八ッ場ダム事業評価の重要指標である
「基本高水」の妥当性検証に当って
・・・最近発生した3つの事例から・・・
埼玉県所沢市 河登 一郎
はじめに:
○半世紀にもわたって賛否の間で揺れ動いてきた八ッ場ダム事業は、2年前の「政権交代」で民主党新政権が「中止」を宣言したものの、政治主導能力不足のため、官僚ペースで(本体工事以外の)工事が続行されていることは周知のとおりです。
○その中で、ここ数か月の間に首記3点に関して特筆すべき内容と成果を伴う動きがありましたので、報告させて頂きます。これはダム建設の賛否以前の、民主主義の根幹に触れる問題で、国が大型公共事業を推進するために、@公開すべき情報を隠し、A公文書を偽造し!、B巨額の助成金で学者の良心を買って責任転嫁する・・・官僚の常套手段の実例です。
○なお、「基本高水」とは、「200年に一度の確率で想定される、基準地点における最大洪水水量」のことで、この数字を実態より大きく想定すると、ダム建設が正当化されます。
1.国交省に対する情報開示請求訴訟で東京地裁の開示命令判決(2011/8月);
(1)八ッ場ダム訴訟弁護団が、国交省に対して行政文書(流域分割図と流出モデル図)の開示請求をした裁判で、裁判長は、原告側の主張を全面的に認めました。画期的な判決です。即ち、
@
国交省の情報不開示部分を取り消す、
A
原告に対して、本件に関する行政文書の関連部分の情報を開示せよ(義務付け判決)
(2)この判決の中で裁判長は、「ダム建設地が想定できると、住民の混乱や一部の者が不当な利益を得る」という被告の主張に対して、「この情報では場所の特定はできず、不開示にすると、政府の説明責任という情報公開法の理念に反する。」と明快に指摘しました。
(3)8月15日大畠国交相は「本件は控訴しない。行政文書は近々開示する」と発表しました。行政側と同じ資料が入手でき、ダムがムダであることが民間ベースでより説得力ある検証が可能になります。
2.公務員による「虚偽有印公文書作成・行使」に対する市民の告発(2011/6月);
(1)八ッ場ダム差止訴訟の中で、さいたま地裁から調査依頼を受けた国交省担当課長が、回答作成にあたり、虚偽内容を含む公文書を作成して課長印を捺印の上さいたま地裁に提出していたことが、H22/10自民党河野議員の質問に対する馬淵大臣の答弁から明らかになりました。
(2)同課長は、ダム上流に大雨が降った場合の「飽和雨量(山から流れ出すまでの雨水量)」が、一律48o(禿山並み)とさいたま地裁に報告したのですが、事実は森の成長と多孔質火山岩から、115o、125o、∞などの飽和雨量も用いて解析を行っていたのです。事実を報告すると過大な「基本高水」がばれ、八ッ場ダム建設の根拠がなくなるので「公文書を改ざん」したのです。
(3)国交省は、裁判を有利に進めるために<情報隠し>だけでなく<公文書偽造>まで実行していたのです。ダムに対する賛否以前の公務員による犯罪です。
(4)告発者は原告5名、告発先はさいたま地地方検察庁。
3.国交省への日本学術会議「回答骨子」に対する流域住民の公開質問(2011/7月):
(1)上記を受けて、馬淵国交相は利根川の基本高水(200年に一度の確率で想定される最大洪水流量)の再計算を、第三者専門家集団である「日本学術会議」に依頼しました。
(2)日本学術会議は、検討結果、国交省への「回答骨子」を公表しましたが、その内容は、学術会議自身が明快な根拠を説明できぬまま、国交省の重要政策である「基本高水22,000㎥/秒」を「妥当と判断」したのです。
(3)これに対して流域住民として二つの公開質問状を出しました。
@
一つ目は、この「回答骨子」に対する理論的な疑問(反論)と問題提起で、主要部分は弁護団長が執筆されました。
A
二つ目は、私の提起した質問に流域住民4名の参加を得て、素朴な観点から質問を整理したものです。
○日本学術会議は、政府から独立し科学的な評価に基づいて政策への助言や提言を行う第三者機関と考えていましたが、その実態は、組織的には総理所管、経費は国庫負担、膨大な研究費の予算や助成金・交付金・補助金の予算/配分に深く関与し、人事交流も含めて名実ともに政府機関そのものです。従って、「基本高水」の如き国交省の重要政策には、科学的には疑問があっても「おおむね妥当」と評価する仕組みになっています。そのことについてどのようにお考えですか。
○国交省の主張が科学的に疑問あるので「慎重な検討を要請する」と指摘しても国交省の「基本高水」を<おおむね妥当>と評価した後では、現実の行政に反映される可能性はないと思いますが、この点に関してどのようにお考えですか。
○国交省が主張する「基本高水」を<妥当と判断>すると、利根川上流に今後更に5〜10基ものダムを建設しないと治水政策が完結しない!という狂気の政策にお墨付きを与えることになります。これは日本学術会議として望んでいることではないと考えますが如何ですか。
B質問状に対する日本学術会議の回答は9月末に予定されていますが、形式に終わる恐れ大だと思っています。残念ですが、民主主義は日本に定着していません。