不況と高速道路無料化
東京都文京区 岡戸 知裕
高速道路無料化論が出てきた背景には不況の存在が上げられる。
不況の中では、人、物、金、の移動が減少し、相互に連関して悪循環に陥り、恐慌に至る可能性に直面する。
小泉政権時代には円安により輸出関連企業は潤い経済全体も1%成長が可能になった。
古典的な外需依存型景気回復パターンであった。
但し実態経済としてその恩恵が隅々まで波及するという状況にはなかった。
景気を良くする方法はやはり首都圏がGDPの50%を占めていることから、この首都圏の景気をまず上向かせ、次に集まった富をいかに地方に分散するかという方法を考えれば、小泉政権時代のように一部の輸出企業だけが潤うということもない。首都圏に中京圏、関西圏の2大都市圏を含めればGDPの80%程度になろうか。
不況の中で偏在した富を分散することにより景気回復の起爆剤となりえるはずだ。
結論から言えば国内観光がキーワードになる。観光産業は世界最大の産業とも呼ばれている。
今の状況は人や金や物が流れない不活性な状況に陥っているからであり、富の分散をうまく機能させれば景気回復の起爆剤となりえる。
方策は以下の通り:
a.地方交付税ではなく、無料化による観光振興で3大都市圏の富を地方に移転させることを考えるべき。例えば別荘も所得の地方移転に効果がある。
内需拡大が叫ばれて久しいが、まさに無料化は内需拡大の起爆剤となりえる。
また無料化の実験データからも20%通行量が増え観光地が潤っているという明らかな結果がでている。
b.首都圏の整備状況が悪い。
東名、中央、東北など主要幹線がすべて首都高に結びついているというところに致命的な欠陥がある。首都高という2車線のみの道路がすべての主要幹線を繋ぐ連絡通路になっている。また主要幹線道路でも東名が3車線とは実にお寒い状況と言わざるを得ない。
これではどこでも慢性的に渋滞になるのはあたりまえである。
首都高利用車両の60%は東京を通過する車両で、通過車両を都心にいれるという発想がそもそも絶望的だ。
よって外郭環状線と圏央道を早期に完成させ都心の渋滞を解消させる必要があるが、事業仕訳の結果予算が環状線1本しかついていない。これも道路というものに対する認識がないと言わざるを得ない。
c.世界一高い通行料
経済が右肩上がりの時代に設定された料金で、今そんな負担力は法人にも個人にもない。
高い通行料は著しく観光産業を直撃する。ゴルフ場の例をとれば、通行料がゴルフのプレー料金と同じレベルになってしまえば需要そのものを殺すことになる。
d.首都高は無料にしないという経済オンチな発想
混むから有料を続けるという発想だと思うが、これは道路というものを基本的に理解していない証拠だ。まず混むという原因はb.に書いた通りで、通過車両を環状道路に流していないからで、無料化して首都高に乗らずに一般道を走っている車を乗せれば、一般道が空いてくるはずだ。高速道路の機能はバイパスなのであり、都心から各高速道路に向かうときに一般道路を使うと混むので首都高を使わせるというのが本来の役目なのだ。
首都高が混むので無料化しないという発想は一般道との関連を無視した発想で、首都高が混むということは一般道が空くということだ。一般道が混んで首都高が空いているという状況は本来あってはならないのだ。
パリの場合さすがに中心街には高速道路はないが、環状道路は大きいところで片側8車線ありかなり混雑している状況だ、これを東京のように700円徴収したらどうなるかと言えば経済学の教科書通りのことが起きるだろう。
皆使わなくなる訳でパリ市内が大混雑になり、結果として何のために環状道路を作ったのかという素朴な疑問にたどりつく。
首都高の本来の役割は都心を走る一般道の混雑緩和にある。
よって首都高こそ無料化すべきなのだ。
フランスの高速道路はすべて有料ではないことを一言付け加える。
e.本末転倒な反対意見が多い
フェリー業者や新幹線に影響がでるという反対理由があるが、フェリー業者が栄えて景気が回復するかということだ、新幹線は値下げも考慮しているようで、良い意味で鉄道と道路は競合関係にあり競争により国民負担が下がることは良いことだ。
