八ッ場ダムについて上田埼玉県知事に直訴しました
<・・・利水/治水に関する知事の責任感に賛同しながら、
無益有害な八ッ場ダム本体工事は中止すべき、
今からでも遅くないから君子豹変してと切望しました>
埼玉県所沢市 河登 一郎
埼玉県知事
上田 清司 様
平成23年11月20日 所沢市 河登一郎
冠省
前田武志新国交相の下、八ッ場ダム事業の方針決定が最終段階を迎えています。
私の本事業に対する反対姿勢は変わりませんが、以下、今まであまり強調されてこなかった視点を中心に問題点を整理し直してみました。中央官僚に対して鋭い批判をしてこられた上田知事には大いに共感頂けると思っています。
1.治水:
(1)治水が為政者の最重要課題の一つであることはご主張の通りだと思います。
(2)本件に関する最大テーマは「基本高水」ですが、私には専門知識が不充分ですから、
基本高水についての説明は省き、「事実」に基づくグラフを参考までに掲げました。台風や大雨は毎年複数回襲来していますが、戦時中の乱伐で山が丸裸だった昭和20年のキャサリン台風他を除き、基準地点(八斗島)での流水量はその後65年間の最大値で9,220㎥/秒です。国交省が主張する基本高水22,000㎥/秒や目標数量17,000㎥/秒は、過去65年間の最大実績の約2倍、まさに雲の上・机の上の空論であることは、グラフを素直に見れば一目瞭然です。200年のスパンで考えれば雨量が10,000㎥/秒を超えるケースは想定すべきですが、その大雨が都合よく八ッ場ダム上流に集中する保証はなく、どんな大雨にも対応できる河道整備や堤防強化で対応すべきです。この前提では利根川上流に八ッ場ダム級のダムを更に5〜10基も建設しないと治水政策が完成しないという狂気の政策であることを読み取って頂けると思います。
(3)国交省の一部官僚が危険性の過大評価が公になることを非常に恐れていることは想像に難くありません。それを隠すために彼らがやってきたことは、
@
情報隠し:実例は枚挙にいとまありません。本年8月には国交省に対する情報開示請求訴訟で東京地裁は原告の訴えを全面的に認め、明快な<開示命令判決>を下しました。国交省は控訴を断念し、行政文書は初めて開示されることになりました。
A
公務員による「虚偽有印公文書作成・行使」;
・八ッ場ダム訴訟の中で、さいたま地裁から調査依頼を受けた国交省担当課長が、虚偽内容を含む公文書を作成してさいたま地裁に提出していたことが、自民党河野議員の質問に対する馬淵大臣の答弁から明らかになりました。
・一部の官僚は、ダム事業推進のために<情報隠し>だけでなく<公文書偽造>まで実行していたのです。ダムに対する賛否以前の公務員による犯罪ですから、私たちは「虚偽有印公文書作成・行使」の廉で当該課長を告発しました。
2.利水:
(1)埼玉県の場合は「暫定水利権」の問題がありますので(→後述(3))、事務当局が安心して水需給計画を下方修正しましたが、それでも実績推移と比べて過大であることは一目瞭然です。今後の人口減、節水機器の普及、放射能対策としての地下水利用増によってこの傾向はより強まると思います。
(2)東京都の有名なグラフを参考までに掲げます。グラフを見れば説明は不要ですが、東京都は需給見直しを何回も実施した結果、実績と計画との乖離があまりにも大きいので、公表を見合わせています。これも情報隠しの一環です。
(3)暫定水利権:
@ 知事が為政者の責任として「暫定では不安」が残る、あくまでも「安定水利権」を求めるお気持ちには共感できます。
A 国交省官僚の悪辣さはまさにこの点にあります。「暫定では不安」という為政者の責任感を人質にとって、事実上安定である権利を「暫定」と称して八ッ場ダムへの参加を強要しているのです。私たちが「事実上安定」という根拠は以下の通りです。
・埼玉県の水道権は、夏場は農業用水の転用として認められていますが、冬場はその転用だから「暫定」と位置づけられています。
・一方、冬場の流水量は夏場の6割程度ですが、取水量は3割程度に激減しますので、冬場の取水は過去長年安定的に継続していますし、全国的にもダム中止後の暫定水利権は安定的に継続しています。
・つまり、暫定水利権は実態上安定水利権と変わらないのに、ダム推進の方便として「暫定」と称して知事の責任感を悪用していることにお気づき頂きたいのです。
B 埼玉県の過重負担: 埼玉県は、上記農業用水転用水利権の他に、冬期の水利権を確保するために、1㎥/秒あたり約70億円もの負担を強いられていることをご存知でしょうか。それでも「暫定」の文字を消さない国交省に対して、重複して八ッ場ダムの費用をほぼ東京都並に負担するのは公平ではありません。マジメな納税者として看過できません。
