官僚と闘う政治の注目情報詳細(201012)

 

1.脱官僚 民主の変節

2010119日 朝日新聞 一部省略)

 厚生労働相を更迭されたミスター年金・長妻昭氏(50)の名前を聞く機会がめっきり減った。官僚機構が長年放置してきた年金記録問題を暴いて「脱官僚」を訴えた長妻氏への期待が、民主党を政権の座に押し上げた原動力だった。民主党は長妻厚労相と一緒に、「脱官僚」も捨ててしまったのだろうか。(石塚広志、友野賀世、西山公隆)

 

長妻氏「仙谷氏との闘争に負けた」

 「仙谷さんに切られたというのは本当ですか」

 長妻氏は10月9日、地元の東京都渋谷区であった支持者との会合でこう尋ねられた。

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 長妻氏は「菅総理の判断です。仙谷さんとはケンカしましたが、尊敬する人です」と答えた。本心ではない。知人にはこう漏らしている。

 「仙谷さんとの政治闘争に負けてしまった」

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 菅内閣が誕生した6月。首相は組閣時に長妻氏に「官僚とぶつかるのはいいが、うまく使って欲しい」と忠告した。だが官房長官に就いた仙谷氏は、厚労省幹部から「長妻氏更迭」を直訴され、「内閣を改造する9月までの辛抱だ」となだめていた。そして9月17日、菅改造内閣の名簿に長妻氏の名はなかった。

 

政権交代の末原動力見切る

 選挙で国民の信任を直接得たマニフェストを掲げて官僚の抵抗を退け、政治主導で政策を決めていく。従わない官僚は更迭する−長妻氏の思想こそ、政権交代前夜の民主党議員の多くが胸に抱いたものだった。

 「これが国民との契約書、国民からの命令書だ」

 昨秋、厚労相に就いた長妻氏は官僚にマニフェストを常に持ち歩くことを奨励し、それに従うことを求めた。民主党が野党時代に掲げた「脱官僚」そのものだ。菅氏はかつて、民主党政権に協力できない各省庁の局長以上には辞表を書かせると言っていた。長妻氏はそれにもっとも忠実な議員だったといっていい。

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 長妻氏が最もこだわったのは天下りの規制だ。

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 官僚の不満は募った。

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 長妻氏への批判や更迭を求めるメールが仙谷氏が陣取る首相官邸に届くようになっていた。

 長妻氏は今、こう語る。

 「官僚と仲良くするには、天下りと無駄遣いに目をつぶり、『よきにはからえ』と言うしかないんですよ」

 

マニフェスト後退次々

 長妻氏と馬淵氏に共通するのは「脱官僚」を掲げ、政官業癒着の構図を追及してきたことだ。馬淵氏の入閣について民主党幹部は「長妻氏を閣外に出す以上、馬淵氏を入閣させないと目玉がなくなる」。先に「長妻更迭」が決まっていたというのだ。

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 長妻氏の代役として入閣したはずの馬淵氏も、マニフェストの目玉だった群馬県の谷ツ場ダムの建設中止を撤回。民主党が官僚主導に対抗する切り札として掲げた「マニフェスト政治」は大幅に後退している。

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 長妻氏は最近、知人にこう漏らした。「私が辞め、厚労官僚が喜んだことだけが問題じゃない。官僚と闘った大臣はクビになるという認識が広まったことが問題だ。これじゃ民主党の大臣は官僚とケンカできないよ」

 長妻氏はホームページ上で政治に取り組む姿勢をカルタ形式にまとめた「ながつまカルタ」を作成中だ。未完成だが、最初の「あ」は決まっている。

 「安易な妥協は、決裂への道」

 政権交代から1年。党内少数派になった長妻氏が民主党の変節を誰よりも実感しているかもしれない。

 

 

2.仕分け継続を確認 一括交付金の議論加速 政府・与党

20101121日 時事通信)

 菅直人首相は21日午後、閣僚と与党幹部を首相公邸に集め、政策勉強会を開いた。この中で、蓮舫行政刷新担当相は18日までの事業仕分け第3弾の結果を報告。政府・与党内には仕分け不要論も出ていたが、今後も仕分けを継続し、深化させていくことを確認した。

