましいものなら、この趣旨を早期に実現する性質の政策だ。臨時国会での子育て手当の法案提出が見送られて、同手当の実施が早くても来年の6月くらいになりそうだという情勢を考えると、むしろ適切な応急措置として利用すればいい。長妻大臣の当初の判断の方が筋が通っていて正しい。

 行政刷新会議も予算削減の数字を積み上げて存在感を見せたいのかも知れないが、補正予算の執行停止に関しても、次期の予算に繰り越されることが確実な数字が混ざるなど、官僚にいいようにあしらわれている。次には、民主党の重要政策の予算も含めて「査定して切る」がポイントになるようにけしかけられて、利用されているのではないだろうか。本来は、新規に実施が必要な予算をさっさと予算化して、それによって圧迫される既存の経費に対して深く切り込むべきではないか。余計な「担当」を作ったことを、官僚に利用されつつあるのではないか。

 長妻氏は、敵対的買収で獲得した子会社に社長として送り込まれて経営を任されたような立場だが、親会社の古株役員達に意地悪をされて仕事の邪魔をされているような状態に見える。民主党として、何を実現しようとしているのかを今一度整理して徹底すべきだし、調整が必要だ。企業なら、社是や経営方針の徹底が必要だし、社長(鳩山首相)ないし、実力オーナー(小沢幹事長)が組織を引き締める必要がある。

 

忙殺にどう対抗するか

 長妻大臣が対しなければならない主な相手は、彼を「天敵」と思っているにちがいない厚労省の官僚達だ。集団的敵意のまっただ中に執務机を置く長妻氏には心から同情を禁じ得ないが、大いに苦労しているらしい様子が伝わってくる。

 『毎日』の記事によると、前任者の舛添大臣に「年金以外は分からないんです。役人がいないところで、40分以上の時間を下さい」と、頭を下げて引き継ぎを頼んだという。この記事の裏取りの相手は舛添氏本人以外に考えにくく、舛添氏もこうしたやりとりをばらすとは人が悪いが、野党の政敵である舛添氏に頭を下げなければならないほど、現実に分からないことが多いということだろう。

 就任1カ月でまだ成果を云々する段階ではないが、目下喫緊の課題である新型インフルエンザのワクチンが輸入されずに足りなくなるかもしれない状況を見ると、日本の製薬メーカーを優遇したい医系技官に丸め込まれたのではないかなどと心配は尽きない。ワクチン接種が遅れたことが大流行の原因となるような事態があれば、判断の責任を問われることになるだろう。厚労官僚の総意としては、大臣交替は歓迎なのだろうから、重要政策の判断は一回一回に罠に嵌らないようにという点からも注意が要る。

長妻大臣が、各部局が新任大臣に施すレクチャーを受動的に受けるのではなく、個別に担当者を呼び出すスタイルを採っているのはさすがだが、彼がいかに有能であっても、さらには副大臣、政務官が一致協力したとしても、目の届く範囲には限界があるだろう。

 こうした事例を考えると、専門性を持った官僚を政治家主導で使うという触れ込みのイギリス式だけでは不十分で、ポリティカル・アポインティーが可能で大胆な人事が出来るアメリカ式を取り入れないと省庁の改革は上手く行かないだろうということが実感される。

 しかし、長妻大臣の場合、現状の制約の下で何とかしなければならない。何とか実現すべきは、長妻氏を支える「味方」になるスタッフを厚労省の仕事に対して複数投入することだ。単に「ブレーン」だけでなく、「手足」や「目」になって厚労省改革を推進する腹心の部下がチームで必要だ。長妻氏の案件処理能力、注意力を補完する部下が是非必要だ。状況を「買収企業の経営掌握のようなものだ」と考えると当然だし、まして、大臣の実質的な権限は企業の社長よりもずっと小さい。不良幹部を簡単にはクビにできないし、報酬で大きな差を付けることすら出来ない。これでどうやって言うことを聞かせられるのか、というのが民間の常識だ。

 「チーム長妻」を直ちに厚労省に入れて、実質的な仕事をさせようとすると、守秘義務の問題や報酬の問題がある。一工夫しないと上手く行かないだろう。民間人を役所で使う法的手当をしようとすると「年月」単位で時間を無駄にしそうだ。

