道州制と参議院のあり方
東京都渋谷区 岡部 俊雄
参議院のあり方が議論されて久しい。
政権交代が実現し、今後衆議院と参議院の議席数がいわゆるネジレ現象を起こす可能性が高くなるであろう中で、国政の停滞を招きかねない参議院のあり方が、ますます大きな問題として浮かび上がってきている。
参議院のあり方が問題視される理由は次のようなものであろう。
@
衆議院と機能が変わらない。
A
参議院議員は6年間身分保障されるという大きな権力を保持しているにも関わらず、衆議院の解散のような、その権力を抑制する仕組みがない。
B
解散の影響を受けない参議院議員が、事実上解散権を持つ総理大臣になることに対して何の制約もない。(総理大臣が解散権を発動すれば、衆議院議員は全員タダの人になってしまうが、参議院議員であるその総理本人は参議院議員の身分が保証されている。)
C
どの政党が政権を取ったとしても、今後いわゆるネジレ現象が起こる可能性が高く、政策遂行に行き詰まりを起こし、国政が停滞するおそれがある。
D
参議院議員の国政担当者としてのレベルが概して低い。
等々であろう。
簡単に言えば、明文化されてはいないが、憲法が参議院に期待している機能について、参議院議員はそれを読み取ろうとせず、また、皆で考えようとするレベルにも達していない。それにもかかわらず、衆議院並み、あるいは、状況によってはそれ以上の権力を持っているということである。
ではどうすればよいのであろうか。
唯一手がかりになるものは、憲法の前文である。そこには「主権在民」が書かれている。前文の言葉を借りれば「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」という言葉である。この言葉は勿論憲法があって国民があるのではなく、国民があって憲法がある、ということである。
ということは、憲法を変えることも、憲法で明文化されていないこと、または、憲法に抵触していないと解釈されるものは、国民の多数の意見で、はっきり決めればよいということになる。多くの法律はこの考え方で作られているように思われる。
それならば、参議院のあり方も憲法を改正することなく、国会法で明文化すればよいということになる。衆議院で参議院のあり方を提案するわけにもいかないので、まさに参議院議員の良識が決定的に求められることになる。
さて、国会法だが、そこには参議院は衆議院とは違う機能を持っていることを認識させる条文がある。それは、第5章の2(参議院の調査会)である。その第54条の2(調査会)には「参議院は、国政の基本的事項に関し、長期的かつ総合的な調査を行うため、調査会を設けることができる。」(アンダーラインは著者)とある。
これは明らかに衆議院と参議院とは機能が違うことを意識した表現である。憲法と国会法とは昭和22年5月3日の同日に施行されており、国会法は憲法の「第4章国会」を補完したものとも解釈できる。
では、国会法で参議院のあり方をどのように定めればよいだろうか。
現国会法にもはっきり書かれているように、参議院は長期的かつ総合的な法案を長期的かつ総合的な視点で審議することに限定すべきであろう。
このことは、よく言われていることであるが、もう一つ私が強く提案したいことがある。それは次のように衆議院とは機能を全く変えてしまおうということである。
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参議院は地方のことを考える代表者の集団とする。(自分の地方への利益誘導ではない。)
A
参議院では衆議院から回ってきた法案が憲法でいうところの地方自治の本旨に沿うものであるか、また、地方にとって公平なものであるか、という視点で審議する。
B
衆議院から回ってきた法案が審議の結果、地方には無関係であるとされたものは、衆議院の議決を尊重し、A項に悖るものであると判断されれば、衆議院に差し戻す。A項に合致していると判断されれば参議院でも可決する。
ということである。
次に参議院の選挙区である。
ここで登場するのが「一票の格差」問題と将来の「道州制」問題である。2010年7月の参院選で最大5倍の「一票の格差」に対する違憲判決を受け、西岡参院議長は2010年12月22日都道府県単位の選挙区を廃止し、非拘束名簿方式の比例区を全国9ブロックに分けて全議員を選出する制度を導入して、格差を1.2倍以内に抑える抜本的改革案を参院各会派に提示した。区割りの詳細については議論もあろうが、大きな流れとしては大賛成である。
一方で、「道州制」問題である。この問題は首都圏ではあまり議論されておらず、意識も低いが、地方では活発な議論が澎湃として湧き起こっている。
この道州制の議論で必ず問題になるのが区割りである。
私の提案は参院選の区割りと道州制の区割りとをリンクさせてはどうかということである。全く同じでもいいし、選挙区を分割したものにしても、或いは統合したものにしてもいい。そして、参議院議員は道州のことを考える代表者であり、衆議院から回ってきた法案を、地方自治の本旨に沿っているか、不公平ではないかという視点で審議する。そういうことを国会法で定めるのである。
道州制より先に新しい参議院の選挙区が発足することになれば、その選挙区を暫定的に将来の道州とみなせばよい。
こうすることによって、衆議院と参議院の機能が分かれ、よほどの問題がなければ、衆議院も四年間じっくりと腰を据えて政策を実行でき、また、衆議院の国家の立法機関としての主体性が維持でき、健全な国家の運営が可能になる。同時に、参議院は道州または地方に視点を置き、強い地方主権の国家の運営を可能とする、主体性を持った健全な機関になるだろう。
ちなみに、国会法の改正(私案)を下記に示しておく。これだけの改正で十分である。
記
国会法改正(私案)
第5章の3 参議院の原則 を追加
第54条の5(参議院の原則) を追加
参議院は法案が憲法第92条の地方自治の基本原則にかかわりを持っていると判断される場合、地方自治の本旨、並びに、公平性に基づき、その法案を審議する。
A法案が、地方自治の基本原則にかかわりを持っていないと判断される場合は、衆議院の議決を是認する。