武内氏投稿文・関連資料
{資料1}
両者とも貨幣の持つ役割に強い制約をかけている。
アービング・フィッシャーの残した前世紀の妖怪、交換方程式には、貨幣とは取引需要のためだけにある、という前提が潜んでいる。貨幣には、@投機の手段として、A価値の保存、B万が一に備えての、という重要な役割は無視されている。小野善康氏「貨幣経済の動学理論」の第一章p5に小野善康氏が引用している「社会的に威力のあるシンボルとしての貨幣」「資産を保有していること自体が、保健や借金の必要をなくし、かつ高い社会的ステイタスを約束し、ひょっとしたらより性格のよい奥さんにめぐり合え、子供はより情緒的に安定して育つかもしれない。資産を保有すること事態が、このようなさまざまな消費サービス・人生のベネフィットを与える」のような貨幣の役割にはMV=PQは一切触れていない。
遮眼帯をしてゴールしか見えなくした競馬の競走馬ないざ知らず、経済の専門家として、自分の主張・理論が社会の多数の人々のウェルフェアに影響を与えるという立場をもつ以上は、「お金とは売り買いにだけ役に立つのですよ」という説明では、全く何の役にも立たない。保育所の子供たちに向かってお買い物ごっこに使うオカネの説明をしているのではあるまい。
{資料2}
経済学は、長年にわたり、予算制約の中で効用を最大にする活動をする経済人なるものの活動が経済現象の主体となることを前提におき理論を構成してきた。インフレターゲットを主張する人々は、こういうのだ。
インフレターゲット政策の採用で、将来物価は上昇することを政策当局、あるいは中央銀行が確約することにより、経済学者が描いた幻の経済人は「えっ?物価が上がる?今の一万円では将来九千円の買物しか出来なくなるのか、一万円が一万円の価値を持ついまこそ、この一万円は遣わなければならない」と決断する。退蔵されている金融資産は実物経済の舞台に登場し、貨幣は回転を始める。企業の売行きは増加する。
日銀前調査統計局長 村山昇作氏は次のように言う
70年代、物価上昇であったが貯蓄率も上昇した
年金不安を煽っている
高齢者は貯蓄第一と考え消費にブレーキをかける
マル優で貯蓄奨励した、一方で借金したときの金利払いを所得から控除できるのは住宅ローンだけだ
武内が知人に次のように聞いた。
物価が上昇する政策が実行される。今後物価は上昇していくだろう。今、一万円でかえるものは、一年後には一万一千円になっているだろう。物価が上がればお金の価値は下がる。
お金は価値が下がらないうちに使おうと思うか。それとも、将来物価が上がっても買えるように手持ちのお金は大切に保存し、貯金も増やすようにしたいと思うか。
40歳代男性高卒 地元市役所勤務
60歳代男性高卒 ギター奏者
60歳代女性大卒 元大学教授
60歳代男性大卒 元研究機関勤務
40歳代男性高卒 会社員
60歳代男性 飲食店経営
60歳代男性高卒 不動産業者
70歳代男性大卒 元市議会議員
全員が、お金は使わない、貯金する!!!!!!!!!というのだ。経済人か??
