歴史は繰り返す

東京都文京区 岡戸 知裕

太平洋戦争に兵士として参加した人や空襲や被爆など戦争の惨禍を体験された歴史の生き証人が少なくなるにつれ歴史として感情論を抜きにして語れるときが来たのではないか。

日本において300万人の犠牲者と米軍8万、アジアにおいて1500万人という膨大な犠牲を払ったあの戦争は何であったのか、現代に生きる我々すべてが、戦争犠牲者の鎮魂という意味から、きちんとしたけじめをつける時がきている。

 

■開戦の原因はむしろドイツ

ヒトラー・ドイツの電撃作戦に惑わされて、ドイツが勝利すると盲信して対米戦に踏み切る、まことに馬鹿げた結論を出したのは、陸軍参謀本部で、対米戦においてハルノートが最後通牒といわれているが、これにはTentative(試案)と書いてあり、この部分を敢えて翻訳しなかったのは対米開戦派の東條首相と東郷外相と言われている。

第一次大戦前のプロシアのように“参謀本部があって国家なし”という体制を踏襲した帝国日本がヒトラーに操られるままに第2次世界大戦に巻き込まれていったというのが実情である。

ヒトラーの思惑は、米国の欧州参戦を牽制する目的で日本を戦略カードとして使う為、三国軍事同盟を持ちかけ、スターリンは日本が中国と戦い消耗することを望み、KGBを暗躍させ、米国は中国における米国の権益に敏感に反応した。

米国の石油禁輸を招いた仏印進駐は、英国領のシンガポール要塞攻撃のため、ヒトラーから再三の強い要請に答えるものであった。

独ソ戦が開始された昭和16年夏においてもヒトラーからシベリア出兵を要請されている。

 

国の一機関が日本全体を支配する結果国家戦略が完全に捻じ曲げられ一部の官僚にのみ都合の良い体制が国民の生命と財産を食い潰してゆくという構図は今でも続く。

 

■米国に開戦する必要はなかった

米国から石油の禁輸を受けたのが直接の原因といわれているが、現在のインドネシアの石油を確保するのに米国と戦争する必要がない。当時のインドネシアの宗主国はオランダで、ヒトラーに占領されており、宗主国不在の状態であった。日本の油送船が米国の植民地フィリピンを通過するときに攻撃されない限りにおいて米国と交戦する必要はない。米国が直接攻撃されない限り参戦しないというルーズベルトの選挙公約が存在するため、日本の油送船を攻撃することができない。

よって日本の真珠湾攻撃を最も望んだのは、ルーズベルトであった。

 

国家戦略なき国家の末路というのは哀れという他ない。

 

■先の大戦はまさに太平洋戦争であった。

太平洋においいて米国に勝利することを主眼とすべきで、中国大陸で蒋介石と不毛な戦争は米国を利するだけで、ましてやビルマやインパールまで戦線を伸ばすとはまさに戦争戦略なき戦争であった。中国大陸からの撤兵はすでに昭和15年に陸軍が決定したことであり、よってあらゆる戦争資材は太平洋における米国との戦闘に振り向けるべきであった。

日露戦争の勝因はロシアとの戦闘に100%資材を投入し、一国戦であったことにある。

一国戦となるよう同盟により英国をしてドイツとフランスを牽制させている。実に周到な準備と戦略的な発想である。このような戦略性が今次の大戦では全くなく、結果的に世界を相手に戦争をするという実に無謀な戦いとなった。

 

トップ人事が最大公約数的にまたは消去法的に決められ、まともな人材をトップにもってこれないことから明確な国家戦略を描けず迷走を繰り返す。

 

■北部仏印進駐は日中戦争の負けをうやむやにする一つのまやかしの作戦

ヒトラーの要請もあったが、日中戦争の失敗を覆い隠す意味が仏印進駐に込められている。結果米国の石油禁輸を招き昭和天皇の御懸念の通りの状態となった。

要するに自分の組織の都合だけを考えた実に短絡的な選択は結果として米国からの石油禁輸、そして対米開戦に繋がり、敗戦により参謀本部自体の消滅に至る愚行を犯した訳だ。

 

役所の無謬性は今でもりっぱに社会保険庁などで生き続ける

 

■明治の発想のままで戦った

海軍の最初の負け戦がミッドウェイなら陸軍の最初の負け戦はガダルカナルである。

白兵戦の最高権威と言われた一木大佐指揮する一木支隊は米軍の機関銃の弾幕の露となり全滅となった原因は、やはり38式歩兵銃という明治38年式旧式銃と米軍の自動小銃、機関銃という近代化された装備との戦いで、幕末に関ヶ原の火縄銃を持ち出した徳川軍と結末は同じである。

 

金科玉条の公共工事、郵政民営化逆行法案など時代遅れな行動は組織の滅亡を早めるだけである。

 

■ミッドウェイは桶狭間

ミッドウェイの戦いは、日本の歴史に例えれば今川義元と織田信長の戦いと同じ構図で装備や軍艦の数および兵員の錬度などのハード・ソフト両面で連合艦隊は世界最強の艦隊であったといえる。

それが一時にして敗れてしまった最大の原因は油断に他ならない。

例えば日本からミッドウェイに行くまでにこちらの位置が分からないように無線封鎖をしなければならないところ数度にわたって艦隊間の無線連絡を行っている。

暗号を変更しなければならないところ変更を行わなかった。古い暗号はすでに米軍にすべて解読されていた。

また最大の愚行は索敵にあり通常の二段索敵を行わず敵機動部隊の発見が遅れたことにある。これでは負けて当然と言わざるを得ない。

 

組織が大きくなりすぎて総身に知恵が回らない状況、今でいえば日本航空や日本政府の状態を指す。

 

■太平洋戦争は日露戦争と同じく辛勝できた戦争

圧倒的な米軍の物量の前に敗れた戦いの様に言われているが、実態はミッドウェイやガダルカナル、そして昭和19年のフィリピンでのレイテ沖海戦でさえ勝てる戦いを逃したことが負けにつながっている。

 

戦争戦略不在の戦いは敗戦という惨めな結果を招く。

 

■敗戦の責任

戦争を企図した参謀本部の服部卓四朗や辻正信、自滅しただけのインパール作戦を指揮した牟田口連也などの将官たちの誰ひとりとして腹を切ったものはいないというのは実に不思議と言わざるを得ない。

東條に至っては米軍が逮捕に来るということを聞いてピストル自殺をしたように、敗戦責任というものを全く感じていない。

服部や辻に関しては両名とも戦後米国のCIAから秘密資金を入手しており、開いた口が塞がらないとはこのことだ。昨日の敵は今日の友では死んだ将兵が浮かばれない。

右翼として人々を戦争に駆り立て死地に追いやった笹川良一などは戦後一転して平和主義者となりすまし日本財団を創設した訳だが、恐らくこういった人種は責任という言葉が彼らの辞書に載っていないはずだ。

つまり人に死を迫った者たちは実は臆病者たちで誰ひとりとして腹を切ったものがいないという事実を見るときに、真の勇者とは山本五十六と共に三国同盟に絶対反対を貫き、戦後一切公の場に姿を現さなかった井上海軍大将のような人物ではないかと思う。

 

最後に:

天下り先で浪費される税金は年間12兆円、これだけでも充分国の借金を返せるのでないか。