通行量は現在実験を行っている地域で交通量が20%前後増えたようだ。これにより大気汚染問題が取りざたされているが、不況脱出ということのほうがまず優先される。
大気汚染問題は規制がキーでこれは東京都知事の石原氏が答えを持っている。
鉄道を使えというノスタルジー派もいるが、自動車、鉄道、飛行機はある意味良い競合関係にあり競争によりコストを削減し消費者へ還元すべきだ。
f.世界の常識
世界の常識としてガソリン、軽油にかかる税金の半分は一般道に、残りの半分は高速道路の建設にというのが世界の常識である。
日本ではガソリン税、揮発油税は全額一般道路建設に使われ、高速道路の建設と維持は通行料で賄われることになっている。
道路建設というものがゼネコンと国土交通省の金城湯地の世界であることは誰の目にも明らかで政治家へのキックバックの温床になっている。
高速道路の修繕費用は年間3000億円であるが、これも競争入札にすれば1000億円で充分補修できるはずである。道路公団の存在は談合を仕切るために存在しているようなものであり、無料化すれば公団の存在すらいらなくなり、日本の借金が900兆円を超えた現在道路公団一つくらい潰す覚悟がないと財政再建などできようはずがない。
結論を言えば道路建設を半分にすれば、ガソリン税と揮発油税の半分それに暫定税率の合計で無料化はほぼ可能である。
ガソリン税や揮発油税は特別会計に入っており、自動的に道路建設に回ってしまうので、法律を変えて、半分は高速道路の償還費用にあてれば、ほぼ無料化することが可能だ。
但し一気に行えば道路を作ることだけが目的の事業に携わっていた建設会社が苦境に陥るのが目に見えているので、段階的に行う必要がある。21世紀は土建の時代ではない。
g.高すぎる自動車諸税
年金暮らしをしていても自動車ぐらいは持てるようでなければならない。
そして大いに金を使ってもらうことを考えたらどうか。
ところが実態は自動車取得税、重量税から始まりガソリン税、さらに車検費用や通行料など自動車ユーザーに重い負担を掛けている。
これでは日本の飯の種である自動車産業を国内で自ら廃業に追い込むような仕打ちしているのと同じである。これでは景気が回復するはずがない。
今の日本は国家が税金という形で徴収し、徴収した税金の使途が利権化しているために税の有効な使い方ができない状況にある。つまり無駄な使い方をしているということだ。
h.混雑緩和には長期休暇取得を徹底すること
お盆の帰省ラッシュが毎年ニュースとなっているが、宗教上の理由で帰省するというより休暇が主目的なのでや休暇時期を分散すれば混雑は改善されるはずである。
もっと日本人自身休暇を取って家族と一緒に過ごす時間を増やすことができれば、ようやく一流国の仲間入りを果たせる訳だ。私のフランスの友人は昨年同様5週間の休暇を取って帰国してしまったが、5週間とはいかないまでも2−3週間の連続休暇を法律で義務づけたら内需拡大に資すること大である。例えば日本も海洋国家なのでニュージーランドのように殆どすべての家庭がボートを所有するようになれば新たな産業も生まれようし、別荘所有が増えれば不動産市場も活況を呈するようになるだろう。
内需拡大とは働き上手から遊び上手へ転換することである。21世紀に相応しい新たな認識を政府と国民が持つ必要がある。
最後に:
太平洋戦争の導火線となった日中戦争は、戦争をすることが目的化してしまった為に戦線がどんどん拡大し、米国から石油禁輸を受けて太平洋戦争にのめり込んだ訳だが、今の日本も道路を作るということが目的化してしまい、特別会計の中にあることを良いことに国の借金が900兆円を超えても何ら減額されることなく遮二無二突き進もうとしている。
正に道路建設栄えて国滅ぶである。
仕組みとしてガソリン税、揮発油税、暫定税率など道路建設にかかわる税金が特別会計にあるため、自動的に道路建設が行われ続ける訳であるが、世界の常識の通りガソリン税と揮発油税の半分を一般道路建設に残り半分を高速道路の償還費用に充てれば、実質ほぼ無料化を達成できる。
現在金融政策が全く効かない状況にあるなかで需要創出効果の高い無料化が地方交付金のような役割を果たして地方の活性化に寄与することは明らかである。