景気条項という起爆剤
(景気条項により消費税増税を凍結することを公約に総選挙を戦う政治家がでるかもしれない、
ということに関して)
千葉県柏市 峯木 貴
1.景気条項とは
今般提出された消費税増税法案には、景気条項といわれている「消費税率の引上げに当たっての措置(附則第18条)」という条文が追加されている。
内容をかいつまむと、以下のとおりである。
第1項
平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
第2項
施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。
明確に数値目標が入っていて、その目標に届かなければ、消費税増税は行わない、という内容であるが、1項の最後はあいまいな表現が羅列され、どうにでもとれるような内容となってしまっている。条文の解釈の方法により、消費税増税直前に一時的に大型公共事業を乱発し、景気の瞬間風速を上げる、という本末転倒を行うのではないかということも懸念されている。例えば、自民党の提案した「10年で200兆円の公共投資」は期間が短すぎ、額も小さすぎるため、一過性に終わってしまう可能性がある。この大型公共投資については賛否両論があるが、ここでは踏み込んで論議しない。
2.不景気に増税すべきではない
GDPの数値目標の名目3%、実質2%も非常に怪しい数値で、それ自体が超低成長なのである。それもリーマンショックのような特殊事情を除くというから、ますます低いことになる。したがって、昨今のような低い経済成長下でも消費税率を増税できる、というのも附則18条の解釈の一つである。
税率を上げるのは、景気が過熱気味の時であって、それを抑制するためのものであることは、高校の教科書にも書いてある。だから、不景気の時に税率を上げるとどうなるかは、容易に想像できる。景気が過熱気味というのは、連鎖的に投資が投資を生むようなことであり、いわゆるバブルといわれる状況である。先に示したように、一時的に公共投資を増やして経済成長率が瞬間風速的によくなるのとは全く異なる。
景気が過熱気味の時、政治家は「愚人」になってしまうようである。教科書に書いてあるくらいのことは政治家は分かっているはずであるが、いざその時(好景気)が来るとなかなか税率アップに踏み切れない。多分、国民の多くが、せっかく景気がいいのだからそれに冷や水を浴びせるようなことはすべきではない、と考えるからだろう。(そもそも景気が良くならないのが問題の根本だ、と考えている人もいるかもしれない。景気浮上について秘策があるが、それは別の機会に論じたい。)
そうなると政治家は、増税に踏み切れない。躊躇しているうちに増税のタイミングを逸してしまい、景気が下降状況になったときに増税してしまうこともある。
そこで、必要なのは「賢人政治」であるかもしれない。景気が過熱気味の時は、国民の反対を押し切って税率を上げ、景気を冷やす必要があるからだ。
景気過熱についてあれこれ考えるのは、今となっては杞憂であるかもしれない。今後景気が過熱しバブル経済になる、と考えている国民は皆無であろう。ここ20年間まったく鳴かず飛ばずの状況である。過去2回のバブル(高度成長時代とバブル経済時代)を経験した人も多いと思うが、今の日本の若者はバブルというものを全く経験していない。
3.総選挙の争点は消費税増税の賛否?
ところで、過去、消費税増税に反対して当選した議員をたくさん輩出した時期があった。政治家はその味が忘れられずに、近々あるだろう総選挙にあたり、附則18条(「施行の停止」という言葉が入っている。)を盾に「消費税増税凍結」を公約に立候補することは、十分に考えられる。例えば、明確に消費税増税反対、と連呼する人もいるだろう。また、景気が浮上するまで消費税増税反対、という人もいるだろが、こちらも連呼しているうちに消費税増税反対、となってしまうかもしれない。
現時点では、国民の間ではあきらめムードで消費税増税を受け入れる風潮があり、経済評論家といわれている人々がそれを焚き付けている状況である。しかし、のど元過ぎた後、国民は目が覚める可能性がある。例えば、既に公明党の支持母体である創価学会の末端の信者は、消費税増税反対運動をしている。
そうなると、連鎖反応的に消費税反対派が増えるかもしれない。その時、消費税増税は必要だと説く候補者は現れるだろうか。