武内氏の「インフレターゲット政策に反対する」に対するコメント
東京都文京区 松井 孝司
本年の総会における会員の意見交換で武内氏から「インフレターゲット政策に反対する」(会誌180号掲載)の見解が表明され、私からはデフレ不況を理解するために山本幸三著「日銀につぶされた日本経済」(ファーストプレス社刊)を紹介させていただきました。
山本氏(自民党国会議員)と日銀総裁は何度も国会で論戦を行い、その内容は上記著書に引用されています。
8月8日開催の「21世紀のライフスタイルを考える会」例会では上記の著書に加えて浜田宏一他著「伝説の教授に学べ!」(東洋経済新報社刊)を紹介させていただきました。
いずれの著書もデフレ不況を解消するためにインフレターゲットを是認しています。
白川日銀総裁は浜田宏一イエール大学教授の東大時代の教え子で、「日本経済が長期にわたりデフレ不況から抜け出せない原因は日本銀行の間違った金融政策にある」と指摘され、白川総裁に対して警告と助言を与える公開書簡を執筆し、その書簡全文が同書に収録されています。
過去20年間、世界の先進国の中で日本だけがデフレ不況をつづけるのは円高を阻止できなかった政府・日銀の政策に原因があることは間違いありません。見方を変えれば外交の失敗であり、日本が円安で達成した高度成長の成果を通貨戦争で失いつつあるのです。
「ミスター円」と呼ばれた榊原英資氏は通貨戦争の担当者でした。榊原英資著「構造デフレの世紀」を2003年度経済書のワーストワンと評価した若田部昌澄早稲田大学教授は「日銀デフレ大不況」(講談社刊)を執筆し「失格エリートたちが支配する日本の悲劇」としています。一方中国は日本の失敗に学び「元」を「ドル」とペッグして「ドル安=元安」となる巧妙な外交を展開しています。
デフレ不況は円高の結果であると同時に円高の原因にもなり、デフレ経済を放置すれば円の相対価値を上昇させるので、更に円高が進み産業の空洞化を促進して国内の雇用と税収を減らします。
日銀が拒否するインフレターゲット政策は間違っていても試みる価値は十分にあります。
何故なら、日本は米国以外の多くの国(20カ国以上)が採用しているインフレターゲット政策をいまだ試したことが無いからです。1〜3%のインフレターゲットの導入は「緩やかなインフレ=円安誘導」で為替介入せずにデフレ不況を克服するための手段です。
当然のことながら、過去の失敗に学び資産バブルが発生しないよう通貨を用いた投機的取引には厳しい規制を加えるべきです。グルーグマンもハーバード・ビジネス・レビューの質問に答えて今回の金融危機により面目躍如となるのは社会主義ではなく「規制された資本主義」であると述べています。
銀行を規制するために1933年に制定されたグラス・スティーガル法が有効であった半世紀以上の間、金融危機は無かった歴史に学ぶ必要があります。