インフレターゲット政策に反対する 政策判断の御参考に
世田谷区 武内 雨村
山路に分かつ巷の数多く悪趣の険路……世阿弥 ( 注 「巷」は「町」でなく「道」)
金融緩和を声高に叫ぶ本音はデフレの克服ではなくインフレの昂進である
この政策の目的は、景気回復か デフレ脱出か いやいやインフレによる投機の清算なのだ。
投機の清算によって救われるのは我々の「家計」ではない。インフレにより損失を蒙るのは「標準的家計」である一般の国民である。名目賃金の上昇は物価上昇よりも一、二年遅れる。値上げ値上げの苦しい時代の再来をお断りしよう。
今は、物価は安定している。下落ではない。雑誌「世界」2010年11月号「デフレは起きていない」東大・大瀧雅之教授の論文を御覧頂きたい。一部分は以下に「大瀧・世界」として引用してある。
◆ なぜこのテーマにこだわるか
「政権交代」が結実するまで現在の政権が存続することを望むためである。
民主党が政権維持のために弱小政党の主張するデフレ対策としてインフレターゲット、金融緩和を鵜呑みにしないことを望む。民主党の当選者の減少を防ぐ必要がある。弱小政党の政策を判断するに当っては御注意いただきたい。
最近行れた
長期自民党支配から、生活者主権の会が念願としてきた政権交代が実現した。しかしその政権は形ばかりで実体が伴わない。その上、参議院での過半数割れにより、正体不明の少数政党に首根っこを押さえられかけている。「協力してもらいたければ自分たちの政策を呑むか」と恫喝する政党。日銀法改正を提案した。幸いにも会期切れでオクラとなった。その政党の日銀法改正の目的は、インフレターゲット政策の導入にある。いろいろとキレイな言葉で飾っているが、土地バブルの再来でデフレから脱するといシナリオだ。しかも、この政党は資産=土地デフレ解消をさけぶのだが、土地バブルへの反省は一切していない。都留重人氏「1955〜91年までの36年間に卸売物価は二倍だが土地は平均で170倍に暴騰している。80年代前半を基点として3〜4倍という指摘は間違いではないが短期的で、36年間で170倍になった事実の方が重要だ」
土地下落というが土地暴騰の結果を、この政党はなんと考えているのか。この政党が行政改革を声高に唱えているが、景気回復・赤字国債解消の経済政策にはご用心のほど、お願いしたい。
◆「デフレは起きていない」だと? お待ちください。デフレとは何か、を考えるのが先決だ。
語源を尋ねても役に立たない。現状では、日常会話として我々も、経済学者も、デフレは「物価下落」と「景気停滞」の二つの場合に、あるいは重ね合わせて三通りの意味に使っている。特に意図的か、無知によるか、はわからないが「物価下落」と「景気停滞」をたくみにスリカエて危機感をあおるのがインフレターゲット論者だ。(「大瀧・世界」p42下段参照 )
◆「大瀧・世界」はデフレスパイラル論の虚偽に陥らないように警告している。( 以下「大瀧・世界」の引用)
デフレスパイラル論とは
@
物が売れないから価格を安くする、したがって名目賃金も下げなければならない
A
名目賃金が下がれば経済全体の購買力が低下するのでますます売れなくなる
B
金融緩和しないと@→A→、@→A→、@→A→…と続き、深刻なデフレ不況となる
この論法、勝間和代がテレビでやっていた。
デフレスパイラルの対策として、『浜田・若田部・勝間 「伝説の教授に学べ」』ではデフレ不況の原因は金融緩和が不十分だ 金融緩和すれば景気は好転する その証拠としてインフレーションが起きる、と繰り返している。物価は下落しているのか。
消費者物価全体の動きを示す総合指数は2005年を100とし
06年
100.3 07年
100.3 08年
101.7 09年
100.3 10年
99.5 (10年は6月まで)
のように物価は安定している。
これに反し、昭和恐慌の1929年以来は 1929年を100として
30年 89.8 31年 79.5 32年 80.4 33年 82.9 34年 84.0 35年 86.1
最初の二年間で20%もの下落である。これと現在の「デフレ・不況」は一緒にするのは無理がある。金融緩和を声高に叫ぶ本音はデフレの克服ではなくインフレの昂進である。
◆なんと、物価は安定している。「デフレではない」それでも納得できない人もいる。物価とは何か。再び「大瀧・世界」から…
ある種の財の価格だけが変化していれば、「貨幣的現象」ではなく、技術進歩を含む経済発展による構造的な要因による「実物的現象」と考えなければならない。
「デフレは貨幣的現象である」と繰り返している経済学者がいるが、これは経済学の公理ではない
数ある経済学の流派の一つ、マネタリズムという世界での約束事に過ぎない。
デフレスパイラルへ向けて、すべての物価が下落しているのか?????