 出席者からは「仕分け結果が最終決定ではない」との意見も出た。このため、仕分け結果に法的強制力がないことを確認したが、2011年度予算編成で各府省が仕分けに従わずに事業を要求する場合は、納得できる説明が必要だとの認識で一致した。

 一方、首相が実現に意欲を示している国庫補助負担金の一括交付金化に関し、各閣僚が府省ごとの検討状況を説明。22日の全国都道府県知事会議での意見を踏まえ、今後の議論を加速させることで一致した。

 

 

3.風知草:原点に返れ=山田孝男

20101129日 毎日新聞)

 去年、救世主ともてはやされた民主党政権が、いまは疫病神に成り果てた。

 官房長官更迭どころか、首相交代、政権交代、政界再編の観測さえ飛び交い始めたが、釈然としない。外交・安保政策の混乱に対する批判は当然だが、首のすげ替えや連立の組み替えで解決する問題なのかという疑問をぬぐえない。

 津波のような政権批判にあらがう先週の閣僚たちの発言の中で片山善博(総務相)の言葉が印象に残った。

 「法相辞任で内閣支持率がまた下がったが」と記者に聞かれた片山は、尖閣沖事件、ビデオの公開制限と流出、政治とカネも作用したと進んで認めた上でこうつけ加えた。

 「民主党政権をつくった時の原点を忘れないようにしながら仕事をすることが大事ではないかと思います。私は途中から加わりましたけれども、民主党が掲げてきた理念とか、基本的な方向は、私も共感するところが多いものですから」(24日、閣議後の記者会見)

 民主党政権の原点は「脱・官僚主導」である。

 菅直人は96年、橋本内閣の厚相になった。するといきなり、厚生省(現厚生労働省)の官房長から秘書官をあてがわれ、就任記者会見用のあいさつ文を手渡され「これはおかしい」と思った。これが菅の「脱・官僚主導」の原点である(「大臣」=98年岩波新書)。

 大臣を取り込もうと動く官僚の習性について「税務署の一日署長だと思えば分かる」と解説したのが片山だ。

 人気タレントの一日署長は役所の振りつけ通りに動く。それが突然、台本を離れ、「今日は私の指示に従って滞納処分(強制徴収)を実施してください」などと言い出したら、まして役所の人事に手を突っ込んだりすれば、署員たちは腰を抜かしてしまうだろう(世界09年1月号片山「日本を診(み)る」)。

 

 戦後日本の軽武装・経済立国路線が行き詰まり、国全体が方向感覚を失う中、中央官庁が組織防衛と権益拡大を競い、政治にゆがみが生じた。

 ゆがみを正そうという民主党の挑戦は終わったのか。終わっていないとすれば、前進しているのか、後退しているのか。片山に聞くと、「もちろん前進しています」という。具体例として総務相は補助金の「一括交付金」化をあげた。

 一括交付金とは、自治体向けの国庫補助金のうち、国が使い道を制限しないものをいう。政府は先週、都道府県を対象に来年度予算で5000億円の一括交付金を導入すると発表した。国の干渉を減らし、地域の自立を促す政策だ。

 自治体向けの補助金は全体で21兆円(今年度)ある。5000億円は多いか少ないか、素人には判断がつきかねるが、片山はこう言っている。

 「この問題を話し合った政府部内の勉強会は質の高いものでした。国土交通省、農林水産省、厚生労働省、文部科学省などの政務三役(大臣、副大臣、政務官)の動きに手応えを感じています。官僚任せではなく政治家が決めています」

 北朝鮮の韓国砲撃でも反応が遅れた菅政権に対する批判はいよいよ厳しく、片山の自負もかすんで見える。

 政局の先行きは予断を許さないが、内政の現場で芽生えつつある新しい政治の芽を、たらいの水といっしょに流してしまうような選択だけは避けなければなるまい。(敬称略)(毎週月曜日掲載)