数は少ないが、ばらつきのある標本(標本といえないほど少ないが)の全員が物価上昇の予告でさらに貯金を増やすと言う。これは日銀前調査統計局長 村山昇作氏がいうように70年代の貯蓄上昇と一致する。
◆富田俊基氏 デフレは金融政策で止められない。
どの国でも物価上昇率の沈静化が始まっている 一国だけで物価はあげられない 資本 人材 製品の移動が自由である以上、一国だけで物価を上げようとすると、ヒト、モノ、カネの移動を制限しなければならない
◆
サムエルソン氏 インフレ目標は宣言するだけでは効果はない 米国が深刻なデフレになれば大掛かりな財政支出の拡大をおこなうべきだ。
{資料3}
浜田宏一氏 経済セミナー2010August/September)に「経済学と経済政策の間」
第一章に「経済学は役に立つ」というタイトルにしている。経済学者として自分の専門分野が役に立たないというのは大問題だろう。ところが氏の論文では「日本経済学会」会員の大部分が[経済学は日本経済の改善に役に立たない]と考えているそうだ。{資料4}
浜田宏一氏は(で次のように書いている。
…最近自民党の山本幸三代議士(金融緩和肯定派)が日銀総裁白川氏に質問した。山本幸三氏「ワルラス法則によって、財の35兆円の需給ギャップつまり超過供給のあるときは貨幣の超過需要があることを意味する」白川総裁「ワルラス法則は基本的に完全雇用の世界の話ですから、不完全雇用でワルラス法則を当てはめてはどうかなという感じ…」物が余っているときはお金が不足しているというのが質問で、白川総裁の回答は、ワルラス法則は予算制約式という恒等式を加え合わせたもので不均衡でも成り立つことを無視している。……ワルラス法則を日本でよく勉強していたのは実は白川総裁であったといっていい。…
…今から30年以上も前、国際収支の貨幣的接近という手法を紹介した……総裁と私の共通の師である小宮隆太郎教授にわれわれ(浜田宏一と白川総裁)が習った。
このほか、小宮教授は資本移動自由で変動制の国では財政政策の効果は減殺され、金融政策の効果が増強されるというマンデル・フレミング効果についてわかりやすく解説された。
ところで30年前でなく最近の小宮教授はどんな主張をしているか、
討論 日本銀行の金融政策をどう評価するか {金融政策論議の争点に収録}より
小宮隆太郎氏 批判派 マクロ経済学で物事を考えている人はIS=LMモデルとか、マンデル・フレミングモデルで通貨供給量Mは政策変数だから、Mは外生的に政策で決めればいいと単純に考えているように感じる。実際はそれほど簡単ではない。なぜならマネーサプライは民間銀行のノンバンクに対する負債であって、それは民間の取引で決まるものなので、それがどういう仕組みで決まるかを理論的に考えなければいけない。
新保生二氏 肯定派 90年代後半に資産価格潰しをやったのは間違いだ、とのアメリカの見方を引用している。また、新保氏は、小宮教授と白川氏(現日銀総裁)の二人が70年代には貨幣の持つ重要性を強く認識していたが、現在(2002年)は重要ではないとの議論になっている。
実体経済が変わったからだと理解する。
武内注 白川日銀総裁の今回の主張に対して「昔の白川総裁は云々」とぼやきをいれている。
さて、浜田宏一氏は小宮教授の現在のマンデル・フレミング理論に対する考えも知る必要があったのではないか。
上記に記してあるが、小宮教授は、金融政策を論じるとき、もっぱらマクロ経済学で物事を考えている人はIS=LMモデルやマンデル・フレミングモデルで通貨供給量Mは政策変数だから、Mは外生的に政策で決めればいいと単純に考えていてはいけないと主張している。推測だが浜田宏一氏が小宮教授からわかり易く説明してもらったのは教科書の解説ではなかったか。物価は貨幣的現象であり、インフレと同様にデフレも日銀が止(と)めることが出来るという。
これに対する小宮教授の意見を参照されたい。
{インフレと同様にデフレも日銀が止(と)めることが出来る} に対する小宮教授の意見
小宮教授