消費者物価水準を三つに分類したデータを次に挙げる。2005年を100とし(10年は6月まで)とする
耐久消費財 06年 94.4 07年 90.2 08年 86.9 09年 82.9 10年 98.8 (10年は6月まで)
半耐久消費財
06年 100.5
07年 100.9 08年
101.5 09年 100.9 10年 98.8 (10年は6月まで)
非耐久消費財
06年 101.6
07年 102.1 08年
105.8 09年 103.0 10年 104.8 (10年は6月まで)
消費者物価水準の約8%を占める耐久消費財のみが著しく下落している。これに対して非耐久消費財は1%程度の上昇となっている。これに公共料金を加えたのが上記の消費者物価全体の動きを示す総合指数である。消費者物価水準がこの6年間安定しているのは、非耐久消費財が比較的安定しているからである。下落の主役は国際競争と技術革新による耐久消費財産業である。コーヒー150円でスタートしたドトールもベローチェも今は180円だ。100円パン、消費税で105円がこっそりと110円にしているコンビニがある。
??????デフレとは物価があがることなのか??????
◆ 金融緩和せよ、という人に問いたい
金融緩和したらマネーサプライが上昇するのか 当ったり前だという人は以下をごらん頂きたい。
現在の学会では「貨幣的現象」という言葉からマネーサプライの変化を重要視していないものと取られている、とのことである。1970年代の高インフレ期にはマネーサプライの伸び率も高かったが、実質金利も低かった。とすると金融緩和や引き締めの程度は、マネーサプライの増減によるものか、金利の高低によるものかの判断はできない。さらに1980年代以後の金融工学による各種のデリバティブの開発、この理論を実施する技術革新によりマネーに対する劇的な需要の増加、さらにマネーそのものとは何か、という統計上の問題、たとえば
MMMF レポ 大口預金 非銀行部門の中央銀行当座預金
日本 非計上 非計上 計上 非計上
米国 M2に計上 非計上 非計上 非計上
ユーロ M3に計上 M3に計上 計上 計上
のように各国での統一はない。金融政策実務上、何をもって貨幣とするか、について確たる基準がない。
貨幣とは何か。高校社会科のレポートではない。会計処理の現場で金融派生商品も貨幣であるとの認識が強まっているが、上記に示したように各国での取扱いは統一されていない。「貨幣」とは数学の集合論でいう要素の
確定した集合ではない。
フリードマンは亡くなる数年前に かつて述べたインフレもデフレも貨幣的現象だということを前提にして
The
use of money as a target has not been a success. I am not sure I would as of
today push it hard as I once did.のように、自分が、かつて主張したことに現在は確信がもてない、とFinancial Times紙に述べたとのことである。「現代の金融政策」p273参照
「伝説の教授に学べ」「日銀デフレ大不況」をお読みの方は以下を同時にお読みいただいた上で御判断頂きたい。
★「金融政策論議の争点」小宮隆太郎+日本経済研究センター
★「現代の金融政策」白川方明著
★「構造デフレの世紀」 「間違いだらけの経済政策」 榊原英資著
★「日本はデフレではない」小菅伸彦2003年発行
★★特に雑誌「世界」2010年11月号「デフレは起きていない」東大・大瀧雅之教授は要点をまとめている。
結論 構造デフレを認めて、その対策となる政策を。