C 百歩譲って1000年に一度の大渇水の際、「暫定」を理由に供給を減らされる可能性を絶っておくことに異議はありませんが、それは八ッ場ダムに参加することではなく、水利権許可制度を実態に合わせて変更することの方が遥かに合理的です。
3.完成時期はさらに大幅に遅れ、建設費用は増額不可避です。
(1)ご存知の通り、本事業の当初計画では総経費2,100億円;完成時期2010年でしたが、その後2003年時点で、総経費が4,600億円に跳ね上がり、完成時期が2015年に再延長されました。上田知事は「経費の倍増と工事の大幅遅れは不愉快」と不快感を表明されましたが、当時、都県側から「2010年度完成が八ッ場ダム参画の判断材料になっており予定通りの完成を強く要請する。完成が遅れた場合、ダム参加が不要になることも・・・」と強く要請したことが記録に残っています。
(2)国交省は、最近、完成時期は更に3年遅れて2018年になると発表しました。私たちが現実的に今後の工程を積み上げますと、まず付替鉄道用地買収(難航中)→鉄道・駅舎建設→付替国道建設→現鉄道・国道廃止→ダム本体工事で、完成までに10年はかかる(完成は2020年以降になる)可能性が高いと想定します。「2015年までに完成せよ」は事実上意味のない要請で、参画の根拠だった完成予定が10年遅れるのであれば、埼玉県としても原点から見直すべきではないでしょうか。
(3)総経費は184億円増額になると国交省は示唆しました。私たちの試算では、追加費用が約100億円+水力発電量の激減によって数百億円と想定される「原電補償」も加算されます。起債金利を含めてさらに巨額の税金が浪費されます。
4.「水力発電に貢献」は単純なウソです:
(1)福島原発事故による原発への批判が強まっている中で、国交省は八ッ場ダムで水力発電が増える旨のPRに余念がありません。
(2)しかし、これは単純なウソであることは今や常識です。即ち、
(3)東電は現在既に吾妻川に水の半量以上を、導水管を通して下流までに6回も水力発電をしていますが、八ッ場ダムが完成すると、ダムに水をためるために大量の水が必要となり、水力発電に回される水量は現状より大幅に減ります。
(4)現に東電はダム完成の暁には「減電補償」を請求することになります。正確な数字は未定ですが、数百億円に上ると想定されます。
5.地滑り/岩盤崩落のリスクは多くの専門家や学者が指摘しています:国交省もその可能性を予定しています:
(1)ダムサイト自体の岩盤崩落、代替地の地すべりその他周辺地域での地滑りの可能性は既に多くの専門家や学者によって何回も指摘されていますので、ここでは省略します。
(2)仮に数年後に指摘通り大事故が起こって犠牲者が出た場合、責任者は不在です。奈良県大滝ダムの実例を見ると、住民の予言通り事故が生じた際、栄転を重ねた当時の責任者は「昔のことは忘れました」。
(3)国交省自身、そのリスクは充分承知していますが、万全の対策を講ずると予算の増額と工期延長が必至ですから、最小限の対策(航空写真で指摘された地滑りリスクのある22か所のうち対策をしたのは3か所:最近8か所追加)に止め、後は「<試験湛水>の様子を見て、必要な対策を講ずる」と言っています。その結果完成時期は更に数年遅れ、建設費用も更に増額必至です。
(4)費用対便益:・国交省の費用対便益試算では便益の方が圧倒的に大きい(3〜6倍)となっていますが、1回の洪水が上流・中流・下流で同時に起こるという物理的にありえない前提で損害額を計算しています。環境破壊/地滑り/岩盤崩落/財政破壊など負の便益を公平に加算すれば便益トータルとしてはマイナスの方が大きいと思います。今からでも間に合います。
6.「関東地方整備局による検証」は茶番:
(1)国交省の「今後の治水のあり方を考える有識者会議」は、本来「できるだけダムに頼らない治水/利水」への政策転換が目的でしたが、
(2)その実態は、水需要予測及び基本高水/目標流量が前述のように現実と大きく乖離しているという大前提の検証を全く行わず、富士川からの導水など全くあり得ない代替案と比較して「八ッ場ダムがベスト!」は冷静な批判に耐えません。
(3)今般約80名もの良心的な学者が「公開の場で、真に科学的な検証を」という声明を発表されました。これは八ッ場ダムだけの問題ではありません。<一握りの権力と利権が密室で決める>構造を根本的に変えないとこの国に明るい未来はありません。
今からでも間に合います。今までの投資は基礎インフラとして活用し、全体として有害で危険なダム本体を止めるだけでも充分有意義です。
上田知事、「君子は豹変」して頂きたいと切に希望します。
以上