マネーサプライというときのマネーと一般のマネーを区別しなければならない。一つは日銀当座預金と日銀券をあわせたマネー、つまりマネタリーベースとしてのマネーで、これは日銀がある程度操作することが出来る。もう一つはマネーサプライで、日本では通常M2+CDを指す。これは民間銀行にとっては負債、家計や企業には資産だ。民間同士の取引の結果がM2+CDである。民間の経済主体がその気にならなければ、マネーサプライは増えない。
日銀当座預金にカネが余っていても民間の主体が使おうとしないのだ。だから日銀がマネタリーベースを増やしてもマネーサプライは増えない。
物価は貨幣的現象だが今はその貨幣を増やすことが出来ない。新しい経験であり、これを無視して貨幣的現象といっても意味はない
武内注
新保生二氏が白川総裁と小宮教授の貨幣への重要度の認識の変化を実体経済が変わったからだと理解する、との発言を再度思い出していただきたい。しかし、浜田宏一氏は昔の歌を歌い続けている。
小宮教授
マネーを増やすために日銀は、長期国債を買うべきだという意見がある。塩川財務大臣が日銀に長期国債購入額を月間2000億円増額することを要請した、とある記事を見て、衆愚的金融政策ここに極まったと思った。財務大臣は、そんなことは日銀に頼まなくても自分でやればいいではないか。長期国債の発行を減らして、その分、短期国債を出せば同じ効果があるのだ。財務省は自分のところでやる国債管理政策の経済効果は考えもしないで、財務大臣をして日銀総裁に長期国債を買ってくれと頼むのは衆愚的金融政策論議の結果である。
武内注
小宮先生。仰るとおりです。ただ、財務省の人間は、法学部卒だということをぜひ念頭においてください。法学部卒が経済の専門家ぶっているのが経済危機の原因では?
;連合艦隊司令長官に、塹壕掘って白兵戦を指揮する陸軍将校がなったらどんなもんでしょうか。
{資料4}
小宮教授
経済理論が実際の政策にどれだけ役に立つかというと全体の四分の一くらいに過ぎない。四分の一ですべてができると間違ってしまう。さまざまな条件を総合的に考えないと政策は出来ない。一部の学者が主張しているのは政談と同じだ。
武内特注
なんと小宮先生、浜田宏一氏は経済セミナーへの記事の第一章に「経済学は役に立つ」とつけています。四分の一しか役に立たないということへの反論としか思えません、思いすぎかな?
{資料5}
榊原英資氏 「構造デフレの世紀」より
…多くの経済学者達や論壇エコノミスト達は理論的にはデフレは政策によって逆転可能であると強く主張している。しかも、この傾向は日本より欧米で強い。欧米では、経済学者ばかりか「フィナンシャルタイムズ」紙、「エコノミスト」誌などメディアの多くはデフレは政策の失敗であり、現に(2002年ごろ)イギリスやアメリカではデフレになっていないではないかと論陣を張っている。…
さて、この榊原氏の欧米の日本への見方を前提に経済セミナー2010August/September)に「経済学と経済政策の間」にある記述を見ていただきたい。
…自分のならった教授は貨幣経済には「誤った二分法」と「正しい二分法」がある。白川総裁などは「誤った二分法」に陥っている…
…「誤った二分法」しか考えられない人は金融政策ではデフレはなおらないという世界中のほとんどの経済学者が卒倒するような結論が出す…
ウ〜ム 浜田氏のいう「正しい二分法」は、対立する考えの人からみたら「誤った二分法」になっているのかもねぇ。
ここで、日高氏のいう日本でのインフレターゲット論争は純粋な政策論争というよりは政策当局間の駆け引き、あるいは個人攻撃の道具として使われている観があり、ある種のいかがわしさがあるようだ。日高氏はさらに、日銀にインフレターゲットを求める本音の部分は自分たちの役所の責任回避のためのようにも見えるが気になる。
インフレターゲットとはそもそも何を意味するか、その目的は何か、この両者について説明する。
日本経済はバブル崩壊以後、多くの問題を抱えた。不良債権の問題がバブル以後大きく取り上げられた。景気回復、財政赤字と国債増加が後に続いて解決が必要だという声が起きた。