 たとえば、同僚議員に一肌脱いで貰って、テーマ別に「チーム長妻」的なスタッフを厚労省の外にシンクタンク的に抱えて貰うのはどうだろうか。情報や資料の請求は、国会議員の国政調査権を使えばいいし、大臣が命令して情報を出せばいい。厚労省の所管するテーマで一旗揚げたい議員は多数居るのではないか。

 もちろん、大臣が持ち出して外で検討できる問題は全てこのチームを使って検討する。チームは物理的に一箇所にまとめた方がいいし、場合によっては、長妻大臣、副大臣、政務官が執務できる机もその場所に設けるべきだろう。情報が外に漏れる心配のない場所で打ち合わせが出来ることは重要だ。チームの人選や運営に当たっては、情報管理に気をつけたい。長妻大臣も既にお気づきのことだと思うが、官僚やマスコミの人間を簡単に信用してはならない。そして、このチームが使うお金は、民主党が使えるお金で最もきれいな資金を充てるべきだ。

 厚生労働省に限らず、数人の政治家が肩書きをくっつけて乗り込んでいくだけで官庁の改革が十分出来るはずがない。行政の刷新には、強いリーダーシップと、十分なマンパワーが必要だ。考えてみると、当たり前のことだ。

 長妻昭厚労大臣には、何としても逆境を乗り越えて大いに成果を上げて欲しい。年金制度の抜本改革まで辿り着く前に足許を掬われないように頑張って欲しい。声を大にして応援すると、贔屓の引き倒しになってしまうことが心配だが、応援したい。

(山崎 元 経済評論家 楽天証券経済研究所客員研究員)

 

 

5.国会改革 脱・法制局長官答弁を支持する

2009116日 読売新聞社説)

 国会改革の論議が本格化してきた。旗振り役は小沢民主党幹事長だ。

 小沢氏は、「『脱官僚支配』は国会から始めなければいけない。政治家同士で議論できる国会にするため国会法の改正もしたい」と語っている。与野党でしっかり協議してもらいたい。

 小沢氏の改革案の柱の一つは、国会論戦の場から官僚を排除することである。内閣法制局長官も、その例外ではないと言う。

 国会法で法制局長官は、首相や閣僚を補佐するため、人事院総裁らとともに「政府特別補佐人」として出席が認められている。

 内閣法制局は、憲法解釈の政府統一見解を示したり、法案を現行法に照らし審査したりすることから「法の番人」とも言われる。

 しかし、内閣法制局が集団的自衛権について、「保持しているが行使できない」とする解釈などを示してきたことが、これまでの憲法論議を歪(ゆが)め、日本の国際平和協力活動に必要以上の制約を課してきたことは否定できない。

 小沢氏も、自民党幹事長時代の湾岸危機の際、「自衛隊の国連軍参加は、武力行使を伴う場合でも憲法上可能」と主張した。だが、当時の内閣法制局長官の答弁によって否定されている。

 鳩山首相は、集団的自衛権の解釈は変更しないものの、「法制局長官の考え方を金科玉条にするのはおかしい」と語った。

 平野官房長官も、過去の法制局長官の答弁には縛られず、政治主導で憲法判断をすると表明した。当然のことであり、首相や官房長官の考えを強く支持する。

 内閣法制局は、これまで憲法解釈を確定する権限があるかのような扱いを受けてきた。これは改めていかなければならない。そのためには、法制局長官の国会答弁を制限していくことが必要だ。

 ただ、過去の国会における憲法論議の責任をすべて法制局に帰するのは間違いである。

 内閣の一部局に過ぎない法制局に解釈を委ね、憲法解釈を変更するという政治決断を避けてきた歴代政権に、最終的な責任があるのは明らかだからだ。

 これからは、解釈変更を含め、政治家が、自らの見識と責任において、国会答弁にあたることが肝要になる。

 それを前提にすれば、官僚を国会審議からすべて締め出す必要はない。行政の細部にわたる施策を聴取し、行政責任を追及する場には、言うまでもなく、官僚の出席を求めるべきである。