不良債権については、デフレの進行が不良債権の総額を増加させるために、金融機関にとっては死活問題であった。2001年前後、1%のマイナスで不良債権は5兆6千億円増加すると見積もられていた。不況も銀行のバランスシートの痛みがそもそもの原因であり景気回復は不良債権の解消にある、という主張が強かった。景気回復は税収も増加させるので、要するにデフレ解消を、というのが当時の政策担当者の一致した意見であった。
そして1998年、あのクルーグマン教授の、日本にインフレターゲット政策の採用を勧める論文が発表された。
榊原英資氏は日本の経済学界の現状について、主流派経済学に対しては経済学者ばかりでなくジャーナリストたちも基本的に弱いという。クルーグマンのような世界的重鎮のいうことなら、と信じてしまう、と。実務家たちや実務に近いエコノミストの言うことはアカデミックな基礎的知識もしらないままに批判しているということで事象の本質を見ていないとして無視し、世界的重鎮ならば検証しないままに信奉してしまう。…
これも榊原英資氏の考えだ。
そこでクルーグマンのインフレターゲットについて簡単にまとめてみよう。
インフレターゲットとは、今後のインフレ率の目標を設定し、公表し、これを中央銀行が守ることとして金融政策を行うことである。
注 ここで中央銀行が守ることとする、ということから期待インフレ率が達成できないときは中央銀行に罰則を課す、とくに総裁罷免も前提とするという錯覚が報じられたとのこと。しかし、罰則はなく、罷免も、罷免し得る、という国が一つだけあったが実際に罷免されたことはなく、特に目標が達成されない場合には為替レートの変動、貿易相手国の経済の変動による場合には心理的な意味も持つインフレターゲットの目標など自国の金融政策だけで達成されるものではない。
この政策は、インフレを終息させ物価の上昇を抑えることを目標として実施されてきた。
クルーグマンの提案はインフレを終息させるのではなく、インフレを起こさせるものだった。逆方向のものである。
インフレターゲットの考えの下敷きにはアービング・フィッシャーの方程式という
実質利子率=名目利子率−人々の予想する物価上昇率 がある。
名目利子率がゼロ状態で、今後の物価は下落するときは物価上昇率はマイナスとなる。式に代入すると、
名目利子率−(マイナス上昇率)となり右辺の実質利子率はプラスの値になる。
実質利子率を下げるには、予想する上昇率がプラスにすればいい。「人々の予想する上昇率」を「期待インフレ率」としよう。
期待インフレ率を上げれば実質利子率は下がる。これは金融資産が下がるということである。
手持ちの金融資産が下がると予想したら、その資産は別の資産、つまり財、サービスに向かう。
これで貨幣は流通を始める。こうして景気は回復する、という。
クルーグマンは15年間、日銀は年4%の物価上昇を目標とせよと提案した。
15年間、4%という数値は、次のデータによる。
@
ほんの当時のデフレギャップは20〜25兆円である
A
長期金利を0.75%さげたら実質GDPは1%上がる
として、ギャップを埋めるためには
必要な実質金利低下幅=GDPギャップ×GDPを1%上昇させるための実質金利低下幅
で求めて4%弱となる。 「みんなの党」は、この四パーセントという数値を選挙公報に載せたのだろう。
ここで榊原英資氏の言に戻ろう。 クルーグマンのような世界的重鎮のいうことなら、と信じてしまう、と。クルーグマンの数値はアメリカ計量経済モデルによるものだ。長期金利を0.75%さげたら実質GDPは1%上がる。
日本の現状に照らして妥当な数値なのか。
さらにさらに、期待インフレ率とは何かだ。予想する物価上昇率だと??????
付録 榊原英資氏 「構造デフレの世紀」という著書から引用した。さて同書は2003年出版されたものだが2003年経済書ワーストワン候補とした経済学者がいる。
その人は、早稲田大学政治経済学教授 助教授かも?
若田部正澄氏 その書評の最初の部分
…榊原英資氏は謎に満ちた人物である。ミシガン大学で経済学博士号を得ている。…にもかかわらず同書でデフレはグローバル化によるもので構造的である。構造的であるからデフレの克服は不可能だ……どうしてこんなことを書くのか…2003年経済書ワーストワン最有力候補だ。で締めくくっている。